72:《見返り》の解答?
生徒会(臨時)役員………すなわち雑用としての登用が決定した俺。翌日からは授業を終えた放課後から、正規役員の同輩・先輩に混じって雑用に徹する日々が始まった。
「こっち人数分コピー頼む!」
とか
「おーぃ、前年度のデータ出してくれ〜!」
とか
「ユキぃ、愛してる〜(はぁと)」
とか。……いや、明らかに最後は違う。つか美雪さん、どさくさに紛れて変な事言うな!視線が一気に俺に向けられてんじゃねーか!!
とまぁ美雪さんはテンションが高い!……いや、この人のテンションが低いところを見た記憶はほぼ無いに等しいが、いつも(我が家に侵入してる時)以上に、だ。
喜んでくれるのはなによりだが、その前に「巻き込んで悪かった」くらいは言えよ……。
⇒⇒⇒
会長・副会長・書記・会計・補佐の五人という小数ながら、精鋭揃いの生徒会は仕事も的確かつ速い。俺が臨時(雑用)に任命されて一週間も経たないうちに、大まかなプログラム・運営は決定した。
「いやはや、相澤くんお疲れ様!キミのおかげでスムーズに仕事が終わったよ、ありがとう!」
なんて京都先輩(会長)は言うが、実際は俺なんて必要なかったと思う。まぁ役立ったんであれば、何も言わないが。
「さてと、相澤くん」
「なんでしょうか?」
「約束の《ご褒美》なんだけど」
あぁ、そういやそんな事を言った覚えがある。まぁ“食わせ者”である京都先輩を困らせたかっただけなんだがな。
さて、何をくれるのやら……?
「じゃじゃーん!《栄大》の商品券五千円分!!」
《栄大》……?えいだい……えいだ……えい……だ……!!!!!!
「《栄大》ってスーパー栄大ですかっ!?」
「もち!ってか、食いつきがすごくない!?」
スーパー栄大って、俺の行きつけのスーパーマーケットじゃねえか!鮮度良好・品揃え豊富・安心価格の三拍子が揃った、主婦(夫)の味方のスーパー栄大! しかも商品券五千円分だとぅ!?
「で、でもなぜ俺の行きつけのスーパーの商品券を?」
「いやいや、よく知ってるよ!タイムセールでは並み居る主婦達と対等に渡り合う実力の持ち主だって事も!」
誰だそんな情報を京都先輩に教えたのは!……いや、おそらく美雪さんか。
「京都、貴様はユキのストーカーか!!」
おい、どの口がそんな事を言ってんだ?京都先輩がストーカーなら、美雪さんは一体なんなんだ?
ん、待て……ってことは、美雪さんが情報提供者ではないな……。けど、他に俺のプライベートに詳しい人間に心当たりなんて皆無だが―――
「いや〜、いつもうちの“スーパー”をご贔屓いただきまして、誠にありがとうございます!」
―――は?今、なんつった?“うちのスーパー”って言ったよな??
「スーパー栄大は、私ん家の親が経営してるんだよ!」
つまり―――
「「ええぇぇっ!?!?」」
―――寝耳に水ってヤツだった。
⇒⇒
スーパー栄大:経営者《長束敏行》。まさか《主婦の味方》の身内がこんなところに居ようとは!
京都先輩の父親がスーパー栄大の経営者だとは、夢にも思わなかった俺。京都先輩は名前が名前だから、どこかのお嬢様だと思ってた。
「相澤くんが求める《見返り》ってのを考えてたら、ふと思い出したんだ。美雪が「ユキは妹と二人暮らしで家事を取り仕切ってる」って言ってたのをさ。それに、よく防犯カメラに映ってるのを見た事があるからね。で、もしやと思ったんだよ!」
うぅむ……推測だろうが、なかなか鋭いところを突いてくるな。さすがは京都先輩、だてに生徒会長を務めちゃいないか。
とはいえ、だ。たしかに商品券五千円分は魅力的だが、俺は別に見返りなんて要求する気持ちなんてサラサラ無いんだよな。
「京都先輩、今更なんですけど、俺は見返りを要求するつもりなんて無かったんです。ただ先輩の思惑通りに事が運ぶのが、何となく気に障っただけなんで、口から出まかせだったんすよ……」
それに、仕事といっても単なる雑用だったし、見返りを要求するような手伝いをしてきたつもりもないし。
「あれ?まさかの辞退!?ま、相澤くんらしいけど、ここは素直に貰っとくべきなんじゃない?」
「せっかく持ってきたんだし!」と付け加える京都先輩は、俺の掌に商品券を乗せてニッコリと笑った後で、こう言った。
「常連さんを大切にするのは、私であり両親のモットーなのよ!」
先輩は、張り切って父親の後を継ぐようだ。どうやら《主婦の味方》であるスーパー栄大も、将来安泰らしいな。実にありがたい事だ!
こうしてありがたく商品券を戴いた俺、それはそれは帰り道もスキップでいけそうな位にテンションが上昇中。
だが―――
「ユぅ〜キぃ〜……物で釣られるとは、妻として恥ずかしいぞ!!」
今回は影が薄かった美雪さんのテンションは下降中。
そして誰が妻だ!!!!