49:特売日のスーパーは主婦(夫)の戦場!
8月突入編。コメディーに戻ります。
俺らの帰宅を待っていたかのように、降り続いた雨。ようやく晴れ間を見せたのは、綾館家所有の別荘地から帰って来て、8日間目のことだった。
雨は強弱をつけた降り方だったので外出する気も無く、欠勤のところは冷蔵庫にあった食材を食い尽くし、一週間自宅に引きこもるという結果となっていた。
その間に綾館姉妹の襲撃は無く、実に静かな毎日だったが、逆に物足りない気持ちになったのは、あの姉妹が俺ん家に居ることが当たり前になっていて、俺もそんな環境に慣れていたからかもしれない。
本人の前じゃ、口が裂けても言わねぇけど。
で、静かだった一週間くらいの間に、夏休みの課題と称した分厚い“敵(宿題)”に挑み、撃破したのはつい1時間前のこと。
すっきりと晴れた天気は久しぶりで、日付を確認すればもう、8月に突入していた。
「凜、ちょっと買い物行って来る。なんか欲しい物あるか?」
「お姉ちゃん」
「残念だが期待には応えられん」
「じゃあ妹」
「それも無理だ」
「…アイス」
「わかった」
凜はユーモアだな。いや、多分本気だろう…。あいつは昔っから“従姉妹”に懐いてたし、よく姉が欲しいと吐かしてたかんな…。
「んじゃ、行ってく――――」
ドッカアァァンッ!!
「ユキイィッッ!一週間ぶりにユア・スウィート・ハニーがやって来たぞ〜♪――あれ?」
「美雪、正確には一週間と22時間35分41秒で―――あら?」
「〜〜〜〜!!」
「「どうした」ましたか?」
ドアに手をかけた瞬間、顔面直撃の扉と共に、やって来たお騒がせ姉妹…。
正直、あまりの激痛に言葉が出ない。
◇
「ユキぃ?」
「…」
「ユーキー?」
「…」
「ユゥキィ〜?」
「だあぁ!暑い!欝陶しい!!くっつくなぁっ!!!!」
ようやく痛みは失くなってきたが、スーパーへと足を向けている道中の俺にくっついてきた美雪先輩は、文字通り“くっついている”。こんのくそ暑い日にベタベタされるのは、痛みも相成って余計にイラッとさせる。
「一向にだんまりのユキが悪いんだぞ!」
「その原因はあんただよ!」
「む、玄関の件は謝ったじゃないか!」
「“お、悪い悪い!”って態度のどこが謝ってるんだ!?」
「むぅ…あんな所にいたユキが悪い!!」
「逆ギレかよ!?」
なんでこの人からキレられなきゃいかんのだ…キレてぇのはこっちだし!
「一週間だぞ!一週間も私はユキに会えなかったんだぞ!」
「実に静かで清々しかった」
「私は実に寂しかった!ユキがいなくて手足が痙攣したんだぞ!!」
「アル中かよ!?」
まったく…実に変態極まりない。そんなやり取りをしながら、ひんやりとクーラーの効いたスーパーに到着。ああ、涼しい…。
「このスーパーに来たのは二度目だな」
「そういやそうでしたっけ。ん…ああっ!」
「ど、どうした!?」
だ、大根が一本19円だと!?しかもお一人様一本限りだと!?あ、あっちは国産和牛の切り落としがグラム70円!?
「そ、そうか!」
「な、なんなんだ一体…!?」
今日はこのスーパー、月に一度の大安売りだったのか!!どうりで客が多いと思ったぜ…。
「美雪先輩!」
「な、何だ!?」
「今日、ここは戦場だ!」「せ、戦場…?」
そう…安売りに群がる主婦(敵)を押しのけ、数多くのお買い得商品(戦利品)を手に入れなければいけないのだ!この際、「今日は何(料理)をしよう?」なんて考えは置いとくとして、まずは目玉商品を手に入れるべし!
これは主婦(主夫)としての腕の見せどころだな!
「美雪先輩!カゴを準備!」
「あ、わ、わかった!」
「まず手始めに大根を確保!」
「大根!?あ、あれか…というか人が多いな…」
「突入!」
「え?ち、ちょっと待っ!?」
◆◆◆
「よし、確保!美雪先輩は…あ、いた」
戦場(青果コーナー)でまずは大根を確保し、俺は一時離脱。その間に他の商品を肉眼で捕捉する中――
「それは私の大根だ!離せ!!」
「アタシが先に取ったんだよ!テメェこそ離しやがれ!!」
「なんだと貴様!…あれ?」
「やんのかコ…あ?」
あれ?美雪先輩と壮絶な大根の争奪をしてるのって―――
「ああ!貴様はヤンキー女っ!!」
「テメェは生意気女!!」
…獅子神さんだった。
スーパーに群がる主婦って、結構すごいですよね。かくいう私も、主夫(独身ですが)として、特売日にはよく参加します。どこがどこより幾ら安い!とかはあまり気にしませんが、タマゴや米、食パンなんかの「スーパーの白い三種の神器」が安い時には、けっこうな確率で戦場に赴いてます(笑)。