68:影の薄いヤツ
サブタイ通りです。序盤と終盤に少ししか出ないアイツです。
夏休みも残り一週間を過ぎた辺りから、我が家はちょくちょく《来客》が訪れるようになった。
先ず最初は《マコ姉》を皮切りに―――
「由希ぃ、宿題写させてくれ〜!!」
夏休みを《遊び》だけに費やしていた健一が、全く宿題(現国・物理・数学・世界史・科学・英語の全て)に手を付けておらずに泣き付いてきた。
「相澤、悪いんだけど世界史の宿題写させてくれない?」
終了五日前に、あんまり家に来た事のない如月が―――
「由希、英文の和訳は出来てるか?」
「ユッキー久々にゃ〜!ところで冷たい飲み物くらい出してほしいにゃん♪」
四日前に、河南・結城のペアが。つか結城に至っては単なる暇潰しに来たくらい。
「…………」
「え、えーっと……」
三日前に来た湊に至っては、宿題とは関係ない理由で訪れたうえに俺を無言で威圧するという、俺にとっては全く得の無い行動を実行。
なんでも前々から凜と遊びに行く約束をしていたとかで、さっさと着替えを済ませて部屋から出て来た凜と外出。
ただ、玄関が閉まる前に見せた湊の表情が、ほんの僅かに“ニヤリ”と微笑んだように思えて、ちょっと妹に対して不安になったのは言うまでもない。
と、ここ最近の我が家はこんな感じだが、前述しなくてもわかるように――
「ユキぃ〜デートに行こーう!」「行かない」
「では私と……」
「行かない」
当然、綾館姉妹は居る。つか毎日欠かさず来る。
一瞬だけ「友達いないんか?」なんて心配したけど、この《外見美人な猫被り》に友達がいないはずは無い。
その証拠に―――
♪〜♪〜♪〜
「もしもし?桜花か、どうした?」
覚えているだろうか?桜花ってのは、美雪さんと同じ弓道部副部長の《井芹桜花さん》だ。
「買い物?生憎だが、私は今ユキの面倒で手一杯だ!」
面倒を見てもらってる覚えはねぇよ!
♪〜♪〜♪〜
「もしもし?なんだ《京都》か……うん?悪いが他の役員を当たってくれ!私は今デート中なんだ」
《京都》ってのは初耳かもしれないが、読み方は京都と書いて《みやこ》と読む。俺や美雪さん達の通う嶺桜高校の生徒会長で、たしか本名は《長束京都》さん……だったと思う。
おそらくは生徒会の仕事のことだと思うが、俺を理由に断るのはやめてくれ……
その他にも、クラスメイトだとか弓道部の同輩・後輩なんかからよく連絡が来ているのに、美雪さんは断ってばかりいる。
その理由が全て「ユキ」である俺絡みなので、申し訳なさはハンパない。
「って美雪さん、俺を理由に断らないで下さいよ。先輩達に申し訳ないですって……」
「まったく……ユキはわかってないな。これくらいで壊れる友情なら、いっそ壊れたほうがいい!むしろ今連絡してきた友人達は、「頑張れ!」とか「絶対モノにしなよ!」と言ってくれたぞっ!!」
心の広い友人ばかりだなぁ……。
ってか先輩方、これ以上美雪さんにエールを送らんでくれ。さすがに俺も対応に困る。
そういや、凜とリリナさんは何やってんだ?
「美雪、興味深いチラシを見つけましたよ!」
「ん?……ほぉ、花火大会か!」
凜とリリナさんが持って来たのは、地区内の住民に配られる情報紙。間違っても《情報誌》ではなく《情報紙》である。ようはチラシだ。
そこに載っていたのは、毎年この時期に行われる恒例行事の夏祭りの事で、規模はそんなに大きくはなく、小さな縁日が並ぶ程度。花火大会ではあるが、特別ド派手でもない。
「兎嶺の夏祭りか……」
「ユキは知っているのか?」
「一応“兎嶺地区”の人間なんで。……そういや、久しく行ってなかったなぁ……」
小さい頃は、よく家族揃って縁日を回ったり、父に肩車されて花火を見たっけ。懐かしいなぁ……
「開催日は……31日か、明日だな」
「夏休み最後の花火ですか……風情があって、とても良さそうですね」
明日……明日で夏休みも終わりか。今年はやけに短く感じたな……。
―――なんでだろ?
「夏休み最後にパァッといくのも良いな!」
「夏の名残の花火……とても楽しそうです」
《夏の名残》か。それを過ぎれば、もう秋になるんだなぁ。
今年最後の夏休みだし、ここは一つ―――
「行きますか!」
「うむ!」
「ええ!」
「ん」
「おぉーっ!!」
明日は最後の夏休み、精一杯楽しもう!………って、あれ?
「なぁユキ、今、私らではない《誰か》の声が混じってなかったか?」
「奇遇ですね。俺もまったく同じ質問をしようとしたところですよ」
「ええ、私も同じです」
「ん」
ということは、俺達四人(俺・美雪さん・凜・リリナさん)の他に、誰かが我が家に《居る》ってことだよな……あ。
「健一、なんでお前が居るんだ?」
「今更!?ここんとこ毎日居るよ!」
まったく記憶にないな。つか、もう話が終わるとこだしほっときゃいいか。
「酷くない!?俺の扱い雑じゃない!?!?ってか終わりって何?俺の場面これだけ!!??」
あぁ、マジでうぜぇ