表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/102

番外編:重なる面影……

新キャラの“獅子神紗姫”の視点&過去編です。ちょい長いかな?

日付けが変わった。けど、眠れない………。

私、獅子神紗姫は今、初対面の男の家のベッドで寝ている。

ま、まぁ誤解のないように言っておくが、男の部屋ではなく、その男の妹の部屋で寝ている。

元々、私は夜型の人間だから眠れないのもあるが、やっぱり会ったばかりの人間の家で一夜を過ごすという理由が、大半を占めているのだろう。


私を介抱してくれた男は、私よりも2歳年下の高校生。切れ長の瞳はどこか私に似てもいるが、お人よしな性格は、私と相反する。

相澤由希………だっけ、妹からはユキって呼ばれてたな。


私は人と関わるのが苦手だ。小さい頃の記憶だが、顔を合わせれば口論ばかりの両親、学校へ行けば、クラスメイトから陰湿なイジメを受けていた。

絶望の日々を過ごす中で、私は自分以外の人間を信用出来なくなっていた。

イジメに対抗するために覚えた、護身のための空手。絡まれた不良を薙ぎ倒すくらいに強くなった。イジメも無くなった。

けど、同時に周りは私を恐怖の目で見るようになった。

離れていくクラスメイト、干渉しない両親………不満ばかりが募る毎日に、私はある日、夜の街に出た。


安っぽいネオンの光、下卑た笑みを浮かべながら男を誘う客引き、夜に輝くホストやホステス・キャバ嬢。全てが見慣れない光景だった。

しかし、夜に活動するのはそれだけじゃない。

街外れの空き地に差し掛かった時、私は不良連中に絡まれた。

下品な連中に虫酸が走る、肩に置かれた手を払うと、男連中は一斉に飛び掛かってきた。

ま、不良なんぞ私にとっちゃ他愛のないもんだ。5、6人を相手にしたが、私は大して殴られるような事も無く、男連中を地に沈めた。

もちろん、そこで終わりのはずだった―――


「へぇ………あんた強ぇなぁ」


拳に付いた血をハンカチで拭いている最中だった。見知らぬ男の声が、私に向けられた。


「……何?なんか用?ああ、もしかしてコレ、あんたの仲間だった?」


外灯下、キャップを深々と被った男にそう言葉を返すと、男は高らかに笑う。


「アッハハハ!いやいや、俺はこいつらみたいなクズとは似て非なるもんだ。俺は剣灘明つるぎなだ・めい、走り屋だ」


剣灘と名乗った男は、そう言った。

なんでも“ソード”という走り屋の代表で、夜な夜な街をバイクで駆けているという。


「暴走族と変わんないじゃん」

「ま、確かにな。ただ、俺達にゃルールがある」


他人には迷惑を掛けない・酒無し・薬無し・喧嘩上等!の、暗黙のルールがある。と、そいつは言った。

所謂、硬派な“暴走族”というところだ。


「んな事より、お前、高校生だろ?」

「……関係ねぇだろ」


気付きやがった。


「ま、関係ねぇな。ただ、親に心配はかけるんじゃねえよ」

「てめぇにゃ関係ねぇだろっ!!アタシが家にいない事も気付かない、顔を突き合わせりゃ口喧嘩ばっか!学校に行けば、アタシを腫れ物扱いの教師にクラスメイト!!みんな、アタシの心配なんかするわけねぇだろっ!!!!」


剣灘って奴の言葉は、私の何かを弾いた。つい、不満と本音をぶちまけた………。


「……お前、名前は?」

「あ?んだよ急に……」

「名前だよな・ま・え!」「し、獅子神紗姫……」


なんでこの時、素直に自分の名前を口にしたのか、今でも不思議に思う。


「へぇ、かっこいいな!んじゃ獅子神、ちっとこっち来い!」


言うが早いか、剣灘はつかつかと私に近づいて、手を引っ張った。


「え、な、何だよ、何すんだよ!?」

「ああ、心配すんな!俺は年下なんぞにゃ興味ねえから」

「心配って何だよ!てか、アタシもてめぇなんか興味ねぇ!!」

「アッハッハ!お前面白れえな、んじゃ行くぞ!!」

「ひ、人の話を聞けーーっ!!!!」


強引な奴だった。ケラケラと笑う剣灘は、他の男とは違う屈託のない笑みだった。だからだろう、口では否定ばっかりする私なのに、嫌じゃなかった。




連れて行かれた先は、私が普段よく使うコンビニだった。けど、中には入らずに駐輪場ヘ。

原付きにチャリが並ぶ中、剣灘が1台のバイクの前に近付いた。


「ホレッ!」


ポイッと投げられた丸い物体を受け取る。ヘルメットだ。


「んじゃ行くぞ!ほれ、乗れ乗れ!!」

「え、え、え?あ、ち、ちょっと待っ!!」


エンジンを掛け、さっさと走りだそうとする剣灘。私は慌てて、彼の後ろに跳び乗った。


「メット被ったか?んじゃ、しっかりつかまってろよ?」


車道に出て、私を乗せて走りだしたバイク。ぐんぐん上がる速度に、私は必死になってしがみついた。


しばらく走っていたバイクのスピードが緩み、そして止まった。


「おら、着いたぞ!」


恐る恐る目を開けた。人気のない山の中のようで、私は恐怖で身構えた。


「何やってんだ?そっからじゃ見えねぇよ」


は?見えるって?


ザクザクと茂みを掻き分けて、覚束ない外灯を頼りにどんどんと上の方ヘと登っていく剣灘。私も慌ててその後を追い………


「ほら、見てみろよ!」


ぽっかりと広くなった、貯水漕らしき施設のような場所から、彼は指さした。


「………うわぁ!」


それは今でも忘れない、二人で見た夜景。

外灯や街の看板やネオン、そして、車のテールランプの赤。


「俺、ここの景色が好きなんだよ。綺麗だろ?」

「ま、まあまあじゃん!!」「んだよ、素直じゃねぇなあ……」


照れ隠し。素直に感動してる事を悟られまいとした私の意地に、彼は苦笑。


「………あ、この場所、誰にも言うなよ?俺だけの秘密だったんだかんな!」

「う〜〜ん、どうしよっかなぁ?」


わざと、そんな事を言ってみる。慌てる彼が、面白かった。

しばらくその景色を見て、ふと思った事を疑問にした。


「なんでアタシをこの場所に連れて来たの?」

「ん………そういわれりゃ、なんでだろうな?」

「はぁ?何それ?」


思わず笑った。久しぶりに笑った。そういえば、最後に笑ったのはいつだったっけ?なんて思った。


「なんだ、笑えんじゃん!」

「ばっ、バカにしないでよ!私だって笑うわよ!!」

「アッハッハ!そんだけ言えりゃ大丈夫だな。お前、なんか死にそうな顔してたからな」


そんなに暗かったのか?


「ま、元気が無くなったらまた連れて来てやるよ」


帰るぞ!なんて口にした彼。本当は、まだ帰りたくなんてなくて………。思えば、私は彼に恋をしていたんだ。




ご丁寧にも、彼は私を自宅近くまで送ってくれた。なぜ自宅の前じゃないのか?それは、バイクのエンジン女が、騒音になるからという配慮から。

もらった名刺は、彼の仕事場である整備工場の名前が書いてあった。

案外近所だという事が、何となく嬉しい。

それから私は、学校帰りにはちょくちょく彼の仕事場である整備工場ヘと遊びに行ったりした。そこで働く男連中は、ゴツイけど面白い人ばかり。みんな“ソード”のメンバーだという。鬱憤が溜まった時やむしゃくしゃした時なんかは、よく彼のバイクの後ろに乗って、みんなで走った。

そのうち私も、バイクの魅力に惹かれ、まずは原付き・そして18歳の誕生日を期に、中型免許を取得した。これで、みんなと肩を並べて走れる!

嬉しくて、1番に彼に報告しようと行った整備工場…………。


「な、なんだよコレ…………」


黒と白の幕。嫌な胸騒ぎは的中した――――


「サキちゃん………明が、明が………」


メンバーで1番のクールフェイスの坂巻さんが、歯を食いしばっていた。


「明さんが、どうかしたんですか!?ねぇ、坂巻さんっ!!」


受け入れたくない現実。メンバーのみんなが零す涙が、彼の“死”を物語っていた。


「……“屍神”の連中にやられたんだよ……」

「嘘だ!剣灘さんは、剣灘さんはあんな連中相手に負けるわけないっ!!」


“屍神”は、ソードと敵対する暴走族のチームだった。恐喝・カツアゲ・婦女暴行の噂が絶えない、外道。そんな奴らに、彼が――――


「坂巻さん!屍神の拠点はどこ!?」

「なんでそんな事――」

「決まってるでしょ!潰すのよっ!!剣灘さんが決めたルールに“喧嘩上等!”があるわ!!私は許さない………絶対に許さない!!」


もう、いてもたってもいられなかった。私は坂巻さんの言葉も待たず、工場を飛び出した。



走っても走っても見つからない。苛立ちも疲労も募る一方の中、大勢のバイクが、私の前に止まった。


「乗れ!明がやられて悔しいのはサキちゃんだけじゃねえんだ、俺らは今から弔い合戦に行く!!怪我も覚悟なら、ついて来い!!!!」


坂巻さんだった。そして坂巻さんを筆頭に、ソードのメンバー全員が、揃っていた。


「坂巻さん、みんな……行くぞ!弔いだっ!!!!」


思えばこれが“獅子神”の始まりだった。




着いた先は、廃工場。

そこに、屍神の連中はいた。


「んだ、お前ら?」

「ソードだよ。………理由は、分かってるよな?」

「理由?………ああ、そーいや剣灘って奴をボコッたっけか?あ、もしかして死んじゃったとか?」

『ギャハハハ!!!!』


リーダーであろう金髪の男は、悪びれた様子もない。連中から下品な笑い声が上がる。

もう、我慢出来なかった―――


「詫びは地獄で言いやがれぇ!!!!」


こっちは十数程度。向こうは50近く。数では圧倒的に不利だった。

しかし、数なんて問題にはならない。私達はもう、決死で殴り込みに来たのだ、覚悟の出来た人間に、怖いものは無い。


徐々に優勢になっていく。屍累々とはいわないが、あちらこちらで、戦闘不能になった屍神の連中。

残すはもう、小数の連中とリーダーの金髪だけだ。


「な、なっ!?!?!?」

「テメェらみてぇな外道が街にのさばってるたげでヘドが出るんだよ………」

「ま、待て!」

「謝るのが遅ぇんだよ………」


泣いて詫びを入れようが、私の愛した人はもう帰っては来ない。今の私を支配しているのは、怒りのみ。

転がっていた鉄パイプを拾いあげた私は、腰をぬかして動けない金髪を見下ろしていた。


「語択は地獄で並べやがれえぇぇっっっ!!!!」

「ひ、ひいぃ!!!!!!」


鉄パイプを振り下ろし、奴の頭は血だらけになる………はずだった。


ガシッ!!


「なっ!?」


しかし、すんでの所で鉄パイプは金髪の頭上で止められた………。


「……やめとけ……」

「なんで……なんで止めんだよ坂巻さんっ!!」


鉄パイプの先端をしっかりと握っていたのは、坂巻さんだった。


「悔しくねぇのかよ!?アタシは、アタシは……っ!!!!」

「悔しいに決まってるだろ!殺してやりてぇよっ!!けどな、これを振り下ろした瞬間、お前はこいつらと同等になっちまう!!あいつは……明は、そんな事を望んじゃいねえんだよっ!!」


ポタリ………ポタリ…………坂巻さんは、泣いていた……。


「っく、うぅ……」

「……帰るぞ」


だらりと力無く垂れた手から、鉄パイプが音を立てて地面に転がった。

そして、私を支配したのは怒りでも悔しさでもなく………哀しみだった。

坂巻さんに優しく諭され、私達は呆然とする金髪を尻目に、廃工場を後にした―――。











柄にも無く、過去を思い出した。

あれから数カ月、私は坂巻さん以下、メンバーのみんなから誘われて“獅子神”としてチームを立ち上げた。“ソード”から“獅子神へと”名を変えても、私達のルールである(酒無し・薬無し・喧嘩上等!)は、今も受け継がれている。

いや、それだけじゃない。私は他にも、剣灘さんから受け継がれた物がある。それは、彼の愛車バイクと特攻服。

そして、私だけじゃない、メンバーのみんなが、彼の意志を引き継いでいる。




つい数時間前の出来事、私は屍神の残党に襲われた。鉄パイプに木刀、凶器になる物で散々に痛めつけられたが、レイプ紛いの事にならなかっただけ、マシだったのだろう。

走りに出る前に徒歩でコンビニに寄る途中だったから、おそらくバイクも無事。とはいえ、身体はボロボロだった私は、なぜあんな所に居たのだろうか?

不思議でしょうがない。




………なぜ過去の事を思い出したのか、今、何となく分かる気がする。

切れ長な瞳や年下って所、それに彼とは違ってお調子者って感じはなくても、どこか似た“強引”な所は、彼の面影を見せた……。


「相澤由希……か……」


規則正しい寝息を立てている女の子を片目で見ながら、私は強引だけどお人よしな、家主の名前を口にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ