12:デートをしましょ!マイ・ダーリン♪〜後〜
前話よりちょい長めです〜
「デート!デート!!ユーキとデートっ♪」
遡ること…………というほどでもない10分前。
「お二方に昼食を作る気など毛頭ございません!」というリリナさん(メイド)の言葉で家を追い出された俺と先輩。メイドは気の利いた事をしたつもりで俺に紙を二枚手渡した。それは、地元でもわりと大きな遊園地のチケットで、なんとお得な一日フリーパス!!
施設内の飲食店ならば、このチケットさえあれば全店タダ!ただ!!無料っ!!
とまあ、そんなチケットを受け取り、プラス先輩が“あっちの世界”にトリップしている以上、俺に拒否権という退路は絶たれた。
で、電車で最寄り駅まで行き、そこから遊園地から出向している周回バスに乗って5分。目的地である紫桜城ワンダーランドに到着である。
「おお!遊園地だ遊園地だ遊園地だーっ!!!!」
テンション高ぇな。つか見りゃわかるだろ。
「早く入ろう!なっ?入ろう!!」
「ああわかった、わかったから手を離してくれ!!」
暑苦しい欝陶しいベタベタすんな!!
◇
遊園地なんて来たのは久しぶりだ。
小さい頃は、家族四人でよく来てたのを覚えてる。あれから、結構経ったんだな………。
「ユキ、どうした?」
「あ、いや……」
「行こう!ほら、早くっ!!」
回想に耽る俺の手を引く先輩。………そうだな、今日くらいは家事を忘れて楽しもうか………………………………………って、
「いきなり絶叫系かよっ!?!?」
手を引かれ、連れて行かれたのは、ジェットコースターである。
「ほぉ……ユキはこういうのは苦手とみえる」
「そ、そんなわけねぇだろ!い、行くぞっ!!」
強がってはみたが、足が動かねぇ……。こ、怖くなんてないもん!
「ユ、ユキ!?大丈夫かっ!?」
「へっ?だ、大丈夫っすよ!ハ、ハハ……」
全然大丈夫じゃねぇ…………てか、ここのジェットコースターは“乗る”というより“吊される”。足は宙ぶらりん!な体勢になり、スピードこそあまり速くない(と思う)が、地面に足が付いてないという不安が、より一層の恐怖感を煽るのだ。
しかも吊されるという体勢だから、レールは頭上。徐々に高くなる恐怖感で、冷や汗ダラダラ………
カンカンカンと響く音が、一度止まる。つまり……
ダアァァァーーーッ!!!!
「ぎゃあぁぁぁああああっっ!?!?!?」
「お、おお!おおぉぉお!!!!」
絶叫である。身体が左右に、上下に、揺れ揺すられて、大回転!!
「……うぅ……」
「ユ、ユキ、大丈夫か?しっかりしろ!!死ぬなっ!!!!」
「…し、死なねぇ……」
ジェットコースターに揺すられたぐらいで死んでたまるか!!………めちゃめちゃ気持ち悪いけど……
ぐったり気分で、しばらくはベンチを温める。あれこれと心配する先輩の気持ちはありがたいんだが、そんなにチラチラ他のアトラクションに目を配らないでほしい。結局、無理して先輩の我が儘に付き合う事になっちまった。
ジェットコースターから始まり、バイキング、ウォータースプラッシュ、ちょっと変わってお化け屋敷………とまあ、中々に堪能した。
「ユキ、ご飯を食べよう!」
「そうっすね」
嬉々として俺の手を引っ張る先輩。休日という事もあって、家族連れや友達同士、カップルなんかが多い。端から見れば、他人の目に俺達は恋人のように映っているのかもしれない。
別に先輩は嫌いじゃない。むしろ好きな部類に入るんだろう………が、俺にはまだ、友情以上の感情は無い。
そんな風に考えながら、ファミレス的な建物へと足を向けた。
◇
で、店内に入った俺達は窓際の席に腰かけた。
メニューに目配せ、注文を決める。つか、チケットがすげぇ!呼び出しベルを押し、注文前に店員にチケットを見せると、
「かしこまりました!」
と、一礼。
すかさず注文をして、料理が来るまでの間、何となく先輩に話し掛ける。主に学校での事だが、他愛のない話でもわりと盛り上がるもの。話し込んでいる最中に、料理がテーブルに並べられた。その際に、テーブルに置かれた伝票に目を通せば“支払い済み”と書かれてある。
つまり、店を出る際にこの伝票をレジに提示すれば、もうお金は受け取りました!という事になるのだ。
「さあ食べよう!いただきます」
「いただきます」
先輩が頼んだのは、ミックスランチ。エビフライやらハンバーグやらチキンカツやらと、一皿になかなか豪華な品揃え(?)。俺はWステーキランチ(ビーフステーキとチキンソテー)。ファミレスみたいな店っていうのは、味が似たり寄ったりというイメージだったんだが、この店は美味い!材料自体も良い物だろうが、付け合わせのサラダやスープも申し分ない。
「ユキ!」
「ん?」
「あ〜〜ん♪」
………オイ!
「あ〜〜ん♪」
「………」
「あ〜〜ん♪」
「………」
「あ〜〜ん♪」
どんだけの羞恥プレイ!?あんたのせいで周りの視線が一点集中だバカヤロー!!
「早く食べてやれよ!」「いいな〜あんな美人からアーンされてぇ!!」「ユキめ……」とかの小言がうぜぇ。つか、明らかに俺の知り合い混じってる!?
「あ〜〜ん♪」
「…………」
「あ〜〜ん♪」
「……くっ……」
「あ〜〜ん♪」
「……あ、あ〜〜ん…」
パクッ。もぐもぐ……
「いや〜ん!ユキと間接キッス♪」
「っぐ!?……ッホ、ケホッ!?」
変な事言うなぁ!!!!マジむせしただろがっ!!
「いや〜ん、ユキの照れ屋さん♪そんな所も大好きっ!!」
気色悪い言葉遣うなぁっ!!!!しかもキャラ変わり過ぎてんぞ!?!?
◇
周りから向けられた好奇の視線のせいで、味わう事なんて出来なかったぞバカヤロー!!
ソッコーで飯食って、ソッコーで店から離れた俺と変態。つか、変態は食うスピードが早かった。そして、小言の中に俺の知り合いらしき人間がいたようだが、残念ながら見つけ出せなかった……フルボッコで口封じしようと思ったのに。
その後、再び園内を散策し、あれこれ騒いで(またジェットコースターに乗せられた)、現在5時前。
「ユキ、最後にこれに乗ろう!!」
「ま、定番っすね……」
先輩が指差す先には、定番の観覧車である。
混み具合もさほどなく、列んで5分もしないうちに、赤い色のゴンドラへと乗り込んだ。
「ユキ!あれは学校だ!!あ、あっちは海だ!!……おお!街が一望だ!!」
無邪気な子供のようにはしゃぐ先輩は、普段の大人びた(俺の前では変態だが)姿とは全く無縁の印象である。
昇りゆくゴンドラとは対称的に、はしゃぐ先輩の声のトーンが、段々と小さくなっていく。
「……遊園地とは、すごく楽しいな。初めて来たが、実に楽しかった」
「へ?初めてなんですか?」
「ああ。家は父と侍従のみだからな……母は私が生まれてすぐに死んだ。父は、毎日が忙しいから、家には滅多に帰らない。こうして誰かと遊びに行く事なんて、ただの一度も無かった……」
淋しげに小さな笑みを浮かべる先輩。対する俺は、黙って先輩の言葉に耳を傾けた。
「……私ばかりがはしゃいでばかりで、ユキには迷惑をかけたな」
「いや、そんな事ないですよ。俺も久しぶりの遊園地だったし、充分楽しめました」
「そう言ってもらえて、私も嬉しい………なぁユキ、今はまだ、私とユキの関係は、先輩と後輩の間柄だ。だが、もしユキに迷惑でなければ、この関係を一段上にあげてもいいだろうか?」
「つまりは……」
「“友達”という関係になりたい……」
真剣な表情には、少し不安げな感情も見え隠れしている。だが、俺にしてみれば………
「今更ですね」
「や、やっぱりダメ……か?」
「先輩後輩の関係だけじゃ、普通は一緒に遊園地なんて行きませんよ。俺と先輩は、とっくに“友達”です」
今、俺に言えるのはそれくらいだ。でも、建前とか気遣うつもりで言ったんじゃない、俺の本心である。
「そ、そうか!そうかぁ!!ありがとうユキ、やっぱりユキは優しいな!!」
へへっと笑う先輩。さっき見え隠れしていた不安げな表情は、もう無い。今は純粋に、嬉しそうな笑顔のみである。
頂上を過ぎ、ゆっくりと降下していくゴンドラから外の景色を眺めれば、西側に広がる海の向こうへと沈む夕日が、先輩と俺をオレンジ色に染め上げていた。