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79:体育祭前日

 これってコメディー小説なんですよね……最近まったく、コメディー要素がないことを危惧しております。

 ……いよいよ明日である。泣いても笑っても、これが美雪さん達3年生が迎える最後の【体育祭】。

 けど、俺にも負けられな理由がある。それが先輩達の最後の体育祭であろうと……。

 私利私欲のために頑張るというのは、理屈抜きに優勝したいと思っている他の学生には申し訳ない。だけど……それでも―――


「俺は、貴女には負けたくないんですよ……勝って、貴女に想いを伝えたいんです……美雪さん……」


 自分の部屋……夏休みにみんなで撮った、綾館家別荘地で笑っている集合写真……屈託のない笑みで俺の隣に”居た”想い人に目を向けながら、返ってくるはずのない言葉を口にした。




⇒⇒⇒




 体育祭を前日に控えた今日は土曜日。普段なら休日ということもあってほぼ無人であるはずの学校が賑やかなのは、やはり体育祭前だからだろう……。

 本来なら今日は「休養日」だが、本番に意気込む生徒の行動を黙認してか、教師陣もグラウンド・教室・体育館を開放し、自主的な練習も容認している。

 河南も紫団の応援団長として「土曜日は休みに充てる。無理はしたくない」と言っていたのだが、先輩の九翁さん(男)、後輩の門司(男)、同輩の長安さん(女)の各学年リーダーの有志により、最終調整と称した練習が始まっている。


「マスゲームはほぼ完璧だが、まだまだ気は抜けねえな……」

「……ああ。だが、それは他の団も変わらんだろう」


 団結力という点では、紫団はどの団よりもまとまりがあるだろう……。ただし、団結力が上だからといって「技量」・「個人」・「総合」点が上だとは限らない……。事実、美雪さん・桜花さんの率いる青団や、生徒会長の京都先輩がいる橙団も、虎視眈々と優勝という成績を狙っている。


「まぁ”相手さん”も簡単には勝たせてはくれんだろう」

「……だからこそ、面白いじゃないか……」

「ほぉ……相澤からそんな言葉を聞くとは思わなかった」

「……正直、俺は優勝しようがしまいが関係ない。ただ、みんなが頑張っているのなら、俺は俺の出来る限りで頑張る……きっかけなんて、所詮は自分の行動次第だって気付いたからな……」


 家を出る前、みんなで撮った”集合写真”に視線を向けながら考えていた……。紫団の人間で俺の本心を知る人間は、河南と結城・如月・湊しかいない。他の団員は、ただ純粋に「優勝したい」と思って頑張っているのだ。

 そこに俺の私的な感情を持ち込むのは、利害が【優勝する】ということに一致しているとしても、俺自身が納得できなかった……いや、したくなかった。

 考えが甘かったのだ……体育祭で優勝することは、個人プレーだけじゃ出来ない。みんなが一丸となってこそ、優勝というゴールが見えてくる。優勝できなかったからといって他を責めるのは、愚者の思想だ。ならば俺自身はどうするべきか――――


 ”他に頼るな、自分自身でチャンスは掴め!”


 俺の導き出した答えだ……。事実、美雪さんは己の本心から俺を求めてくれている……たぶん。ならば俺は美雪さんのように、自分自身の力で、自分の本心を伝えなきゃいけない。

 そこに他人の力を必要としてはいけない……そう思っている。


「俺にとって優勝は二の次だ。けど、今はみんなが頑張っている……俺に残された時間はいくらでもあるから、俺は今、自分の持てる力を、みんなのために使いたい」

「……いい顔だ。これで本当に、紫団は団結したな」


 切れ長の双眸をより細め、一生懸命に練習する他の生徒に視線を移しながら、河南は微かに口角を緩め、笑った。


「……優勝できるといいな」

「バカを言うな、優勝できるといいんじゃない……【優勝する】んだ」

「えらく気合が入ってるな……」

「当たり前だ。俺の異名を知っているか?」


 今度は歪に口角を吊り上げた河南。それは【嶺桜の情報屋】の異名を持つ、天才軍師の顔だった。




⇒⇒⇒




 夕方ともなれば、真昼の暑さも和らぎ始める時間帯……心地よい疲れと共に我が家へ差し掛かって気がついた。


「あれ、これって―――」


 普段はまったく使われていない車庫に、見覚えのある車と、見覚えのある単車……一方は俺の知り合いの単車であり、もう一方は―――


「ただいま~」

「お帰り由希!」

「おう、お帰り」

「よう相澤!」

「ん」


 やっぱし帰ってきたのかマイペアレンツ(両親)。つか獅子神さんまでいる。


「おう、明日はいよいよ体育祭だろ!?アタシも料理の勉強してきたから、今日は相澤にスタミナのつく料理を振舞おうと思ったわけよ!!」

「……あぁ、道理で……」


 ニコニコ顔の獅子神さんと、テーブルに盛られたいかにも「スタミナ満点」の料理……そしてリビングの片隅から覗く、台所の異様な残骸……。


 獅子神さんお手製の「スタミナのつく料理」を堪能したあと、台所の焦げたなべ、生臭い流し台、床に飛び散った油を掃除することにスタミナを消費……結局はプラマイゼロ……。いや、疲れが倍増した分だけマイナス……か?

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