32:止まない雨………
綾館美雪の視点です。
不穏な空気だった………空は雨雲に覆われ、降り続く雨足は、徐々に強くなっていく………。
「美雪、どうかした?」
「……いや……」
部活も終わり、制服に着替え直していた私に、弓道部副部長の井芹桜花から声を掛けられる。
「雨って憂鬱になるよね〜……」
「まぁな」
「ってか、なんか元気なくない?」
「そうか?雨のせいだろう………」
今日の練習において、私はあまり好調とはいえなかった。まぁ、たまにはこんな事もあるだろうと私は思っていたのだが、どうも桜花から見て、今日の私は弓道の練習以外にも、あまり調子が良いようには見えなかったらしい…………。
「とりあえずお疲れ!!んじゃ私は先に帰るね〜!」
「ああ、また明日」
着替えを先に済ませた桜花が、先に部室を出た。残されたのは私とリリナ姉様の二人。
「姉様、私は疲れているように見えますか?」
「いや、私には何時もの美雪に見えるのですけど」
姉様も別段、私に違和感を感じてはいないようだ。
桜花の思い過ごしだろう、なんて思いながら、私も姉様と部室を出た。
→→→→→
「さて、今日もユキの家に行こう!」
「あらあら、相変わらず美雪はユキラヴですね!」
「当たり前です!ユキはいずれ、私の夫となるのですから!!」
校門を出てすぐに、私は家とは逆報告に位置するユキの家へと、姉様と共に足を向けていた。
ユキの家は、学校から徒歩で10分程度と通勤の利便性が良い。何時も通りに姉様とユキの事を話していて、後少しでユキの家に着く………という所で、背後から爆音を轟かせながら走って来る一台のバイクに気付いた。
「あ、お前っ!」
「ん?あぁっ!お前はヤンキー女っ!!」
私達の横を通り過ぎてすぐに、急にスピードを緩め、そしてバイクは止まった。おもむろにバイクに乗っていた奴はこちらに振り返り、私を指差しメットを脱いだ。
そいつは、我が愛しきユキの家にて一夜を明かした、憎きライバル!たしか…………獅子神なんちゃらって名前だったと思う。
「貴様っ!また性懲りもなくユキの家に上がろうとしてるのかっ!?」
「んだとコラ!テメェも似た………じゃねえ!!お前、相澤に会ったか!?」
私の挑発に乗り掛かってきたヤンキー女だが、ハッと思い出したように相澤の事を尋ねだした。
「今から家に行くところだが………なんだ、ユキがどうかしたのか?」
様子がおかしい………まだ三度ばかりしか顔を合わせた事のない間柄だが、ヤンキー女の表情が、焦りを隠しきれていない。
「連絡は出来るかっ!?」
「どうしたんだ急に?」
「ユキの携帯番号なら、私は知っておりますが?」
………あ、リリナ姉様はユキの携帯番号を知っているんだったな。むぅ、羨ましい!
「今すぐ連絡をとってくれっ!!」
「は、はぁ………」
「一体どうしたというのだ!?」
ヤンキー女の焦る表情と、口から出た“相澤”という言葉が、なぜか私を不安にさせた。もしや、ユキの身に何か――――
「もしもし、ユキ?……………あなたは、ユキではないですね?」
「貸せっ!もしもし!?………やっぱテメェらかっ!!相澤は関係ねぇだろが!」
姉様から引ったくるようにして携帯を取ったヤンキー女は、私と口喧嘩をする時とは違う、鋭さのある目付きとドスの利いた口調で、電話の先にいる人物と話しているようだ。
「姉様、一体何が?」
「……おそらく、ユキは何かに巻き込まれています。おそらく獅子神さん絡みの事でしょう」
「何、だと?」
「電話に出たのは、ユキではありません。誰かがユキをさらった、とも考えられます」
冷静で、口調にあまり変化がみられない姉様だが、普段の優しげな目元が、その時はなぜか、笑みを消していた。
「っクソォ!!!!」
電話は終わったようだが、携帯から顔を話したヤンキー女は、全身から怒りという感情を噴き上げていた。もう、間違いは無い…………ユキの身に、何かが起きている。
「おい、ヤンキー女!ユキに何があった!?」
「………………」
「……答えろ。ユキの身に、何があった?」
「………アタシのせいで、捕まってる」
「どういう意味だ!?」
「昔、アタシら走り屋と対立していた“屍神”って不良グループが、私をおびき出す為に、相澤をさらった………」
ヤンキー女は、歯噛みしながら理由を説明した。
大まかに言うなら、ヤンキー女のグループの前身の走り屋と、屍神ってグループが過去に一悶着あったらしく、その時に屍神のリーダーは逮捕。で、その残党が腹いせにヤンキー女を呼び出す為に、ユキを掠い、人質にとっている………という事か。
「アタシのせいで関係無い相澤を巻き込んだ………アタシのせいで………」
「………ヤンキー女、そいつらの居場所はわかっているのか?」
「……ああ……」
「なら、案内しろ」
「けど、あいつらはアタシ一人で来るように言ったんだ!それに、これ以上誰も巻き込みたくねぇっ!!」
ヤンキー女、お前の気持ちもわからないではない。が、こっちとしても、ただ殴られに行くお前を、黙って見ているわけにはいかない。それに―――
「ユキは私の大切な人だ、黙って見過ごすわけにはいかない!」
「け、けど!!」
「…………案内しろ。この綾館美雪を怒らせだのだ、連中には、高い“代償”を支払ってもらう……姉様っ!」
「手筈は整ってございます!」
私の呼びかけに、リリナ姉様は携帯電話をパチン、と閉じた。………さて、綾館の人間を怒らせた罪、じっくり味わって貰おうか。
「……ヤンキー女、私をバイクに乗せろ」
「だ、だが……」
「ごちゃごちゃ言うな………今の私は最高に機嫌が悪いんだ、連中のいる場所に着く前に殺されたくなかったら、さっさと私を案内しろぉっっ!!!!!!」
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