66:マコ姉=???
またゲーセンでの話になります。
意識の暴走により綾館美雪は《猛獣》と化した!しかしそこに現れた正義のヒーロー《相澤真琴》の秘孔術により猛獣は倒され、相澤家に平和が訪れたのだった……。
という一連の出来事により、鎮静化した美雪さんは記憶まで吹っ飛ばされていた。 その後「暑さで意識が遠のいたのですよ」とリリナさんがフォローを入れ、俺達も口裏を合わせて納得していただいた。
おそらく我が家史上最大の《記憶の捏造》だと思う。
まぁそんな事もあったのだが、やはり矛先は「この女は誰だ!?」と言われたマコ姉に向けられ、正直に「従姉妹です」と言ったマコ姉に対し、掌を返したような態度の美雪さんは、誰の目から見ても滑稽に映っただろう。
ともあれ、我が家に平和が訪れた事に変わりない。……俺はわかりきった失恋を経験したんだが。
そんなことはこの際永久に触れないでおくとして、マコ姉が突然我が家を訪れた理由を尋ねたら「この近くにとても大きなゲームセンターがあると聞いて来た」という始末……。
「ま、まさかそれだけのために車を走らせてきた訳じゃないよ…………ね?」
「ユキは失礼だな」
「だ、だよね〜!」
「八割はその通りだが、残りは残暑見舞いというやつだ」
あ〜ぁ……聞かなきゃよかった……
とりあえず、マコ姉を案内する形でゲーセンへと車を走らせる。当然……
「ゲームセンターって、どういう場所なのでしょうか?」
「私もあまり詳しくは知らんが、やはり名の通りゲームが沢山あるのだろう」
ここに二人ほど《初心者》がいた。って、俺も好んで行くタイプの人間じゃないが、俺の周りって意外と《ゲーセン初心者》が多いらしい。
とまぁ無駄話もそこそこに、到着しましたゲームセンター。建物はビル四階建てという規模だが、いかんせん“ゲームセンター”というまんまのネーミングはいかほどなものか。
「うむ、やはり噂通り大きいな。たしかUFOキャッチャーのコーナーは二階だった」
噂になるほどか?つか下調べ万全だなマコ姉。もっともUFOキャッチャーオンリーかよ!
と、ともかく大勢いるんだし、楽しまねば……
◆
まぁ諸々のメンバーではあるが、やはり《好み》には違いがある。凜はさっさとネットゲームのコーナーへと三階へ。
リリナさんは「スロットは以前経験したことがあります」と言って、美雪さんを置いて一階へ。おい、メイドという仕事はどうした?
そして残された俺・美雪さん・マコ姉の三人は、まぁ付いて行くがままに、二階のUFOキャッチャーのコーナーへ。
まず思ったのが、盆にマコ姉と行った田舎のゲーセンとは比べるまでもなくデカイ!!ということ。
そして種類(景品)が豊富ということで、くわえて人も多い。
「ゆーふぉーきゃっちゃ〜というのはどれだ?」
美雪さんは無知の無状態。目の前に広がる幾種類のUFOキャッチャーを眺めながら、ボケた(というかマジっぽい)
「ふふ、美雪さん。ひらがな表記ではなく《UFOキャッチャー》というんだよ」
つい最近までひらがな表記で《ゆーふぉーきゃっちゃ〜》と呼んで、掬うではなく《救う》と連呼してたマコ姉よ、そんな胸を張って言うほどじゃない……って羨望の眼差しかよ美雪さん!!
そういや、UFOキャッチャーって掬うんではなくて、正しくは《掴む》んじゃないのか?
「なるほど、箱に入ったぬいぐるみをこのアームで救うのですね?」
「正しくは《掬う》んだよ」
いや、多分どっちも違うと思うよ二人とも。
◇
おそらくだが、マコ姉と美雪さん……似てるのは口調だけではないらしい。
まぁ普段の「ユキィっ!マイスウィートダーリン(はぁと)」って感じで接してくる美雪さんはケイ姉とそっくりなんだが、初のゲーセンでの美雪さんは、まんまマコ姉である(考え方がという意味で)。
「真琴お姉様、この機械が動かないんですが」
「ははは、この《投入口》に百円を入れるんだよ」
これってデジャヴってやつなんだろうか?まんま盆の時の俺とマコ姉の会話を、別角度から眺めているというなんとも表現しがたい気分だ。
うぅむ、それにしても美雪さんは、いつの間に「真琴お姉様」と呼ぶようになったんだろうか?