52:未成年には無用の長物
タイトル通りです。ちなみにですが、文中に出てくる《名前》はあてずっぽうですので、深くは追求しないで下さい(笑)
リリナさんの手にした懐中電灯が照らす先には、夥しい数の酒瓶が列んだ棚が!!
「やはり《カーヴ》でしたか」
「「「かあう゛?」」」
「《カーヴ》というのは酒倉のことで、一般的にはワインの貯蔵に用いるのですよ。この入り口へと入る前に、少しの埃っぽさと冷風を感じたので、まさかとは思ったのですが……やはり推測通りでした」
リリナさんの説明によれば、ワインや日本酒などのアルコール類は、光度・気温・室温に大きく左右されやすくて、味なんかも変化するらしい。人間と一緒で、酒も日焼けをするらしく日に焼けた酒は、香り・味が落ちるんだとか。
「ワインの本場フランスでは、ワインを貯蔵する際に半地下で気温・室温が一定に保たれたカーヴで保存するのですよ」
流石は完璧メイド!知識も人並み以上である。
その後、念のために照明のスイッチを探し、棚の裏側で発見。ダメもとで押してみたら、意外にも点灯!お酒の事を考えてか、照明を点けても薄暗い。
「それにしても……」
「すげぇ数だなぁ……」
「まさに圧巻だ……」
「私も、これほどの数のワインを見たのは初めてです」
照明によって浮かび上がったカーヴの全体面積・ワイン(その他複数の酒類)の数に、圧倒された一同。その数は、ざっと見積もっても数百以上……下手すりゃ千本位ありそうだ。
「コルトン・シャルルマーニュの79年物に、ムルソーの76年物……こちらにはシャトー・マルゴーの66年物に、オーブリオン・ボルドーの70年物!!」
リリナさんは興奮気味だが、未成年の俺達三人には、何を言ってるのか全然わからん!
「ユキ、これは恐ろしく高価な品物ばかりですよ!」「は、はぁ……」
「姉様、さっきからコルトンだかコットンだか言っていたが?」
「ワインの名前ですよ美雪。今ではヴィンテージ物となった物や、プレミア物まで揃っているのです!!」
饒舌が止まらないリリナさん。どうやら相当な価値があるっぽい。
しかも、ワイン以外にもウィスキーや沖縄の古酒、その他にも酒マニアには生唾ものばかりだとか。
俺にゃまったく理解できんが……。
「姉様、ちなみにだがお金に換算すれば幾らになるのだ?」
たかが酒だろ?いくら高くても、大した額にはならねぇだろ。それに、このワインだって普通に酒屋に置いてあるんじゃ―――
「うーん……総額はいかほどかはわかりませんが、ユキが手にしているシャンパンの《クリュグ》は、たしか10万位だったと思いますけど」
な、な、な!!??
「何ぃ!!??」
ツルッ♪
「ギャアァァアっ!!!!落ち―――」
ガシッ!
「っと!セーフ!!」
獅子神さんが、俺の手から滑り落ち、床に接吻しかけたシャンパンを滑り込みキャッチ!!これほど感謝したいと思ったことがないほど、俺は獅子神さんに対して
「姐御!何処までもついて行きます!!」
120度くらいのお辞儀+やくざ映画に出てきそうな口調で感謝の意を述べたら、「阿呆!」と獅子神さんからげんこつを頂戴してしまった。
まぁいいさ、諭吉様10枚分に比べりゃ、げんこつなんて安いもんだし!
その後、俺の視界に入ったお酒は全て《札束》にしか見えなくなってしまうという恐怖に苅られ、一通り散策した後、カーヴから出ることに。
ここで再び美雪先輩が、入って来た方角とは違う場所の階段を発見。全員で上ってみて、光が差し込む《出口》的な場所に辿り着き、先陣をきって俺が扉(?)を押し上げると――
「……何してるの?」
牛乳を飲んでいた凜が居た。つか、帰ってたのか。 凜が居た場所はキッチンの冷蔵庫の前であり、薄いカーペットが敷かれている床付近に俺達は出てきたらしい。
考えるに、中庭からリビング、そして俺達が出てきたキッチンまでの面積の地下室だったようで、俺や凜や両親には知られずに、お酒はずっと眠り続けていたようだ。
◇
凜にことの経緯を説明した後、再び親父に連絡を入れて説明。その後、親父から家を買った際に仲介となった不動産屋の連絡先を聞き、以前に住んでいた人の住所と連絡先を教えてもらった。
再び電話を取り、教えてもらった連絡先に電話を入れれば、老いた男性の声が返ってきて、いきさつを説明。男性は畑中という人で、今ではアパート暮らしをしているそうだ。
ワインの引き取りをお願いしたのだが、返ってきた言葉は意外にもNOで、なんでも酒に溺れて事業に失敗し、酒の話は聞きたくないと言う。
ならばと思い、カーヴで眠る酒の総数資産には満たないが、それなりの《金銭》の話(綾館姉妹の案)を持ち出してみたが、これも「酒にまつわる金なんざ一円も要らない」とのこと。 結果的に「飲むなり売るなり好きにしていい」と言われ、俺は望まずして大量の酒を手に入れることになった。
「で、どーすんだ?」
「う〜〜〜ん……」
獅子神さんに尋ねられても、まともな返事は出来ない。なんせ、売りに出すには保護者からの委任状、もしくは同伴が必要になるし、未成年だから飲むわけにもいかない。
「とりあえず、今度はお袋にも連絡を入れて見ますね」
頼みの綱は、親父では無くお袋の菜々子。だって親父、まったく酒が飲めねぇし。
◆
お袋に連絡を入れたが、すぐに留守番電話サービスに接続された。まぁ、多忙なんだし仕方ないが。
あれこれと議論しつつもなかなか話が纏まらない俺達。そんな折、携帯電話の着信が。言わずもがな、お袋からだった。
『もしもーし!由希から電話なんて珍しいわね。で、どしたの?』
なんともテンションの高い我が母、菜々子。とりあえず経緯を説明。
『マジ!?んじゃ大至急取りに行くわ!ちょーど来月の打ち上げにワインが必要だったのよ!ところで味はどう?腐ってない??』
「飲んでねぇのにわかるわけねぇだろ!」
『えぇ〜!勿体ないわね、んじゃすぐに帰るわ!!』
テンションが高いまま、お袋は嵐のように言葉をまくし立てた後、一方的に電話を切った。
その後2時間、再び俺達はあーだこーだと議論を繰り返すが、結論としてお袋を待つ事となった。
お酒……未成年の方にはあまり無縁な言葉でしょうが、私は苦手ですね。
特にワインは苦手です。ま、味覚が子供っぽいからでしょうが(苦笑)