27:お料理ですか?獅子神さん
外は春から梅雨へと季節を変えゆく。あれほど晴れ間を覗かせていた空も夜が近づくにつれ、雲に暑さが増していた。
そんな時間帯、俺は来客である獅子神さんに料理のレクチャーをしている。
「では、まずはお味噌汁を作りましょう!」
「う、うん!!」
俺愛用の黒いエプロンを着用してる獅子神さんは、些か緊張気味である。
「まず最初は、カップに水を注ぎます。今回は―――」
材料は俺、妹、獅子神さんの三人分を準備。味噌汁って家庭ごとに具材や味噌が違うんだが、今回はオーソドックス(?)に、豆腐と油あげ、ワカメの入った味噌汁を作る事にした。
「んで、沸騰させたお湯の中に、鰹節を投入しましょう」
「は、はい!こ、このぐらい――」
「いや、もっとガバッと入れましょう」
「えっ?こんなにっ!?」
ま、驚くのも無理ないか。でも鰹節っていうのはケチらずガバッと大量に入れるのが、旨味を引き出すコツでもある。
「ひと煮立ちさせたら火を止めて、ガーゼで鰹節を漉します」
「ふむ」
熱心にメモを取る所は感心に値する。
が…………
「鍋が吹き零れてますよ!火を止めて!!」
「あ?あぁっ!?」
慌てて火を止める獅子神さん。そういや、メモ帳なんてどっから持って来た?
「で、ガーゼを敷いたボウルに移すんだっけ?」
「んぁ?あ、あぁ、そうです!」
いらん事ばっか考えてた。今は料理を教えてるから、そっちに集中せねば。
「次は、ガーゼで漉したスープを再び鍋に戻して下さい」
「んで、次は材料を切りましょう」
鍋にスープを戻すまでは、まぁたいした不安も無かったんだが、問題は包丁である……………あれ?
「なんか、妙に似合ってますね………」
「そう?鉄パイプとか木刀は持ち慣れてんだけどねぇ?」
「あ、あははは……」
うわぁ……容易に想像出来るのがまた怖ぇ……。
「ま、まぁワカメを水で戻す間に、豆腐と油あげを一口サイズに切りましょう!」
「OK!」
添え手やら切り方やらを教え、不安げながらも豆腐から切り始めた獅子神さん。トン……トン………と、ぎこちないのは仕方ない。が、意外と几帳面なのか、豆腐を試しに並べてみれば、肉眼では寸分違わぬキッチリと切り揃えられてる。
「えっと、な、何か問題でもあるか!?」
「あぁ、いや、几帳面なんだなぁと思って」
「そ、そうか?」
なんともいえなさそうな表情は、不安の表れだろう。ただ、不安になる要素は今の所無い。
んで、ぎこちないながらも豆腐・油あげを切り終え、水で戻しておいた乾燥ワカメも、適当な大きさにカット。それらを鍋に投入し、今度は沸騰させない程度に火を調整し、味見をしながら味噌をおたまで溶く。
「ん、いいでしょう!」
「………あ、美味しい!これ、私が作ったんだ………」
こういう些細な嬉しさっていうのも、上達を早めるんだよな。小皿で味見をし、嬉しそうに口角を緩ませる獅子神さん。なんか、キツそうな見た目よりも、ずっと可愛い。
他には卵焼き・青菜のお浸し・鯵の開き(自家製)なんかも調理。なんやかんやと悪戦苦闘…………というほど、ハプニング的な事は無かったので割愛。
んで、全ての調理を終えてテーブルに料理を並べているさなか―――
「ただいまー」
妹君、降臨(帰宅)。
さてと、料理も運び終えたし―――
「……お邪魔します」
「ユキ!スウィート・ハニーが帰って来た…………あ?」
「お邪魔しますユキ。夕食の準備をお手伝い………あら?」
予定人数分をオーバー。というより………
「なんで湊が!?」
「ユキの友達?この人、面白いから連れて来た」
「……連れて来られた」
白色黒髪寡黙美人、湊奏が家に来るのは初めてだな。つーか、明らかに妹狙いだろ………
「貴様ぁ!性懲りもなくユキをたぶらかしにきたのかっ!!」
「黙れストーカー女あぁっ!!てめぇこそ妄想膨らまし過ぎて現実とごっちゃになってんだろっ!!!!」
「何ぃっ!!」
「やんのかコラァっ!!」
ちょっ、美雪先輩やめて!獅子神さんも包丁構えないで!!
そ、そうだリリナさんに止めてもらえば―――
「あら?これではお料理が足りませんねぇ、予め材料は手配しておいたので―――」
うわぁ………既に別世界にトリップしてらっしゃる。つか、この状況を俺にどうしろと?