17:折れたら負け
「ぜってーヤダッ!!」
「むぅ……だいたいユキが悪い!なぜ姉様には自由に呼ばせて私は制限がかかるのだ!?納得出来ん!!」
「リリナさんの俺に対する呼び名は正当だけど、先輩の強要する呼び名は間違ってるからだ!!」
ギャーギャー!!と、俺の呼び名について言い争う俺と先輩。両親は全く干渉せず、リリナさんの淹れた紅茶(リリナが持って来た)を飲み、まったりとしてやがる………。
うちの両親は、余程の事がない限りは加勢しない。
一方に加勢すれば、一方から角が立つ(字あってる?)って感じだ。
リリナさんの場合は、単なるじゃれあい程度としか感じてないんだろう。
だが、俺にとっちゃ大問題である!“ダーリン”やら“旦那様”なんて他人の前で平気で呼ばれでもすれば、俺は恥ずかしさで人前には出ていけねぇ………。
「ぬぅ……まだ折れんか!?」
「折れてたまるかあぁぁあっ!!!!」
「ならば妥協して“ハニー”と呼べ!」
「なおさら悪いわっ!!」
「ならば!今すぐ私を彼女にしろっ!!」
「ならばじゃねえ!!なんで妥協して彼女になんなきゃいけねぇんだ!?しかも妥協どころかハードル高くなってる!!」
→→→→→
何とか妥協と呼べるレベルまで下げ、今は………
「なぁユキ!」
「……なんすか“美雪”先輩?」
「……っ!?い、いかん!興奮して鼻血垂れてきた」
「………」
名前を呼んだだけで鼻血垂らすって………もし、俺が先輩を“ハニー”とか呼んだら――――
うわー………背筋がゾッとした!!
んで、その後は「ユキー?」「なんすか美雪先輩?」なんてやり取りを散々やらされ、俺が飽きたにも拘わらず、「ユキー?」と、今も理由無く俺を呼ぶ変態先輩。
時計の針が正午に差し掛かりつつあるって事は、かれこれ1時間近く、このやり取りをやった事になる。
「そろそろ飯か……」
「では私が「リリナさんはお客さんですから!」
「なら、久々に私「やめて母さん!全員病院送りになる!!」
母の料理は壊滅的である。軽いバイオテロ並の破壊力を持っている(経験済み)から、綾館姉妹に食わせるわけにはいかない。
………妹は、この才能を母から受け継いだらしい。将来の彼氏が可哀相だ。
「俺が作るよ」
「ユキの手料理か!ゆくゆくは私をりょ「下ネタNG!反対!!」
やっぱり先輩は変態だったわけで……。
そんな光景を両親は
「青春だねぇ…」
「私がお祖母ちゃんになる日も、そう遠くなさそうだわぁ」
こんな青春ヤダッ!!そしてものすごくリアルな目で俺を見るな母!!
→→→→→
いつも通りの料理(ご飯・みそ汁・ほうれん草のお浸し・鯖の干物)を作った俺に、両親は「リリナちゃんのお料理のほうがいい!」とか「有り難みを感じない」と、非難轟々。
高級食材をふんだんに使ったプロ(メイド)の料理に勝てるわきゃねぇだろが!!と、めちゃめちゃイラッときたが――――
「私は、ユキの料理は好きだ。もちろん姉様の料理も好きだが、ユキの料理は心をほんわかと温かくさせてくれる」
「私も、ユキのお料理は好きです。一見、みすぼらしいかもしれませんが、その味は本物です。本物でなければ味わえない美味しさを感じます」
綾館姉妹からの好評価が、何とか苛立ちを抑えてくれた。