22:落としものは………
新キャラです。今後バンバン登場する機会のあるキャラです。
毎度恒例となった綾館姉妹の我が家(部屋)襲撃、そして変態らしい“ド下ネタ”の告白も251回目の玉砕となった今日は火曜。
ちなみに今日の告白台詞は―――
「ユキ、一糸纏わぬ私の身体を見たいとは思わないか?いや、いっそ今日は初夜―――」
もう恋人関係以上を望んでいらっしゃる。あくまでも俺と変態先輩は“友達関係”でしかないのだから、それはもう丁重に「黙れ!年中発情女っ!!」と、お断りさせていただいた。
羨ましい奴………なんて思う人もいるかもしれないが、俺は彼女でもない女の裸を見て喜ぶほど、まだ落ちぶれちゃいない。
まぁ早朝はそんな感じで、これまた勝手知ったるなんとやら………みたいな感じのリリナ先輩の手料理に舌鼓を打たせて頂いた。
ちなみに両親だが、昨晩父親は単身赴任として地方ヘと戻り、母親はまだ夜も明けぬうちから香港ヘ。
そして、妹と二人っきりになった我が家は、相も変わらずな日常に戻った。
妹に見送られ、俺と綾館姉妹の三人で登校する風景も最近は当たり前のようになり始め、学校ヘ到着するや否や、井芹先輩に強制連行されていく美雪先輩と、その後を追うリリナ先輩。そんな光景に笑みが零れつつ教室ヘと入れば、これまた変わらぬ面々からの、普段通りの挨拶を交わす。
学校での一日も終え、今日は生徒会ヘと出向していく美雪先輩に帰りの挨拶を済ませ、家ヘ帰る。
家に帰れば家事を済ませ、夕飯の支度。
全ての家事を熟し終えた頃には妹も帰宅し、ぼろくその評価を得た夕飯を済ませ、何気なく開いた冷蔵庫を見て気付く………。
(……食料が無ぇ……)
最近、我が妹君の食欲は俺の倍ほどある。故に食料の消費も早いんだが、まさかこれほどとは………
「凜、買い物に行くけど何か欲しいものあるか?」
「ん、特に無い」
ほぉ、珍しい。
ま、それはさておき買い物行くか。
⇒
学校とは逆方向にあるスーパーヘは、徒歩10分と近い。しかし、俺は自転車で行く。何故?ママチャリは前と後ろにカゴがついてるから楽!という理由だ。
適当に肉・野菜・魚介を買い物カゴに詰め込み、日用品云々に目を配りながら、レジで精算。
チャリカゴに買った品物を入れ、いざ帰宅!といわんばかりにチャリをこぐ。
まぁこれといった問題も無く、普通に家に帰り着くんだろうなぁ………なんて思った矢先だった。
「なんだあれ?」
スーパーヘ行く時には無かった黒い塊が、歩道を遮るように横たわり、時折車道を走る車のライトに照らされている。
近付くに連れ、その黒い塊はぼんやりとした姿を明確にさせ、5メートルほどまで近づいた時、俺はようやく気付いた。
「だ、大丈夫ですか!?」
ボロボロに破けた服、汚れや傷、滲んだ血。黒ずくめの服から覗くそれは、間違いなく人間の女性だ。
擦れたり切れた傷跡、ボロボロに破けた服はとても痛々しく、その痛みのせいか、呼びかけにも反応しない。顔の近くに手を持っていけば、はっきりとわかる息遣い。おそらく気を失っているようだ。
救急車を呼ぼうと思い、携帯に手を伸ばして、気付いた。
女性の羽織っている黒い服は、丈がやけに長く、様々な刺繍が施されている。
俗に言う“特攻服”というヤツだ。すなわちこの女性は、暴走族という類に属する人らしい。
「下手に通報するのはやばいかもな………」
独り言を呟きつつ、抱え上げてみれば、意外と軽い。このまま道にホッとくのも気がひけるので、おんぶ状態で自転車を押しつつ、とりあえず家に連れていく事にした。
◇
「………えらく珍しいものを拾ってきたみたいね」
「馬鹿言ってねえで手伝ってくれ!」
帰宅早々の俺に、妹は顔色一つ変えない。とりあえず気絶してる女性をリビングのソファに寝かせ、俺は食料をその辺に起き、濡れタオルやら薬箱やらを取りに行く。その間に凜は台所ヘ行き、コップに冷蔵庫でキンキンに冷えた水を注いで、女性の元ヘと持っていく。いや、気絶してる人間が飲むわけ無えだろって…………
バシャッ!!
「って何やってんだお前ぇぇぇえっっ!?!?!?」
あろう事か、冷水を女性の顔にぶっかけやがった!!
「う、うう………冷たい……」
「あ、気付いた」
そりゃ気付くだろうが、荒いよ凜………
「大丈夫っすか?」
「ここ……は?」
「俺ん家っす。本当なら救急車呼ぼうと思ったんですけど、その格好じゃ、呼ばないほうがいいと思って。あ、俺は相澤由希です」
状況が把握できねぇんだろう。まぁ無理もない、目が覚めたら知らない人ん家にいました。だもんな。
「……悪い、手間かけちまったようだな。アタシはもう大丈………」
ドタンッ!
「だ、大丈夫っすか!?」
「だ、大丈ぶ……っ!?」
バタンッ!!
どうやら相当ダメージが残っているようで、足元が覚束ないようだ。フラフラと立ち上がる事は出来ても、歩く事はままならない。
「無理しないほうがいいっすよ、今日は泊まってって下さい」
「アホか!腐っても“獅子神”の総長やってんだ、これ以上弱みなんて見せられねぇ!!」
「………ユキの言う通りにしたほうがいい。そんな状態で出ていくなんて、無謀……」
凜が俺の意見に賛同するのは珍しい。まぁそれくらい身体が弱ってるんだとわかるのだろう。
つか“獅子神”って何だろうか、暴走族のチーム名か?
「無謀かどうかはアタシ自身で決める!他人にとやかく言われる筋合いは無ぇっ!!」
「……威勢がいいのは認めますが、弱ってる人間を見過ごす事は、俺には出来ねぇんすよ」
「アタシは弱ってねぇ!!!!」
強情っ張りだなぁ。
「たまには他人に甘えるのも覚えたほうがいいんじゃないすかね?意地を通すのも結構ですが、そのうち身を滅ぼしますよ」
「うるせぇ!」
あーもーしゃあねぇなぁ………
「………ガタガタぬかすな、あんたがどうなろうと知ったこっちゃねえが、そんな身体で外に出て、もしもの事があったら、なんて考えたら、こっちの目覚めも悪ぃんだよ」
「な、なっ!?」
「別に恩を売るつもりも無ぇし、返してもらうつもりも無ぇよ。あんたは俺らを疑ってるみてえだが、俺はあんたを疑っちゃいねえ。人はもちつもたれつで生きてんだ、俺はあんたが倒れてたから助けた。ただそれだけだ、他意は無い」
昔っから、俺達兄妹は両親が多忙の身で、いつも二人っきりだった。それに、周りから支えられて、今の俺達がある。だから他人であっても、ほっとけないんだ。
「今日一日ゆっくり休んでくれれば、それでいい。うちは両親が仕事でいないから、気兼ねする必要もないし」
「………ま、待て!アタシは見ての通りの人間だ。アタシがお前ん家に泊まってる姿を誰かに見られたら、お前らに迷惑が掛かる」
ま、確かに暴走族を家に招いた………なんてのは、初めての経験だな。
「俺はあんたを担いで来たんだ、今更だ。なあ?」
「………風評で困るほど、私達は弱くない」
凜の言う通りだ。
「…………ありがとう」
あれだけ威勢のよかった声は小さくなった。けど、どこかすまなさそうに、そして嬉しそうな女の人の声。ボロボロになった衣服でも、汚れや擦り傷の付いた顔でも、恥ずかしそうに笑ってくれたその顔は、何故だか綺麗だった。