48:帰宅
短めです。コメディ要素もほとんどありません。
綾館家の別荘へと来て、四日目の朝。則ち、今日でこの島ともお別れになる。
何となく寂しい気持ちにもなるが、今はそれ以上にみんなと一緒に過ごした楽しい思い出のほうが、俺の気持ちを占めている。
朝食をいただき、家に帰る準備を済ませ、部屋の掃除。“来た時よりも美しく”ってのが、俺の信条だから。
「ユキ、支度は出来たか?」
「ええ」
「…そうか、なら早く荷物を持って別荘の外へ来い。みんな待ってるぞ!」
美雪先輩は荷物を詰め込んだバッグを手に俺を促す。しっかし、あと10分くらいは余裕があると思ってたんだが、俺を急かすという事は、結構時間が経ってたのかもしれない。
「ほら、行こっ!」
「…了解!」
不意に手を引っ張られた。けど、手を払いのける理由なんて無い。だから握り返す、優しく…そして強く―――
美雪先輩の言う通り、既に全員が揃っていた。
「では、皆様お並び下さい!」
リリナさんは三脚にカメラをセットし、皆を一カ所に集めた。海を背景の記念撮影…皆と過ごした、一生の思い出を撮るために。
「リリナさん早く!」
「え、は、はいっ!」
パシャっ!
慌てるリリナさんってのも、なかなかに珍しい。最後はメイド服という動きにくそうなことも災いしてか、砂に足をとられてよろけながらの滑り込み。
ギリギリセーフで間に合ったリリナさんは、画面中央に位置してた俺や美雪先輩の下の方からのピースサイン。
これには写真が撮れた後で、みんなが笑った。
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帰りも綾館家所有の飛行機やらリムジンやらで手厚い送迎を受け、あっという間に俺達の通う学校の近くへ。
「じゃな相澤!」
最初は獅子神さんが車から降りた。
「ユッキーまたにゃん!」「また学校で」
で、次は結城と河南。
「またみんなで遊びに行こうぜっ!」
「じゃね!」
「……(ペコッ)」
大川・如月・湊が車を降りる。
車に残ったのは、綾館姉妹と俺、凜の四人。
疲れが溜まっていたのか、凜はまだぐっすりと眠っている。
「後はもう、ユキ達だけになったな…」
「…そうですね」
名残惜しいとでも言うべきか…美雪先輩の言葉が、妙に胸に響いた。
「………」
「………」
言葉が続かず、沈黙が社内を包んでいた。けど、何も言えなかったのは、単なる気恥ずかしさだけじゃなくて、楽しかった思い出が、口にすれば安っぽく感じてしまうような…そんな気がしたから―――
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車は止まった。そこがもう、終点だから―――
「美雪先輩…いや、美雪さん。すごく楽しかったです、ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
「うむ、ユキに喜んでもらえたのは、私にとっても嬉しい!」
車を降りて美雪さんに声をかけたら、綺麗な笑顔でそう言ってくれた。堂々と、そして素直な気持ちで俺に笑顔を向けた美雪さんは、窓から手を差し出した。
「またな、ユキ!」
「ええ、また!」
交わした握手から、美雪さんの熱が伝わってくる…。ほんの2、3秒の時間が、10分にも1時間にも長く感じてしまったのは、何故だかわからない…。
でも、手を離してしまえば…この楽しかった時間が終わってしまうような、そんな気がした――――