50:夏はさっぱりしたものが良い
タイトルはほぼ無関係です。
「ただいまー!」
「た、ただいま……」
「お邪魔しま〜す!」
俺はいつも通り、美雪先輩はぐったり、来客として来た獅子神さんはテンション高めで帰宅。
「お帰りなさいませ」
「ああ、おかえり」
リリナさんと凜の温度差のある対応にも慣れ、買ってきた食材を冷蔵庫ヘ。
特売日とタイムセールが重なり、百グラム十円の国産若鶏もも肉を大量ゲットした俺。今日は唐揚げを作ろうと考えている。
もちろん、三日分程の食糧を買い込む中で、必要な特売品は、きちんと確保している。ダテに戦場で鍛えられたわけじゃないからな。おかげで顔見知りの主婦や自炊をやってる独り暮らしの面々からは変なあだ名まで付けられる始末……ま、なんて呼ばれてるかは言わねぇけど。
とりあえず冷蔵庫ヘ“戦利品”を仕舞い、昼飯なんぞを作ろうと思って――
「お昼ご飯出来ました〜!」
既にリリナさんが作っていた。今日はさっぱり“ざるうどん”だそうな。
ちなみにだが、リリナさん的には“ざるうどん”に使う麺は乾麺が良いとのことで、今日は日本三大うどんの一つである《水沢うどん》を使用。弾力のあるコシと、通常より細い麺は喉越しが良く、美味堪能させていただいた。
俺と美雪先輩が買い物ヘ行き、再び家に帰るまでに要した時間は約40分。その間に、稼動中だった洗濯機もすっかり仕事を終え、リリナさんの手によって中庭の物干し竿にて優雅に日光を浴びる状態となり、毎日欠かさない各部屋の掃除も、いつの間にか埃一つ落ちてない空間ヘと早変わり。
毎度の事ながら申し訳ないと思いつつも、干してある自分の下着が彼女の手によって干されたという事実には、いつも恥ずかしさが込み上げる。
しかし、あの人には俺の常識は通用しないし、逆に論破されかねない自分の不甲斐なさと言語能力の低さから、最近じゃ閉口ばかりだけど。
◇
夏の盛りというべきだろう、八月は何せ暑い!世間じゃエコだとか節電だとかが流行っていて、噂ではゴーヤの成長を利用した“グリーン・カーテン”なるものが人気だとか。
我が家は節電がどうこう言う前に、なるべく冷却装置を使わないように心掛けている。間取りの関係とかで、家にいるよりも中庭に出てるほうが涼しい。
とはいえ、やはり暑さは厳しい。
「あっづ〜〜」
「アチィなぁ……」
「暑いな……」
「暑いですね……」
予定の無い俺・獅子神さん・美雪先輩と、予定を全て済ませて暇になったリリナさんは、中庭に出られるリビング横の戸を開放して、座ってアイスを食べているのだが、やはり暑さには敵わない。
それより、リリナさんの恰好(黒地に白フリメイド服)は、誰がどう見たって熱いんだろうなと思う。
「……ユキ、あの小屋は何だ?」
「あぁ、物置ですよ。ただ、何が入ってるかは俺にもわかりませんが」
美雪先輩が指さしたのは、中庭と車庫の間に建てられた小さな“物置”。周りをコンクリートの塀やお隣りさん家の木でカムフラされているので、玄関側からじゃまず見えない。
「うぅむ……なんつーか、そういうのって漁ってみたくならねぇか?」
「同感だ」
「私も興味がありますわ……ユキ、如何でしょうか?」
あ〜、まぁその気持ちはわからんでもない。なんつーか、物置とか倉庫って、宝捜しをやってる気分になるんだよな。
「ちとばかし、掘り出し物でも探してみますか」
「賛成!」
「異議無し!」
「そうしましょう!」
こうして、《宝捜し》と称した物置漁りが始ま―――
「ユキ、鍵が必要みたいなんだが?」
「鍵?鍵なんて知りませんよ。多分親も知らないんじゃないですかね」
「んじゃ開かねぇじゃんか!」
――る前に、中止が濃厚となった