67:メイドはゲームも達人級?
サブタイ通りです。久しぶりに、あのキャラも少しだけ登場します。
“救う”でも“掬う”でもなく“掴む”という表現が正しいUFOキャッチャーに、真剣に取り組むマコ姉と美雪さんの二人。 俺は蚊帳の外……ついて来た意味がまったくない。 普段からゲーセンとは無縁状態の俺だから仕方ないと言ってしまえばそれまでだが、ほったらかしというのも中々に寂しいもので――
まぁあの二人をほったらかしにしておいても大丈夫だろうから、とりあえず凜やリリナさんの様子でも見てみるか。
というわけで、先ずは三階の《ネットゲーム》のコーナーへ。
ここはインターネットを利用したオンラインゲームを主にしているコーナーで、競馬や対戦系ゲームが多い。もっとも、地元にいながらにして全国のゲーマーと遊べる(対戦できる)という点から人気があるのだろうが……ゲーマーでない俺には、あまり理解出来ない。
さて、ここには我が愛くるしい(言ってみただけ)妹がいるはずだが―――あ、いた。
「凜は何のゲームやってんだ?」
「戦国時代系オンライン対戦ゲーム」
無駄にタイトルが長い!というかタイトルか?
まぁよくはわからんが“三●志”のようなやつらしい。
「凜は強いのか?」
「割と」
謙遜しないところが凜らしいが、どうやら本当に強いらしい。そういや、我が家のゲーム機をインターネットに繋いだとかで、たまにこんなゲームをやっている凜を見た事があったっけ?
「えーっと、凜は全国………は?三位!?」
「そう」
淡々と言ってのける凜だが、凜って意外とゲーマー?兄たる俺ですら今知った事実と意外と《やり込んでる》感が否めない凜に、若干引き気味な俺……。
◇
後ろからゲームを見ていた俺だが、凜から「目障り・気が散る」とのお叱りを受け、マジへこみで今度は一階のパチンコ・スロットコーナーへ。
ここにはリリナさんがいるはずだが、捜すまでもない。すでにスロットコーナーの一区画に人だかりが出来てる………
「あ、ユキ!なんか大当りが止まらないんですが……」
「……うわぁ……」
野次馬の中心には、やはりリリナさんの姿あり。
最近我が家に来る時はメイド服姿ではなく普通の服装なので、今日ゲーセンに行く事になった時は「そこまで目立ちはしないだろう」的な考えだったんだが……やはり“身なり”は普通でも人だかりを作る《何か》を持ってるらしい。
……今回の場合、店員が追加補充をしなければいけないほど大当りを積み重ね、《千両箱》と書かれたメダル入れの箱を山積みにしていた。
そりゃ人も集まるはずである。中には「これが実機なら十万は軽くあるぜ」なんて言ってるオッサンもいたが、所詮はゲームのスロットである。いくら何千・何万枚だそうと、お金に換える事は出来ない。
「あ、また7が揃いました!」
『えええぇぇっ!?!?!?』
ボーナスゲームを終了し、メダルの払い出しが終わって10回転もしないうちに、また《大当り》を引いたリリナさん。そりゃ周りもア然とするわな。
店員さんなんて「お、おめでとうございまぁ〜す……」なんて言ってはいるが、笑顔は完全に引き攣っていた。
いや、俺も引き気味である。
まぁ色んな特技を持ってるリリナさんにいまさら驚く事も少なくなったが、俺もしばし野次馬と共に傍観。結局、その後1時間以上も大当りを積み重ね、仕舞いには「飽きました」と言って再びギャラリーをア然とさせたリリナさん。
「あの〜、こちらのメダルはどうすれば……?」
山積みになったメダルの箱を見て店員に尋ねれば、店員ですら「そ、そうですね〜……」と、言葉に詰まる始末。
場所ごとにもよるが、ある期間(一ヶ月〜半年)までメダルを預ける事が出来、期間内であれば再びメダルを引き出して遊ぶ事もできるのだが、リリナさんの場合は次にいつ遊びに来るかも不明。
ということで、メダルは三百枚ほどをそのままに、残りのメダルは全て《店に返す》という事に。
周りからは「勿体ない!」なんて声もちらほら聞こえたが、そのリリナさんの言葉を聞いた店員の「ありがとうございます!」的な笑顔は、経営側としての笑顔だったように思えて仕方なかった。
◇
その後、リリナさんは「これは何のゲームですか?」と店員さんに尋ねていたのは競馬のメダルゲーム。自分の予想した馬にお金(この場合はメダル)を賭け、勝てば倍率の分だけメダルが払い出される、というもの。まぁ名前の通り競馬のゲームだ。
「ユキ、遊んでみましょう!」
初めてという事でテンションの高いリリナさんは、《いかにも常連》って感じのゲーマー達の中に混ざり参戦。仕方なく俺も付き合う形となる。
周りは「素人が……」といった感じで半笑いを浮かべる者や、先程のスロットの一件を見て「次はどんな奇跡を起こすんだ!?」と興味津々な者が。
俺は倍率に当たり障りのない馬ばかりを選んでいたが、リリナさんは「この馬は名前が面白いですね!」とか「この馬は毛並みが良いです!」なんてCG画面に映った馬を見ながら、全く根拠のない理由で馬を選んでいく。
「レースはこの画面を見ればよいのですね?」
もう笑いを堪えているばかりの常連さんに色々と聞きながら、最初のレースがスタート!画面を見ながら「頑張れ!いけっ!」なんて叫んでいるリリナさんは、格好の笑いネタに。
もう恥ずかしくてしょうがない俺は他人のフリに努めるようと試みて、いまさら無理だと気付く。
ただ、まぁ……
「やりましたユキ!一着です!!」
「お、おめでとう……」
ビギナーズラック!ってヤツなんだろう。適当(勘)で勝馬を予想したリリナさんは、見事に当てやがった。俺なんて無難に1番人気を選んでハズシたのに……。
周りとて「ま、たまたまだろう」「そう何度も……」なんて生暖かい視線がリリナさんに集中。
しかしその後のレースも順当にリリナさんは勝ちを積み重ね、もはや言葉を失った常連は、面目を潰されたようにうなだれた。
「店員さん、このメダルもお返しします」
結局、何万枚と稼いだメダルは全て店に返す事になり、リリナさんはその日《銀髪の天才ゲーマー》として、伝説になった。
◇◇
好い加減に楽しんだリリナさんは「美雪はどうしているでしょうか?」と、マコ姉達のいる二階ヘ。
そこにはすでにゲームを終えた凜も合流しており、それぞれの手には、おそらくUFOキャッチャーやクレーンゲームでゲットしたであろう《ぬいぐるみ》や《お菓子》の景品が。
「うわっ、また沢山ゲットしましたね」
「う……む」
「まぁ……」
なんとも歯切れの悪いマコ姉と美雪さん。そして微妙に笑いを我慢しているような凜。
「おぉ!やっぱ来てたかマイ・ヴラザー(ブラザー)!!」
マコ姉の背に隠れて見えなかったが……《バカ》がいた。
つかテンションの高さと発音がうぜぇ……
「健一も来てたのか」
「まぁな!《クレーンのケン》っつったら割と有名だぜ!?」
「なんだそれ?」
なんかまたバカが馬鹿なことを言っている。つか《クレーンのケン》って何?呼び名?ダサッ!
「何っ?キミが《クレーンのケン》なのか!?」
「マ、マコ姉は知ってるの?」
「ああ、最近ネット動画で話題になっているUFOキャッチャーの達人だ」
え?そんなんあるの?つかよくマコ姉が知ってたな。俺は全く知らんかったのに。
「実はこのぬいぐるみの殆ども、このクレーンのケンが取ってくれたんだ」
「どこかで会った事があるとは思ったんだが、そういえばユキの友達だったな……」
「ひどっ!ちょっ、ちょっとユキ!フォロー・ミー!!」
うわ、どうしようか……あんま関わりたくねぇ。
―――って、ユキって呼ぶんじゃねぇっ!!!!
「ふむ、ユキの学友か。挨拶が遅れてすまない。私はユキの従姉妹の相澤真琴だ。いつもユキが世話になっている」
マコ姉、バカに丁寧な挨拶はいらねぇよ。
「な、なんと!相澤くんにこんな素敵な親戚のお姉さんが居たなんて!」
「《相澤くん》って言うなキモい」
「こらこら、仮にも学友にキモいは失礼だぞユキ。すまないね、私の弟分が」
マコ姉!そのバカは甘やかしちゃダメだって!!すぐ付け上がるんだから!
「いえ!それより、よかった今晩デートでも」
ほほぅ……
「……仮にも俺の前でマコ姉をナンパしてんじゃねぇよ……」
「ご、ごめなさっ!!」
次に調子乗ったら手加減抜きでぶん殴るぞ、覚えとけよ健一……。
「ひ、ひゃい!」
「ん?何をコソコソと話しているんだ?」
「なんでもないよマコ姉。な、健一?」
「……」
「な?」
「……」
「け・ん・い・ち?」
「はいっ!」
これでバカの手からマコ姉は救えたな。やれやれ、反抗的な目をしやがって……。
その後、再び俺達はマコ姉の車に乗り、我が家ヘと帰宅。日も暮れたので「泊まっていけば?」とマコ姉に言ってはみたが「騒がしい姉(ケイ姉)の世話をしてやらなければいけない」からと苦笑して、実家ヘと帰って行った。
「ユキぃ、私は泊まっていきたいな〜!ユキのフィアンセだし〜!!」
「帰れっ!!!!」