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70:夜空に咲く大輪の花

 学生さんにとっての夏休みも、今日で最終日ですね。この物語も、あと僅かとなりました。

 凜の指定通りに芦原神社に到着した俺を待っていたのは、艶やかな浴衣姿の女性陣と、俺同様に私服姿の男が二人。

 早い話が美雪さんとこの別荘ヘ行った、いつものメンバーだ。


「俺は今、猛烈に感動している!!神様ありがとうっ!!!!」

「「うるさいっ!!」」


 健一のオーバーすぎる声に叱責した俺と河南。声もハモったが、なぜか服装までもが似ている始末。

 まぁ野郎の私服姿なんて説明するだけ無駄に思えるので、女性陣の浴衣姿をちとばかし紹介しよう。


「相変わらず騒がしいわね、鎖に繋いでたほうがいいんじゃない?」


 トップバッターは女性陣唯一の良心というよりまともである如月舞。

 ショートカットされた髪はサラサラ猫っ毛で、黒髪に映える水色の浴衣姿がかわいらしい。


「………」


 続いては寡黙な百合っ娘である湊奏。長髪をお団子型に纏め、清涼感漂う白に薄紅の模様が入った浴衣を纏った姿は、いつものミステリアスな雰囲気から一転、実に色っぽい。


「ユッキー三日ぶりにゃん♪」


 普段は寝てばかりの猫っ娘の結城皐月は、黄に花柄模様のかわいらしい浴衣姿で、いつものストレートヘアを、今日はツインテールに。よく似合っていると思う。その証拠に「似合うな」って口にした途端、「だろ!」と、なぜか河南が反応した。


「ん」


 そして我が家の暴君……失礼、妹である凜は、ピンクにリアリティな髑髏の刺繍がアンバランスな浴衣姿。……その感性をどうにかしてほしいと願うのは、兄としての悲痛な想いに外ならない。


「たまには浴衣ってのも悪くないな!」

「あら、ユキも思わず見惚れてます?」


 メンバーでトップクラスのスタイルを誇る獅子神さんとリリナさん。獅子神さんは緋に鳳凰があしらわれた刺繍がとても似合っているが、なんとなーく「え?その筋の方ですか!?」と口走りそうになった。

 一方のリリナさんは、黒に赤い牡丹の花の刺繍が入っている浴衣を着て、普段の優しそうな雰囲気が、これまた「姐さん!」と言ってしまいそうになる程だ。 ただ、やはり双方ともに年上としての魅力は他のメンバーに比べて群を抜いており、大人の色香が漂っている。


「ユキ、どうだ?似合ってるか!?」


 ラストを飾るのは、やはり女性陣一の変態!……失礼、少しばかり下ネタの多い美雪さんだ。

 艶めく黒髪は一つに束ねられ、かわいらしい赤サンゴのかんざしが、単調なヘアスタイルに華を添えている。

 紫紺地の浴衣は足元と袖口に白い桜の模様が施され、他の女性陣よりもシンプルだが、大人っぽさとシックな感じが相成って、とても―――


「すごく、よく似合ってますよ―――」


 ―――素直に綺麗だと思った。




⇒⇒⇒




 芦原の神社から少し歩いた所に河川敷がある。大河というわけでもなく小川と呼ぶのも正解ではない兎嶺川はきれいに芝舗装され、普段はゲートボールや少年野球に使われるグラウンドも、今日はちょっとした露店街に変わっている。

 花火までにはまだ時間もあるので、それまでは露店巡りをすることに。

 多人数で回るのは少し不便なので、河南・結城のペア、如月・大川・湊の三人、リリナ・凜のペアになることとなったんだが、残された俺・美雪さん・獅子神さんの三人で回るはずの露店巡りは「アタシは凜ちゃんとこと回るよ!」との獅子神さんのお言葉により、美雪さんと二人で回ることとなった。


「獅子神さん、急にどうしたんすかね?」

「ふふ…さぁな。ユキは私と二人っきりは嫌か?」

「まさか……喜んでエスコートさせていただきますよ」


 言葉を素直に返せたのは、自分の中にある気持ちの変化かもしれない。

 大差ない、けれどどちらともつかない《好き》の気持ちを確かめたいと思った。それが言葉になったから、美雪さんは少し驚いたような表情をして、そして笑った。


「じゃあ、行こう!」


 グイっと手を引っ張られた。けど、そこに不快感なんて微塵も感じない。

 むしろ嬉しいと思っている俺はやっぱり―――


 固まりつつある気持ちを表すように、握られた手に少しだけ力を入れた。




⇒⇒⇒




 焦げたソースの香りや、交錯する人の声。その場の雰囲気に濁りのない明るいテンションのままで、イカ焼きを食べたり、タコ焼きを食べたり、焼きそばを食べたり、綿菓子を食べたり……って、


「食ってばっかじゃん!!」「うむ、なんとも食欲をそそる匂いにつられて、つい……」


 美雪さんの言いたいことはよくわかる。俺も露店とか行ったらついつい沢山食べるから。

 とはいえ限度ってものがあるだろ。軽く野口さんが二枚以上飛んだ(全部俺の支払い)。

 ってか、美雪さんってこんなに食べる人だっただろうか?


 まぁともかく、ぐるっと露店を巡る間に、フランクフルト・フライドポテト・鯛焼き・タコ焼き(二回目)・林檎飴・カキ氷なんかを堪能した美雪さんは、にっこりと満足気。対する俺は結局、樋口さん分の出費(俺が食べた分も含む)によって想定外のダイエットをしたマイ財布を見て、表面上は苦笑しつつ、心の中で涙を流した。


 とりあえず満腹になった美雪さんと俺(の場合は胸やけ気味)は、皆が集まっているであろう河川敷の階段に足を運ぶ。

 ただ、どういうわけか他のメンバーはまだ来ておらず、仕方なく美雪さんと場所取り。

 その後も誰も来ないので不思議に思っていたら、新着メールが一件。内容は「わり!すげぇ見晴らしのいい場所発見したからそっちには行けねぇ!」とのこと。その送り主が健一だったというのもあるが、俺は何となく「うっほ!ハーレム状態!!」なんて言ってる健一を想像して、思わず笑った。

 美雪さんにメールを見せたら、どうやら同じことを想像したらしく苦笑。「見晴らしの良い場所にも行きたいが、どうも少し疲れたようだ」と階段に腰掛けた美雪さんに「じゃあ俺らはここで花火を見ましょうか」と言葉を返したら、再び驚いたような表情を見せ、また笑う美雪さん。


「うん。私はユキと一緒なら、何処だっていい」


 照れもなく真っ直ぐに俺を見る美雪さんは、やっぱり綺麗な笑顔をしていて、思わず見惚れてしまう俺。 夏の終わりにこうして美雪さんと過ごせた事を嬉しく思いながら、彼女の気持ちを受け入れつつある俺の視界に―――



ドオォーーォオン!!!!



 ――《大輪の花》が夜空に咲いた。

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