71:学校生活再開、なぜに連行!?
夏休みが終わりましたね(一部を除き)。こちら(ユキ達)も、学校生活が再開しました。
休みが明けた。再び始まった学校生活の初日から、いきなりのテストというのは如何なものか、なんて思う生徒達(俺含め)。
そんなことなんて気にしない、なんて感じなのは教師だけだろう。
まぁテストといっても「夏休みの宿題」から出題される問題ばかりなのでさほど気にはならないが、自分で考えるでもなく他者の宿題を丸写しした連中の顔色が悪くなったのは、言うまでもない。
半ドン授業のテストも終わり、宿題を提出した俺。後は帰るばかりである。
「ユキぃ♪待ちくたびれたぞ!放置プレイは私の性格に合わん!」
2年学舎通用口から外に出た途端、仁王立ちで俺の前に立ちはだかった一人の先輩。
言わなくてもわかるだろうが、美雪さんである。
美雪さんの台詞に少し語弊があるので訂正しておくが、俺は一言も「待っててくれ」とは言ってない。あと「放置プレイ」ってなんだ?
「待たせた覚えもなければ待っててくれと言った覚えも無いんですが」
「何を言う!私はきちんと聞いたぞ!ユキが「学校が終わったら玄関で待っててください」と言ったのをっ!!」
「……どこで?」
「夢で」
いっそ病院を紹介したほうがいいんだろうが、これで《通常》なので質が悪い。なんだ夢って!
まぁよくはわからんが、俺を待っていた事には変わりない。じゃあ「一緒に帰りますか?」なんて言葉を口にする前に、美雪さんから言葉が出た。
「生徒会権限により、相澤由希を生徒会室へ連行する!」
連行?と言いかけて、俺は体格の良い男子生徒に取り押さえられ、わけもわからず生徒会室へと連れて行かれることに。
→→→
「やぁやぁ相澤くん!ご足労いただいてすまないね!」
重厚な扉を開けた先で、我が嶺桜高校生徒会長の長束京都先輩に出迎えられた。
金髪で左目が青い京都先輩は、ハーフではなく純日本人である。ようは染髪・カラーコンタクトで雰囲気が外国の人っぽいだけ。
正直な話、連行されるような悪いことをしているわけでもなければ生徒会役員でもない俺にとって、京都先輩とは全く接点が無い。 だからこそ、連行された理由を純粋に知りたかったんだが……
「実は美雪が相澤くんにかまけてばかりで仕事が進まないんだ。来月には体育祭も控えているし、やることが沢山でね。キミに来てもらったのは、《生徒会臨時役員》として私達の仕事を手伝ってもらおうと思ってのことなんだ。相澤くんが手伝ってくれるなら、私達も助かるし、美雪も逃げないだろうからね」
……聞かなきゃよかったと後悔。要は「キミのせいで美雪がサボってばかりで仕事が進まないから手伝え!」と言われてるのだ。
なんだか腑に落ちない理屈をこねられてる気もするが、まぁ責任が無い……というわけでもない。
もとから美雪さんがきちんと仕事さえしてくれてれば、こんな理不尽なことを言われることもなかったんだがな!
ただ、俺も自分の事(主に家事)がある。「はいそうですか」と簡単には協力出来な――
「そうそう、相澤くん家は御両親が共働きだから、キミが主に家事をしてるんだよね。でも心配は無用だよ、何せ美雪のお姉さんがキミん家の家事一切を引き受けてくれたんだ」
――くはない。道理でリリナさんの姿が見えないわけだ。
ようするに、俺が協力する事を前提として話を切り出したってわけで、後は俺が「わかりました」と返事をすれば、京都先輩のシナリオ通りに事が運ぶって寸法……。
さすがは生徒会長を務めているだけのことはある。とんだ《食わせ者》だ。
まぁ素直に京都先輩の話に首を縦に振ってもいいわけだが、あまりにシナリオ通りに事が運ぶってのも、俺としては面白くない。
「わかりました。ただ―――」
「ただ?」
「俺にメリットが全くないんですがね」
少し理由(見返り)を臭わせてみる。ま、この辺りまでは京都先輩も想定済みだろう。
「生徒会役員って肩書は、後々の内申に好評価を与えるものだけど?」
「《臨時》に与えられる評価なんて、たかが知れてますよ?それに残念ながら実力至上主義なんで、内申なんてクソくらえです」
もちろん俺の言葉はハッタリ。実力至上主義なんて柄ではないが、内申なんて他者の勝手な評価で一喜一憂するよりは、実力で一喜一憂するほうがマシだと思っている。
さて、京都先輩は俺にどんな《メリット》を提案するだろうか?
「う〜ん……可愛い女の子を紹介とかはどう?」
「なっ!?京都、それはダメだ!ユキが他の女といちゃいちゃしている姿なんて見たくない!!!!」
俺が断る前に美雪さんが割り込んできたよ。まぁ仮に俺がその提案を呑んだとしても、京都さんが俺を納得させるような女の子を紹介できるとは思わないけどな。
「んじゃ、どういうメリットが良いの?」
「さぁ?自分で考えてみればどうですか?」
段々と京都先輩の顔色から余裕がなくなっていくのがわかる。俺としてはここらで妥協案の一つや二つくらい出してもいいが、相手は生徒代表の《食わせ者》である。
勝ち戦しかしないような人間に俺は容赦しない。
「う、うぅ……金銭的要求とか?」
「それは違反ですね」
「それじゃ、物的?」
「具体的には?内容にもよりますが」
「え、えぇっと……うぅん……」
勝ち戦しかしないような人間は、不意の出来事に対処できない例が多く、京都先輩はその典型的なパターンのようだ。
さてと、そろそろ解放してやるか。食わせ者とはいえ先輩だしな。
「まぁせいぜい考えといて下さい。生徒会長なら、それくらい簡単でしょ?」
「……キミ、案外意地悪だね」
「《勝ち戦しかしない人》よりは、幾分かマシだと思いますけど?」
この言葉には、さすがに驚いたらしい。京都先輩は苦笑しつつも俺と対峙して、深々と頭を下げた。
「気分を悪くしたなら謝る……ごめんなさい。でも、本当に手伝ってほしいと思ってる。美雪が認めたのなら、間違いないと思うから」
そんな中で、やはり美雪さんは誰からも信頼されていることが伺えた。
ま、素直にそう言ってくれたわけだし――
「……これから、よろしくお願いします」
九月一日、この日から俺は生徒会(臨時)役員として、学校生活をスタートさせた。
「ユキと毎日校内デ〜ト♪校内デェト♪♪」
そして若干一名は、無責任にノリよく歌っていた。 元々は貴女が真面目に生徒会の仕事をやってくれてれば、こんな事にはならなかったんですがね、はぁ〜……
ぼちぼちと、完結が近づきつつあります。もう少しのお付き合いと、これからもご愛顧をよろしくお願いします。