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最終話:才色兼備な変態さんと俺

 長々と続いたこの作品も、ようやく完結を迎えることが出来ました。視点はユキですが、終盤の◇から美雪視点になります。

 体育祭から1ヶ月あまりが過ぎ、3年生は本格的な就職・受験勉強に勤しむようになった。ついぞあれだけ「今年の体育祭は気合入れてくぞぉっ!!」なんてはしゃいでいたのに、すっかり元の授業風景に戻っちまって、倦怠感かどうかは知らないが、授業中に居眠りする奴も以前より増えた。

 全てが元に戻っちまって、あれだけの“バカ騒ぎ”も、今じゃすっかり過去の“思い出”になっちまっている……。



“今だからはっきり言える……俺は、美雪さんが大好きですっ!!”



 体育祭閉会式後の“イベント”と称し、生徒・教師・保護者が見守る中で、俺はマイクを通して自分の気持ちを盛大にぶちまけた。そりゃもう“なるようになれ!”って感じで。

 河南や京都会長、それに桜花先輩に騙される(ハメられる)形で、なかばヤケクソ気味の告白で、相対していた美雪さんの返事は、「当然だ!ユキは私のものなんだからな!」という承諾でも「すまない……」という拒否の反応でもなく―――


“……ずいぶんと待たせやがって……馬鹿者……!!”


 と、少しの怒りと嗚咽……そして、自惚れだと思えるくらいにたくさんの愛情を感じさせる、力強い“抱擁”だった……。




 その2日後(前日は休み)から俺は学校内じゃすっかり“有名人”と化してしまい、面識のない他の後輩・同輩・先輩からも声をかけられたり、告白の際に美雪さんから抱きつかれたときの写真が“校内新聞”の号外として掲示板にでかでかと張り出されたり。俺自体はあんまし気にもしていなかったのだが、湊が「……読んで……」と貰ってきた校内新聞の文章の指差す先には「さすがは私の息子だわ!(相澤奈々子氏)」と、なぜか我が母が新聞部のインタビューに勝手に応じていたことを知らされた(恥)。

 その後も京都会長や桜花先輩からからかわれたり、教師陣からも「恋愛は大いに結構!だが、あんま羽目外すんじゃねえぞ」と苦笑交じりの“お言葉”をいただいたわけなのだが、【現国】担当の沢木真穂先生(通称:真穂ちゃん)が「やる時はちゃんとゴム着けるのよ!」と、あまりに突飛な発言をしたために、彼女無し(ロンリー)の男連中が妙に反応し、国語の授業が一時中断となったこともあった。無自覚って怖ぇ……




 季節もすっかり晩秋に入り、朝方は吐く息も白くなる……学校の木々は紅葉からさらに色褪せ、冷たい冬の到来を待つばかりとなったのだが……。

 あれから1度も、美雪さんは我が家に来なくなった……。学校で会うことは多々あっても、会話らしい会話は一度として無い。あれだけ盛大な告白をぶちかましたというのに、今は前よりもずっと……美雪さんとの距離が遠くなっているような気がした……。

 互いに連絡を交換していなかったことが、ここで仇になるなんて―――


 そんな矢先の事だった。








どごおぉぉぉんん!!!!!!


「グゥゥゥッドモ~ニンぐユキイィィィィイイイ!!!!」

「ギャアァァーッッッ!??!??」


 朝食を済ませ、食器を洗って一息ついている土曜日の朝……既に投函されているであろう新聞を取りに玄関の扉を開こうとした瞬間、呼び鈴と呼ぶには桁違いな爆音と、家の外側からは“引き戸”となっているはずのドアが俺の顔面に直撃!当然、顔面を強打した俺はもんどり打って地面に突っ伏したのだが……


「ユキィィイイッッ!逢いたかった~逢いたかった~逢いたかった~!!!!」


 俺のへそ辺りに馬乗りになった麗人が、俺の意思とは関係なしに熱ぅぅい“ベーゼ(くちづけ)”をしようと顔を近づけている。そりゃもう恋人関係だからキスくらいしてもおかしくないのかもしれない。

 ただ―――


「玄関ぶっ壊してんじゃねえぇぇっっっ!!!!」


 半壊した玄関を見れば、そんな雰囲気ムードにゃなれねぇよ!!!!


「むぅ!1ヶ月だぞっ!1ヶ月も私はユキとイチャイチャ出来なかったんだぞ!!」

「それより先ずはドアをどうにかしろおぉぉぉっっ!!!!」




→→→





 たった1ヶ月……されど1ヶ月と、久々に我が家に顔を見せた美雪さんのテンションはハンパなく高かった。というのも―――


「見ろっ!これで何も気にすることなくユキとラブラブイチャイチャできるぞっ!!」


 と、鼻息荒く俺に突き出した紙にはっきりと書かれた【合格】の通知……。


「私ら3年が体育祭終了後、本格的に受験勉強に取り掛かることはわかっていただろ?だから私はこの1ヶ月間、ユキに会えない……ラブラブできない苦痛に耐えながら、ようやく手にした“嶺桜大学”の推薦合格通知!!これで全ての障害は取り除かれたのだっ!!」


 なるほど……この1ヶ月、変に素っ気ない態度だったのはそのせいか。それにしても……


「近い近い近い!しかも妙に暑苦しい!!」

「何を言う!晴れて恋人同士となったのに、暑苦しいはないだろう!それに、1ヶ月も禁欲してきたのだぞ!!“ユキエキス”を充電しておかないとっ!」


 禁欲って……聞くのが怖ぇし、何その“液体”的なもの!?気持ち悪っ!!!!


「まぁまぁユキ、美雪もこの日のために一生懸命頑張ったのですから!」

「リリナさん何時から居たの!?ってかソレ、俺のパンツじゃんかっ!!」

「何ぃ!姉さま、その“ブツ”を私に!!」

「へ?既に洗濯済みですけど……」


 うおぉいっ!!どんだけ人ん家の家事漁りに慣れてんだよリリナさーん!!美雪さんも俺の“パンツ”に反応してんじゃねえぇっっ!!


「むぅ、既に洗濯済みなのか……」

「なんでガッカリ!?変態度が格段に増してるっ!!」

「む?好きな男の前では普通、人とは変態になるものだぞ!」

「ならねぇよ!」


 あぁ、ツッコミが追いつかねぇ……こんなとき、俺にとって唯一の良心である獅子神さんが居てくれたらなぁ―――


「呼んだか?」

「「何ぃ!!」」←俺&美雪さん

「あら、お久しぶりですわね獅子神さん。“その節”はお世話になりましたわ!」

「あんま大きな声で言うんじゃねえよ……つか、この状況を見りゃわかる」


 完全に呆れかえった表情が隠せない獅子神さん。なんでも半壊した我が家のドア(そういやすっかり忘れてた)の先で、俺と美雪さん&リリナさんのやり取りが丸見えになってたんだと。


「一体何の用だヤンキー女!」

「あぁ?別にテメェなんぞに用なんかねぇよ!!」

「なんだと!」

「やんのか?あぁっ!!」


 なんでこの二人は、顔を合わせりゃ喧嘩すんだろか?冷戦状態(つか既に手が出てる)の状況を打破するには、やっぱり“アイツ”しかいない―――


「凜、ヘルプミー!!」


 とりあえず“お姉さま大好き”娘の我がマイ・シスター凜に、仲裁を頼もう!普段は“助け舟”なんて絶対にしないだろう凜だが、その大好きな“お姉さま”同士が(口)喧嘩をしているとあっては、さすがに“何か”してくれる……はず。


「呼んだ?」

「おぅ!とりあえずあの二人を止めてくれって、なんで湊が居るんだぁっ!???」

「……え?」


 凜、お前、自分の部屋に居たよな!?なのになんで“寡黙百合っ娘”の湊まで??この短時間の間に我が家の人口密度が増してる!しかも気配も無く!!!


「……ふふ……」

「その含み(笑い)が怖えぇ!!」


 湊……頼むから俺の目の黒いうちは、凜を“そっち”に引き込まないで!!







⇒⇒⇒







 とまぁ、なんやかんやとあっちでもこっちでも問題ばかりが発生している我が家で、今回ばかりは「ユキも困っていることですし、とりあえず落ち着きましょう!」と、リリナさんが“まとも”な助け舟を出してくれたので、獅子神さんも「まぁ、別に喧嘩しにきたわけじゃねぇし……」、美雪さんも「む、そうだったな」と、互いに身を引いた。んだが、凜や湊には全く無縁だったらしく、凜は純粋に、湊は……何を考えているかはわからんが、勝手に遊びに出て行った。

 頼む湊……妹に“変な事”はするなよ……


 んで、まぁ美雪さんがリリナさんを引き連れて我が家を襲撃(未だに玄関半壊)したのはなんとなく想像ができるから置いとくとして、獅子神さんが来訪した理由を訊ねてみた。

 すると―――


「あっ!そうだったすっかり忘れてた!!今日から【栄大】がリニューアルするとかで、生鮮品が半端ねえ安さで売り出されるって“チラシ”が投函されてたんだよ!」

「何ぃぃッ!!??」


 【栄大】っつうのは俺や獅子神さん、それにご近所の奥様方が贔屓にしている地域密着型の“スーパーマーケット”で、あの嶺桜高校生徒会長である長束京都先輩の親父さんが経営者でもある。元々、生鮮品の安さは他のスーパーと比較する必要も無いほど安いのだが、獅子神さんがわざわざ俺ん家に来てまで情報を知らせてくれるってことは、かなりの安さってことだろう……そういや、まだ新聞とかチラシには目を通してなかったっけ。

 えっと、あ、あった!このチラシだ。なになに………………!!!!!


「国産牛肩ロースが100グラム10円だとっ!?焼津産の真鰹まがつおが刺身ブロック300円均一!??レタス1玉18円っ??!!」


 何この半端ない安さ!!こりゃもう……


「行くっきゃねぇっしょ!!」

「そうこなくっちゃな!」


 たとえ他の人間が「何がっついてんだよ」だの「んなもん1円5円の違いだろ?」などと言おうが関係ねぇっ!!騒ぐんだよ“主夫の血”が!


「行くぜ美雪さん!」

「え?あ、ちょっ、ゆ、ユキ!??」


 悪い美雪さん……今は恋人としての進展よりも、“目先の特価品”が大事なんだ!!!!








 バタバタと慌しく家を出て行ったユキとヤンキー女を呆然と見送る形になってしまった私とリリナ姉さまだが……


「あらあら、私の可愛い妹よりも“食料品”のほうが大事ですか……」

「ユキらしくていいじゃないか。それに、ああいう性格も全てひっくるめて、私はユキが好きなんだからな!……まぁ“食料品”に負けたことは少し、釈然としないが」


 むぅ……せっかくユキとラブラブのイチャイチャを期待して今日は来てみたのだが……。


「ユキの性格上、まだまだ“照れ”もあるようですね」

「ふふ、だが499回も断られ続けたことを考えれば、恋人としての進展の遅れなど気にもならん!」

「とか言っちゃって、ホントは“もしも”のために昨日買ったばかりの勝負下着を履いてきたんでしょう?」

「むぅ……姉さま、少し意地悪になったのではないか?」

「うふ、可愛い妹を心配しているのですよ。それよりも―――」


 と、リリナ姉さまは下唇に人差し指を当てて、ちょっぴり困ったような、私が見ても可愛らしい仕草をやったあとで


「とりあえずユキを追いかけましょうか!」

「む?あ、そうだった!!ユキめ、私という可愛い恋人をほったらかしとはどういうことだぁっ!!」


 いかん、すっかり忘れていたぞ!まったく……関係は変化しても、日常にはまだ些細といえる変化など起きてはいない。相変わらず、ユキを追い掛け回す日々はまだまだ続きそうだ。


 だが―――



「待ていユキィっ!!【恋人】の私を置いていくなあぁぁぁあ!!!!」



 虚勢でも嘘でもなく、私はユキの【恋人】だ。だからもう少し、こんな日常でもいいんじゃないかって思う。進展など、互いの意思に任せればいい。

 なんせ私はユキに499回フラレているから、忍耐強さも伊達じゃない!


 けれどな、ユキ―――



「待たんかユキィィィィイイッッッ!!!!」



 少しくらい、私のことも優先してくれよ?いくら忍耐強い私だって、“女の子”なんだからな!!












“才色兼備な変態さんと俺”


END

 長々だらだらと4月から開始したこの作品も、約半年ちょっとの年月を経て、ようやく完結を迎えることが出来ました。


 初のコメディ系連載小説を執筆する中で、きっかけとなったのは、この作品の前身でもある短編「才色兼備な変態さんは好きですか?」で頂いたユーザ様からの「連載にしてみたらどうか?」という感想でした。

 無知な私は無謀にも「よし!じゃあ連載する!!」と、調子に乗ってこの作品の執筆活動を始めたのですが、掲載するにつれて、コメディ作品の難しさを痛感!同時に、行き当たりばったりな執筆活動ばかりをしていたがために、煮詰まる文章……何度も削除しようと考えました。


 どうにも作品として完結の糸口がつかめないまま、私はとうとう削除を決意し、会社から家に帰って、いざ!……という矢先、ユーザトップに“感想通知”の文字が……


「毎回楽しく読ませて貰っています!」


 執筆を開始し、初めて頂いた感想に書かれていた言葉に、私は胸が熱くなるのを感じました。

 同時に、こんな稚拙な作品でも楽しみにしてくれているユーザ様がいたことに驚きと申し訳なさを感じ、下手なら下手なりにやっていくしかないと思い返し、現在に至ります。

 あの感想がなければ、この作品も存在していなかったといっても過言じゃありませんし、何よりこうして完結を迎えることが出来たのも、そんな感想を頂いたから迎えることが出来たのでしょうから。

 篤く感謝申し上げます!


 そしてもう一つ、この作品をここまで導いてくれたのが、「小説家になろう」や「みてみん」にて幅広い活動をなさっている【北野鉄露】さんというユーザ様です。

 もともとは北野様の作品「やっぱ海でしょ!」にて感想を送ったのがきっかけでしたが、これがもとで、懇意にさせていただいております。

 中でも、この作品の主要キャラとなる“綾館姉妹”を「みてみん」で生き生きとしたイラストに生まれ変わらせていただいたり、宣伝なさってくれたりと、本当にお世話になりっぱなしで、感謝してもし足りないほどでございます。

 こうして完結を迎えたことが恩返しになるとは思っておりませんが、イラストでの生き生きとした綾館姉妹の万分の一でも反映できていればいいなぁと思っている次第でございます。



 こうしてお世話になったユーザ様や、駄文ながらも沢山(?)の読み手の方々に支えられ、無事に完結できたこと、本当に感謝しております。

 まだまだ拙い表現・文章力が乏しい私、矢枝真稀ですが、これからもよろしくお願いします!

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