75:畏怖される俺(不本意)
短いです。
つい3日ほど前に起きた一件(俺が成り行きで後輩をシメた件)により、俺の学校生活環境は大きく変化していった。
まず第一に、後輩から挨拶されるようになった(ビビリながら)。
第二に、先輩から敬語を使われるようになった。
そして第三に、一夜にして広がった俺の一件が全生徒の知るところとなり、基本的に交流のある生徒(美雪さん達とか同じクラスメイト)以外の前を通ると、必然的に静かになる。
どれも自慢にならないことばっかだ。ちなみに(仕方なく)シメた後輩の門司って奴についてだが―――
「お疲れ様っす相澤先輩!あ、かばんをお持ちするっす!!」
なんか、えらく懐かれた。そんな話を美雪さんにしたら「よかったではないか、ユキもついに舎弟を従えたのか!」と、感心された。従えたつもりは毛頭無いんだが……。
まぁそんなこともあってか、俺たち紫団は妙に団結が早かった。たぶん河南が俺を理由に脅しをかけたからだろうが……。
俺たち応援団の人間は【演舞】ってやつをするのだが、それ以外の紫団の生徒は【マスゲーム】をやることになっている。【マスゲーム】ってのは、音にあわせて大勢の人間が文字とか模様とか作るアレだ。一人が間違えたら全部がおかしくなるので、案外難しい(俺は経験済み)。
ただ、まぁ……
「間違えたら相澤が来るから」
俺を理由にした河南の言葉を聞いた団員たちは、恐怖心から一生懸命練習をするようになり、中には授業終了直後や昼休みなんかにも、自主的に練習に励む紫団の生徒が増えたとか。おかげで全体練習は他の団よりも格段に上達したらしい。
そのことを聞かされた俺の心境は複雑だったが……。
他の団員が一生懸命に練習する中、俺たち【応援団】の人間も、体育祭で披露する【演舞】の練習に忙しかった。それに、本番で着る衣装なんかの採寸やらデザインやらを決めなきゃいけなかったりと、俺が今まで経験したことの無いことばかりで、帰宅するのも日がとっぷりと暮れてから。
疲労感に苛まれつつも家に帰宅し、玄関を開けて「ただいま」と凜に声をかけるのだが―――
「お帰りユキぃ~!!」
返ってくるのは血縁関係が一切無い女性の声と、鼻をくすぐるよい匂い……。
それもそのはず。俺を迎えてくれるのは、自称【ユキの嫁】を豪語する美雪さんと、セットで付いてくるリリナさんと、その手料理。
生徒会(臨時)役員の」一件以来、リリナさんは毎日のように我が家で手料理を振舞ってくれる。ついでに洗濯物とか掃除とか、家事一切もやってくれてる。ありがたいことこの上ないが、申し訳なさも比例する。本来であれば俺がキチンと家事一切を仕切んなきゃいけないのだが、体育祭の現状(練習)で疲労感が半端ない俺は、どうしても甘えてしまっている。情けない……。
「ユキ、一緒にお風呂する?それともベッドで私と寝る?」
「夕食にする……」
疲れゆえにツッコミすらままねぇ……。