82:体育祭~序~
サブタイトルは「なんかかっこよくない?」と思って付けただけです。
【男女別100m走】の結果から説明するなら、気合十分の健一がなんと1着!そして女子の湊は前評判どおりの活躍で、2着と大健闘。そんな周りの順位に多少のプレッシャーを感じつつも廻ってきた俺の番……結果は―――
「へぇ、黄団の陸上選手を差し置いて1着でゴールなんて、さすがだね!!」
先に滑走を終えた黄団の【参謀】兼【生徒会長】である長束京都先輩は、走り終わった俺を見て苦笑い。……1着……いや、俺としては自慢じゃないけど当然の結果。
なんせ―――
「”逃げ足”だけは速いんで」
「?」
無用な騒乱事から避けてきた賜物とでもいうべきか……この目つきのせいでやたらと不良連中に絡まれる事が多く、あまりに面倒な場合は、文字どおり”逃げていた”。おかげで無駄に脚力が付いた結果が、この順位に反映されているといっても過言じゃないと思うが……まぁそれこそ”自慢になることじゃない”。
まぁそんな事なんて知る由もない京都先輩は「ん?」と小首をかしげているが、説明する必要もない。いや、したくないと言ったほうが正しいか……。
「京都先輩も速いですね。何気に同じ場所(1着)ですし」
「まぁね、生徒会長というのは頭だけじゃなくて身体能力においても生徒の模範になるべきだと私は思うのだよ!」
なるほど、一理ある。
「それに美人だし!!」
それは余計な一言だと思ますよ京都先輩……。
――――――――
さて、俺と京都先輩の会話を羨ましそうに傍観(というよりも睨んでいる)健一は放っておくとして……
「ユキはずるいぞ!綾館先輩に限らず生徒会長の長束先輩まで手を出すなんてっ!!」
……これを放っておいたら後々、俺に対する周りの評価が下がってしまう可能性”大”だな。ってか手を出した覚えなんて全く以って”無い”。嘘を言うな嘘を。
第一、そんな嘘なんて誰も信じるはずは無いのだが、俺の知る中に一人だけそれを信じて勝手に暴走する人が―――
「ユキぃ!愛人など絶対許さんからなっ!!」
言わんこっちゃない。やっぱり現れたか美雪さん……って、
「大声で無い事ばかり言ってんじゃねぇ!愛人どころか彼女だっていねえし!!つか、どこから涌いて出た!?」
「何を言う!私は綾館美雪だぞ!!」
「まったくもって理由になってねえよ!!」
≪あ~綾館副会長、彼氏とイチャイチャするのは競技後にお願いします~≫
場内アナウンスにより、生徒はおろか保護者・関係者までが爆笑。「彼女じゃねぇし!!」とアナウンスに向かってツッコミを入れて、後悔……。いや、美雪さんに対してではない。爆笑の”第2波”が起こり収拾がつかず、そのせいで競技が一時中断するという前代未聞の珍事まで引き起こしてしまったのだ。
……そうだ!こういう時にとっさの”機転”で生徒会長の京都先輩が何かやってくれるはず!!と期待して顔を向けたのだが、誰よりも腹を抱えて笑っていた。
畜生、こんなときに役に立たねぇ…………仕方ない―――
「ふぐぁ!?何で?何で俺が殴られるのっ!?!?」
元はといえば健一のせいだろが!!!!
→→
再び競技が再開したのは10分後のことで、俺に向けられた色んな(嫉妬・好奇・羨望?)視線が痛い……この珍事を引き起こした健一にはそれ相応の”報復”済みだが、拡大化した要因である美雪さんは「当たり前のことを言って何が悪い!」と開き直り、アナウンス役の生徒からも謝罪は無かった。
応援団席に戻り様々な視線に耐えながら再開した競技に目を向けている俺は、周りの目から見て「堂々としてるよな」なんて思われているんだろうか?
そんな事を考えている最中に、トコトコと近づいてくる影一つ……。
「ユキ、面白い漫才でしたわ」
「いや、そんなつもりないし……って、なんすかリリナさんの”格好”は!?」
銀髪・白肌が太陽に晒されてなんとも見目麗しいリリナさん登場!……だが、その格好は明らかに”学校”の、まして”体育祭”には不釣合いの黒いメイド服(白フリ付き)。当然、視線は集中的に俺の方に向けられる。
「まぁ一応は”高校生”なのですが、やはり私の正装といえば……ねぇ?」
いや「ねぇ?」と言われても……。周りからは「おい、あれってマジもんのメイドか!?」だの「うわっ、めっちゃ萌え~」だの「リリナたんハァハァ……」だの……って、明らかにキモい奴が混じってる!?
まぁそれだけならまだ良いほうかもしれない。なんせ「おい、あいつメイドにまで手ぇ出してんのか」だの「氏ね!いっそ死ね!!」だの、俺に向けられた台詞は罵声ばかり……。
そもそも”高校生”のリリナさんが「正装だから」とメイド姿になるのは如何なものか。
「そんなことより、素晴らしい脚力でしたわ。美雪が一目惚れしたのも納得できます」
「足の速さだけで!?というかリリナさんは競技には参加しないんすか?」
「私が参加したら”とんでもない結果”になりますわ。ふふっ」
怖くて先が聞けねぇ……
「そうそう!私も別に正装だからという理由でこの姿になっているわけではありません。なんでも【借り物競争】とやらで「私が必要だから」とこの姿にされたのです」
……そういや、1ヶ月ほど前に生徒会の”仕事”とやらを手伝っていた際に、京都先輩が「やっぱり【借り物競争】は派手でなくちゃ!!」と言ってた気が……。つまりリリナさんは、そんな京都先輩にとって”うってつけ”の人材だったってことか。お可哀想に―――
「まぁ私もこういう催し物には参加した経験がありませんので、緊張しているのです。そこでユキに相談なのですが……」
「待て、そういうことは俺でなく美雪さんに相談すればいいんじゃ―――」
「美雪も「姉さまは楽しんでくれるだけでいい」と言ってくれたのですが、どう楽しめばよいのかと訊ねたら「うむ、そういう相談事なら私ではなくユキに聞いたほうがよい」と言ってたので―――」
なるほど、俺に”丸投げ”して逃げたって事か。それにしても、丸投げされたほうはプレッシャーだぜ美雪さん!リリナさんは真剣に相談を持ちかけてきたわけだし、さて、どう言えばいいんだろう?
「あ、リリナさん(メイドver.)にゃ!」
「相澤ってどこに居ても人目を引くよね」
「……(こくり)」
失礼な!俺が人目を引いてるんじゃなくて俺の”周り”が人目を引くんだぞ如月。
とはいえこういうとき、俺にとっての数少ない(?)女友達ってのは救世主に見える!!結城・如月・湊に丸投げだ~ぃ!!
「マジでナイスタイミングだ!なんかリリナさんが折り入って”相談”したいことがあるらしい」
「にゃ?相談事なら任せろにゃん!」
「私らでよければ……」
「……(こく)」
「実は……」と3人に相談しているリリナさんは、時々質問したり頷いたりと、真剣に耳を傾けている。数分の後に「なるほど、御三人様の言われるとおりです!」と納得し、清清しいまでに爽やかな笑顔を残して美雪さんの居る青団の応援席へと帰っていった。
そしてなぜか、その爽やかすぎるリリナさんの笑顔に、俺は根拠の無い”不安”を抱いていた―――
文章通り、次話は”リリナさん”が活躍する【借り物競争】です。そしてユキの”不安”とは?
お楽しみに~!!