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76:バカは知名度を上げ警備は脆さを露呈した

 体育祭の練習が本格化し、各学年の体育の授業も”体育祭”の一色に染まる9月の半ば……。まだ残暑厳しい昼下がりのグラウンドで、俺たち2年生は―――


『……』


 無言で【男女合同ダンス】の練習に勤しんでいた。まぁ、正直気乗りしない授業である。

 なんでクソ暑い中でダンスなんぞをせにゃならんのか……なんて大半の同輩達は思っているだろう(俺含む)が、若干一名のハイテンションバカは、表情が緩みっぱなしである。もちろんバカとは健一のことだ。

 「お近づきになれるチャーンスっ!!」と鼻息荒く授業前に口にしていた健一は、やはり練習開始時からテンションが高かった。なにせ【嶺桜】は元女子高で、俺が進学する10年ほど前に共学化したばかりだから女生徒が断然に多い。

 つまり健一にとっては数多くの【出会い】とやらが待っていると意気込んでいたのだろう。まぁ今年の女子は美人度が高いらしい(河南調べ)ので、張り切る気持ちが微妙にわからなくもない……。


「お姫様、お手を拝借……」

「は、はぁ……」


 テンションの高さに比例して、音楽が変わる度に女生徒に何か一言アドリブ台詞を加える健一は、傍から見ても”イタイ人”だ。それに俺は見逃しちゃいない……戸惑いながらも健一の手をとった女子達の「こいつウザぃ」的な一瞬の表情から心理を読み取るに、バカはきっと知名度を飛躍的に上昇させたはずだ(悪い意味で)。

 そして―――


「如月、俺とダンスを楽しまないかぃ?」

「ウザい」


 けして口にはできなかった女生徒の”本音”をぶちまけた如月も、彼女らの間で飛躍的に好感度を上げたに違いない。




⇒⇒⇒




 時は過ぎ、放課後。団体練習の【マスゲーム】も一週間を過ぎた今では、多少のミスはあっても一通りの形に仕上がっていた。それとは別に、俺ら【応援団】の演舞も、なかなか様になってきている。

 今は全員が”体操着”で練習しているものの、本番では”学ラン(オリジナル要素多数)”を着用しての演舞となるわけで、そのことも念頭に入れておかねばならない。

 ちなみに学ラン(多量の刺繍入り)に関してだが、これには”とある人物”が大活躍してくれた。


「うぃっす~!」


 【体育祭衣装関係者】の肩書きを使い(京都先輩が取り計らってくれた)、堂々と学校に入ってきた人物は、俺が初めて逢った時のような衣装【特攻服】を身に纏い、颯爽と、そして気軽な挨拶で練習用ステージの前までやって来た。


「お疲れ様です獅子神さん!今日はどしたんすか?」


 本職は町工場の事務員・趣味は単コロ(単車ころがし)の頼もしき【姉御さま】こと、獅子神紗姫さんである。


「”おやっさん”が「サンプル出来た」つってたから、持ってきた」


 「ほらっ!」とばかりに渡された紙袋には、応援団20人全員の衣装のイラストが入っていた。一見すれば簡単そうに描かれているが、一人一人の身長や体型を細かに分析し、かつ自分たちが要望した模様・刺繍なんかも事細かに記されている。


「わざわざすみません」

「いいってことよ、おやっさんも「久しぶりにいい仕事が出来そうだ」っつって張り切ってたから、アタシも紹介した甲斐があったってもんだ!あっはっは!!」


 豪快に笑う獅子神さん。ちなみに獅子神さんの言う”おやっさん”てのは昔ながらの【仕立て屋】で、主に学生服を専門に扱っているのだが、趣味で制服の【改造】をやっているとか。獅子神さんの持っている特攻服も、その”おやっさん”が仕立てたものらしい。

 それはそうと―――


「姐さん、今日は”出入り”っすか?」

「あほっ!とりあえずモデルがいたほうが、演舞での参考になるんじゃないかって思って着てきたんだよ!だから中はほら、事務服」


 あぁ、なるほど。てっきり特攻服を着た状態のままで学校に入ってきたのかと思った。まぁその時点で警備員のおっさん(定年間際)につかまるだろうけどな。


「つか、この学校の警備ってザルじゃねえか?この格好で入っても何にも言われなかったぜ」


 その格好で学校に入ってきたの!?おっさん、このままじゃあんたクビになるよ!

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