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60:真琴さんは俺の―――

 《相澤真琴》という従姉妹は、寡黙にして冷静であり、頭も良くて真面目で堅物なイメージを思わせるような人だ。

 現に真面目という意味で間違いは無いのだが、無鉄砲で破天荒な性格の真琴さんの姉、恵さんと一緒の時なんかは、尚更そのイメージが際立つ。


 見た目は、150センチの恵さんが見上げるくらい身長が高く、聞いた話によれば170センチ以上あるとか。細面に目付きの鋭さは獅子神さんや俺以上で、動物に例えるならば孤高の《狼》のような“凄みのあるかっこいい美人”。

 初対面の人からすれば、近寄りがたい印象を抱く可能性が高い。


 まぁそんな真琴さんだけど、実は俺の《初恋のお姉さん》でもある。




 小さい頃から真琴さんは物静かで勉強ばかりしてる人で、俺や凜が遊びに行った際の遊び相手は、真琴さんではなく恵さんや祖父だった。

 俺も当時は真琴さんの事を《おっかない姉ちゃん》だと思っていて、話す機会も殆ど皆無。

 当然、交流といえる思い出も、その年までは無かった。


 これは今でも覚えている事だが、俺がまともに真琴さんと会話するようになったのきっかけは、小学2年の、やはり今日のように暑い盆の時だった。




 小学生や中学生、それに高校生にとって夏休みで一番厄介なのは、やはり大量の宿題だと思う。

 今でも厄介な代物だと思うが、遊ぶ事が第一だと考えていた当時の俺にとって、それは難敵中の難敵。あまり解答を埋めることも出来ないまま、盆を迎える事になった。


「うぅ〜ん……」


 祖父の家に親戚が集まり酒宴が始まる中、俺は算数のページをめくったまま、「うぅ」とか「あぁ〜」とか呻いていた。


「どうした?」


 そこに救いの手を差し延べてくれた人こそ、真琴さんだった。


「……手伝おうか?」


 俺と宿題を交互に見た後で、真琴さんはそう言ってくれた。

 真琴さんは当時小学5年生で、小2だった俺の宿題の解答を埋める事くらい造作もない。

 けど、解答欄を埋める事をせず、俺に解答までの導きを教えてくれたのだ。


「この問題は、掛け算だね。掛け算のやり方は―――」


 今は会話くらいしかしないけど、真琴さんって、勉強の教え方が上手かった。 公式を当て嵌めた説明をするだけじゃなく、よりわかりやすいようにおはじきやビー玉を使って教えてくれたりもした。




 そんな事があったから、それから次第に話すようにもなったし、仲良くしてもらうようにもなった。

 そういや、当時は「マコちゃん」って呼んでたな。 今じゃ恥ずかしくて口には出せねぇけど。




 その後は、プロレスにどっぷりハマった恵さんに《愛情表現!》と称した関節技をかけられてる俺を助けてくれたり、よく理解しきれていない教科を教えてもらったりと、今じゃ頼れるお姉さんである。

 同学年や先輩にも、真琴さんのように落ち着いた女性が周りにいなかったから、俺はいつの間にか魅了され、それが《初恋》へと変わっていったんだろう。




◆◆◆




 さて、そんな《初恋》の相手に連れられ、到着したゲームセンターで30分が過ぎた。

 我が麗しき《従姉妹》様は―――


「うぅ……」


 かわいらしい“ぬいぐるみ”が景品となっているUFOキャッチャーで、金額にして《野口さん》を2枚ほど呑まれていた。

 無論、収穫0。


「ユキぃ……」

「うっ……!」


 普段は無表情な真琴さんの泣きそうな表情って、思わずグッとくるなぁ……じゃなくて!


「え、えらくそのぬいぐるみにこだわりますね!?」

「……恥ずかしながら、私はこういうモノが好きなのだ」


 真琴さんの話によれば、以前にも友達に連れられてこのゲームセンターに来た事があるとかで、たまたま見たUFOキャッチャーの景品になっている“ぬいぐるみ”を一目見て、是非とも手に入れたくなったんだとか。

 う、うぅむ……真琴さんとぬいぐるみの組み合わせって、似合わねぇ……。


「ユキ、お前は今、すごく失礼な事を考えなかったか?」

「め、滅相もない!!」


 リリナさんもよく俺の考えを読み取ってたけど、俺ってそんなに顔に出やすいんだろうか???


「一応だが、私もここに入っているぬいぐるみを探したんだが、一向に見付からなくてな……」


 そういえば、意外とUFOキャッチャー専用の景品って多いらしいな。探しても見つからないって事は、このぬいぐるみもおそらく、その類だろう。


「とりあえず俺も挑戦していいですか?」

「うん」


 ゲーセンに来て30分以上が経過したが、俺はまだ何もチャレンジしてなかったんだよな。


 俺はあまりゲーセンとかには寄らないんだが、たしかUFOキャッチャーの景品がぬいぐるみの場合は、アームの強弱の関係で、幅が広くて引っ掛かりやすい箇所を狙うのが良いって、健一(大川健一、覚えているだろうか?)が言ってたっけ。


 えぇっと、真琴さんが狙ってたぬいぐるみの掴みやすい箇所は―――




 ――おっ、持ち上がったぞ


「あ」


 このまま振動で落っこちなきゃいいが……


ガコンッ♪




「……取れた……」

「…………」


 まさか一回のチャレンジでゲット出来るなんて思ってもなかったんだが……ヤバィなぁ……

 真琴さん無言だし!俯いてるし!!


「あ、あのぉ……」

「ュキ……」

「ご、ごめ!?」

「すごいぞユキ!まさか一回で成功するなんて!!」


 あ、だ、大丈夫みたいだ。怒ってはないみたい。


「と、とりあえずコレ……」

「え?わ、私にか!?」


 いや、別に俺が欲しくて取ったわけじゃねぇし。つか、そんな驚くほどの事をしたつもりもない。取れたのは偶然、まぐれだ。


「あ、ありがとう……大事にする!」

「よかった。マコちゃんが大事にしてくれるなら、俺もプレゼントした甲斐があります」

「マコちゃん?」

「……あ……」


 し、しまったあぁぁあ!!!!思わず昔みたいに呼んじまった!!


「ふふ、マコちゃんか……懐かしいなぁ……」

「ご、ごめん真琴さん!思わず……」

「ユキは私の可愛い弟分だからな。それに、マコちゃんと呼ばれたほうが、私は嬉しい」

「そ、そんなもん?」


 これまた意外だ!俺はてっきり、じーちゃん直伝の《正拳突き》が飛んで来るかと思った。


「私は淋しがり屋だからな。他人行儀にされるのは嫌いだから、これからはマコちゃんと呼ベ」


まさかの命令系!?


「《真琴お姉ちゃん》か《マコ姉ちゃん》でもかまわない」

「ぜ、善処します」

「期待している」


 寡黙でクールな初恋の人の姿はそこに無く、代わりに世の男の全てを虜にしてしまいそうな笑顔の従姉妹が、嬉しそうに俺を見つめていた。

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