30:梅雨入りと不運の予兆
朝が来た………時計を見て驚いたのは、6時にセットしていた目覚まし時計が解除されていた事と、既に朝の7時を過ぎていた事。
「おはようございますユキ。差し出がましい事とは思いましたが、目覚ましは解除されていただきました!」
「な、なぜ?」
慌てふためく俺に気付いたのか、リリナさん(メイド服Ver.)が俺の部屋に来室。つか、気配消して来るのはやめて!
「たまにはぐっすりとお休みになられたほうが良いのですよユキは。ほら!」
ずいっ!という疑問系が似合いそうな感じで差し出されたのは、手鏡。そんな顔に向けられても、寝癖と我ながらに思う目付きの悪い表情くらいしか―――
「クマですよク・マ!ここ最近、色々とお疲れのようでしたし」
「………原因があるとすれば、主に綾館姉妹絡みだと思うんですが?」
「あら、ほほほ………」
疲れてる、とは自分でも気付かなかったが、原因はだいたい目前にいるこの人絡み。そんな事を口にすれば、すっげーぎこちない笑いのリリナさん。
「と、とりあえず朝食の準備は終わってますので、着替えを済ませたらリビングの方ヘ来て下さい!」
「は、はぁ……」
→
「おはようユキ!!」
「おはよう」
「……おはよう……」
「おはようございますユキ、まずは顔を洗って来てくださいね」
「おはようみんな………………あ?」
さて、我が家には現在、俺を含め綾館姉妹と妹の4人が居るはずだ。しかしながら、俺に向けられたおはようの言葉が、なぜか1人分…………多い?
「あ?……………み、湊っ?!」
「………そう」
お前、家は綾館姉妹と同じで逆方向じゃないか?
「………凜ちゃん……友達……いつか……恋人…………」
「うぉぃ!!」
兄(俺)の前で堂々と凜(妹)を口説くな湊ぉ!!
→→→→→→→→→→→→
リリナさんの朝食(以下略)を慌ただしくも堪能し、今朝は珍しく普通に「私の彼氏にならないか?」発言の美雪先輩をスルーした俺。ちなみにだが、綾館姉妹の制服やリリナさんのメイド服(白服Ver.)は、俺が目を覚ます2時間ほど前に、綾館家から届けさせたのだそうだ。
またまた余談だが、美雪先輩は昨日、俺のTシャツと黒いジャージを借りた。で、朝起きてリリナ先輩に着替えを促されたのだが「ユキの匂いがするからヤダ!!」と、駄々をこねたらしい………もう、完全な変態さんである。
学校ヘは毎度の事ながら10分ほどと近場にある我が家だから、急ぐ必要も無くテレビで天気予報なんぞを観ていた。
「梅雨入りですか」
「みたいですね」
洗い物を済ませたリリナさんが、テレビで発表された梅雨入りの話題を口にした。まぁわからなくもない、現在六月。梅雨入りとしては十分な時期だ。それに、現在外の天気は雨。
激しくはないが、じっとりシトシトと降る雨と、高い湿度である。
“今日の占い〜♪”
天気予報も終わり、8時前の占いが始まる。俺自身は占いというものを信じちゃいないが、我が家の女帝もとい凜は、占いを欠かさず観る。
“今日の一位は双子座!思いがけない幸運が舞い降りてきそうです!ラッキーアイテムは―――”
「………ふふふ………」
湊こわっ!!
さて、双子座の湊が不気味な含み笑いをしていく中、どんどんと発表される星座。だが、俺の射手座が出て来ない………。
“残念!今日の最下位は射手座のあなた。知らず知らずのうちに、悪い出来事に巻きこまれそう。ラッキーアイテムはピンクのリボンです!”
持ってねぇよ。
占いを信じない俺だが、結構へこむ。なんで朝っぱらからテンションを下げられなきゃいけねえんだ。
「ユキ、ピンクのリボンを貸しましょうか?」
「いらねぇよ」
リリナ先輩、貴女は何でも持ってるんすね………。