53:たまには私がメインです!
視点はユキですが、後半に活躍するのは“あの人”です。
急遽帰宅するという母は、直線にして4、500キロはあるであろう会社から自宅までを、飛行機を使って、空港からタクシーを乗り継ぎ、約2時間で――
「ただいまー!!」
ご帰宅なされた。
我が母、相澤菜々子は30歳で専業主婦から一転し、現在の化粧品会社である《Clair》を立ち上げた。
自分自身の経験を生かし、主婦の観点から作り上げたオリジナル化粧品は《アラサー》・《アラフォー》などと呼ばれる女性を中心に支持を集めるまでになり、今では若い世代にも注目されるほどの有名企業に成長。
現在42歳の母は、ひいき目にみても他の同級生の母親よりは若い……と思う。おそらく《化粧品》のおかげだろうけど。
「由希は相変わらず目付きが悪いわね〜!」
ほっとけ!目付きが悪いのはアンタ譲りだよ!!
「凜も相変わらずのようね。っと―――」
「お久しぶりですお義母様!」
「不躾ながら、今日もお邪魔しております」
そういや、綾館姉妹はお袋に会った事があったっけ。にしてもだ……美雪先輩、その《お義母様》はやめれ。
「由希の結婚は早そうね!私も近いうちに“おばあちゃん”かしら?」
話が飛躍し過ぎ―――じゃなくて!そんな関係じゃないっつーの!!
「あら?こちらの《ワイルド美人》さんは……?」
「あ……アタシは獅子神紗姫っていいます!相澤……じゃなくて、よ、由希くんにはいつもお世話になってます!!」
あ、獅子神さんはお袋に会った事無かったんだよな。って―――
「ち、ちょっと母さん!そんなにジロジロ見たら失礼だよ!」
舐めるような――という表現が適切だろう。お袋は獅子神さんに近づくと、上(頭)から下(足のつま先)までを、それこそ“舐めるように”じっくりと観察。 獅子神さんは、当然―――
「な、なんす……か?」
怯えるように、体を震わせた。
するとお袋、悪びれた様子もなく獅子神さんの前に対峙して―――
「身長は173で、上から88・59・87……かしら?」
なんか暗号的な言葉を口にした。そんな言葉に、獅子神さんはおろか美雪先輩やリリナさん達、女性陣が反応。凜は―――呑気にアイスを食べていた。
「当たり?」
「は、はい……!」
「ちなみに美雪ちゃんは168の、上から80・56・82で――」
「なっ!!!?」
「リリナちゃんは171で、91・60・89……かな?」
「まぁ!お見事ですわ」
美雪先輩は顔を赤らめ胸を手で隠し、リリナさんは優しげな目尻を少し見開いた。
なんとな〜くだが、美雪先輩が胸の辺りを手で隠す動作を見て、俺も数字の意味がわかった気がする。
「えっと、凜は〜……」
「ぶつ」
「あ〜……」
「蹴る」
「え―――」
「刺「ごめんなさい!」
我が家の上下関係は《凜>母>父>俺》である。男子陣は不甲斐ないが、我が家最年少の凜に土下座する親というのも、如何なものか。
それはさておき、ようやくわかった事がある。それは母が口にした数字の意味。身長は容易に理解出来たが、その後の二桁の数字……これはB・W・Hだ。
リリナさんと獅子神さん、たしかに二人は胸が大きかっ……いや、なんでもない。
「ユキ、なぜ姉様とヤンキー女の胸を見てる?」
ほっとけ、男の悲しい性だ。
◇
さて、そんなスタイルの話はどうでもいいので、本題に入らせてもらおう。
今回、我が母である菜々子に帰って来てもらったのは、《小屋漁り》と称して物置で見つけた地下室と、そのカーヴで眠っていた様々酒類についてだ。
まずは母を地下室に案内。行きは戸の軽いキッチン側から。
「うわっ!こりゃ壮観だわ!!」
「一応、電話で話した通りなんだけど」
「ああ、確かにこれはタダ(無料)で貰うってのは気がひけるわ……ま、大丈夫!こっから先は大人に任せなさい!!」
頼もしい事を言ってくれた母は、まずは一度カーヴから出て、俺が不動産屋から聞いていた、以前この家に住んでいた住人の方に連絡。意外にも通話時間は10分にも満たず、揚々と帰ってきた母は―――
「幾らなんでも、金の魔力には勝てないのよねぇ!アッハハハ!!」
社会の《裏側》を臭わせる言葉を口にしやがった。 出来れば聞きたくなかったが……。
とりあえず、数百……いや、千本はありそうな酒類は正式に我が家の所有物となった。
「さぁて、とりあえず飲んでみよっか!」
母、菜々子は酒豪である。俺の記憶にある限り、仕事が多忙になる以前は毎晩のように、晩酌していたのを覚えている。
「では、こちらのシャトー・ラフィット・ロトシルトは如何でしょうか?年代的には少し《若い》かもしれませんが、さっぱりとした味を好む方にはちょうど良いと思われますよ」
「リリナちゃんは物知りね、助かるわ!」
さて、母とリリナさんを除く美雪先輩、獅子神さん、俺、凜にはさっぱりわからん会話を交わしながら、リリナさんは予め用意しておいたコルク抜きで栓を抜き、ワイングラスに少しだけ注ぐ。
「ん……ん!ふむ……んん、美味しい!!」
グラスに入ったワインを飲む前に、匂いを確かめ、口に含み、あらかたの時間をかけた後ようやく飲み込んだ母は、ニコリと笑みを浮かべた。どうやら腐ってはいなかったらしい。
その後もニ、三本程のワインを試飲した母は、納得したようにリリナさんの説明に耳を傾けていた。
「いやぁ充分だわ!むしろ充分過ぎるくらいの仕上がりだわ!!」
「カーヴの室温・湿度が、ワインをはじめとしたここにある酒類の熟成に適していたのでしょう。 それでは、菜々子様の催される打ち上げに必要と思われるお酒を幾つか、選んでみましょうか?」
「そりゃいいわね!是非ともお願いするわ!!」
成人同士、話が合うのはいい。しかしながら――
「なぁ、アタシらってここ(カーヴ)に居る意味あんのか?」
「無いですね」
「無いな」
「無い」
蚊帳の外な俺達一同。やっぱし酒は、俺らにゃ無用の長物だ
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