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26:再び登場

美人で美声を持つクラスメイトからの爆弾発言は、うちらメンバーはおろかクラス全体をざわつかせた。


「ま、まぁ誰が誰を好きになろうと、それは当人の嗜好性の問題であり、第三者となる私達が―――」


美雪先輩の口調から、動揺が隠せてない。ま、そりゃそうだな。俺でさえビックリしてる。


「………他者から理解してもらうつもりは無い…………ちなみに、今狙っているのは由希の妹………」


こ、こえぇよ湊っ!!!!つかなぜ凜を知ってる!?


「………この前街に本を買いに行った時、私がナンパされた………偶然通りかかった凜ちゃんに助けられた………惚れた……」


フラグ立てとる!!


「……華奢で可憐なイメージとは裏腹に、身の丈が倍近い男を薙ぎ倒す強さ………惚れた……」


“惚れた”は2回聞いたよ。


「万々歳じゃないか!!」

「どこがだよっ!!」


自分の事しか考えない“万年発情色ボケ女”めっ!!











色々と衝撃的な昼休みから3時間後である。学校も終わり、家が視界に映り込んだ矢先、うろうろと家を窺うような人影が見えた。

服装とかは遠くから見る限りではまともでも、その挙動は完全に不審者だ。

しかしまぁなんというか、近づけば近づく程、その不審者に見覚えが―――


「あっ!相澤っ!!」


黒い半袖ジャケットに、真っ白なインナー。タイトな黒いジーンズに身を包んだショートカットの女の人が、俺を見つけて声を掛けてきた。


「―――あ、獅子神さんっ?」


昨日、我が家で一夜を過ごしたツリ目美人の獅子神さんだった。


「き、昨日から借りていた服を洗ったから返しに来たんだ!」

「ああ、別に返さなくてもよかったのに」

「そうはいかん!恩というのは、キチンと返さないと罰が当たるものだ!それに、私の信条に反する!!」


なかなか硬派なお方である。


「ま、せっかくですから家でお茶でもどうですか?客人をもてなさずに返すのは、我が家の“家訓”に反しますので」

「アッハッハ!こりゃ嬉しいお誘いだ。んじゃ、お言葉に甘えて………」


意外と冗談やユーモアにも長けた人のようである。

家訓というのは嘘だが、お人よしな俺を察しての事だろう、昨日の事もあるし、すんなりお誘いにノッてくれた。











昨晩の特攻服姿とは打って変わって、私服姿の獅子神さん。モデル顔負けなスタイルの良さと、露出した手足の細さは、決して“走り屋”の総長をやっているとは思えない。

そんな事を考えながら茶を淹れて…………あ、我が家のキッチンに知らない調味料やらお茶やらが増えてる。リリナさんだな。


「どうぞ。あ、これは即席ですが………」


我が家の粗茶と、買い置きしていた芋羊羹いもようかんをパッとアレンジしたキンツバを差し出す。

口に合えばいいが………


「ありがとう。………んん、美味い!」


あ、よかった!

余談だが、妹は生クリーム系の洋菓子。俺は小豆餡系の和菓子が好みである。


「即席と言ったが、これも相澤が作ったのか?」

「作った………という程の事でもないですが」


キンツバを作るのは、意外と簡単である。市販の羊羹に、小麦・片栗を混ぜた混合粉を水で薄く溶き、それを羊羹に浸け、熱したフライパンで焼く………ただそれだけ。


「へぇ………そういや“あの人”も、和菓子が好きだったなぁ………」

「“あの人”?」

「ん?ああ………アタシの初恋の人だよ。もう、死んじまっていないけどなぁ……」

「す、すみません!軽率でした!!」


何気なかった言葉は、獅子神さんの心の悲しみをさらけ出していた。「アッハッハ!気にすんなって!!」って、獅子神さんは笑っているが、いたたまれない………。


「ま、今だってアタシの心の中に生き続けてんだ。下手な同情は、かえって相手を怒らせる。だから気にすんな!!」

「は、はい!」

「ん、よし!!」


諭すような物言いには、一切の影は見えない。こっちとしても、気分が楽になる。サバサバと気さくな感じの獅子神さん、やっぱ良い人そうだ。











「それはそうとして、やっぱしアタシも料理とか覚えるべきだよなぁ……」

「しないんですか?意外と何でも出来そうなイメージですけど」


ちとばかし、よいしょしてみた。


「相澤、アタシは人の嘘やお世辞を見抜くのは得意なんだ」


全く通用しなかった。


「ま、まぁ誰にだって得手・不得手はあるし……」

「というより、料理をした事が無い」


そっちか!!って事は、この人も実家は金持ち―――


「うちは共働きで、メシの代わりにお金が置いてあったから、だいたいコンビニかファミレスが主だったんだよ」


共働きか。俺ん家と似てるな。


「ま、そこに料理を作るって考えが浮かばなかったんだ。ただアタシも来月には19になるし、いい加減、料理くらいは覚えたいと思ってんだ。今更遅いとは、思うんだが………」

「何かを始めるのに、遅い・早いは関係ないんじゃないですか?ようは当人のやる気次第なわけだと、俺は思いますが」


これは、全ての事に共通すると俺は思う。もちろん“やる気”だけじゃやっていけない事は多々あるが、それでも“〜〜まで”“〜〜くらいなら”なんて気持ちで物事に臨むよりは、ずっと進歩する。


「付け加えるなら、小さな事から目標を定めるのも良いと思いますよ?」


小さな目標ってのは、誰でも簡単に出来るような事だ。例にあげる程でもないが、自分に出来そうな事を最初の目標に定め、それを達成した後、次はそれよりも少し難しい事を目標に………達成すれば、その次は達成したものよりもまた少し難しい事に、ってな具合である。最初から出来そうにもない目標を定めるのは、出来なかった時に「ま、ダメ元だし」という言い訳にしかならない。


「理屈はよくわかる。けど、実に解せない……」

「えっ、解りづらかったかな………?」


だいたいは誰でも把握出来るような説明だと思ったんだけどなぁ………。


「妙に言い回しとか説明が上手いんだよなぁ……なんか、年下のくせに生意気……」


解せない所ってソコかよっ!?

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