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95:健一はやっぱり健一(バカ)である

 着々と、時間は過ぎていく……。



 かつて、これほどまでに俺に想いを寄せてくれていた女性はいたのだろうか……?



 頭が良くて、誰からも好かれていて……それでいて、俺の前ではちょっと変態チックな言動も多いけど……それでも、真っ直ぐに偽りの無い真実ほんとうの気持ちを持って、俺に接してくる一つ年上の女の子。

 絶対的な自信を持って、俺を愛してくれる事に「妥協は無い!」と高らかに宣言し、今ではすっかり、我が家に居ることが当たり前の環境にも思えているその“先輩”に対し、俺はただ与えられてばかりで……


 そんな“先輩”に対して、俺は何を与えてきたのだろうか?



 その人と出会って、俺の……いや、俺自身が“変わった”のかもしれない……。昔は面倒くさいことが嫌でたまらなかったのに、今では誰かのために……そして、俺を思ってくれている“その人”に対して、自分が何を出来るかを考えてみたり……


 そうして気付いた、本当の気持ち……騒がしくて、煩わしくて、姉妹一緒になって我が家を急襲したり、無茶なことばっかり言ってくるのに、なぜだか憎めない……。

 一緒に居ると本当に楽しくて、今じゃすっかり家族の一員になっている“先輩”だけど、言わなくちゃいけない言葉がある……。



 もう、出番は間近だ……。






→→→






 団席裏の暗幕を外し、各々が最終確認している中で、美雪さんは「ユキも忙しそうだから、私も自分の団席に戻って応援しているよ」と一声掛けて、戻って行った。そんな美雪さんの後ろ姿を目で追いながら、自分も与えられた役割の確認をする。



 各団の演舞が終了するたびに、自分達に与えられた時間が刻々と少なくなり、プレッシャーもどんどんと大きくなっていく……。


「いよいよか……」

「き、緊張するなぁ!」


 応援団の演舞は、独特の緊張感がある。団長を務める河南は平然としているが、健一バカは、完全に場の雰囲気に飲まれかかっている。まぁ気持ちは非常にわからんでもないが―――


「(健一、ちょっと来い!)」


 小声で健一を呼び、とりあえず落ち着かせることに。なに、こっちには“嘘”という名の“秘密兵器”がある。しかも、健一バカ限定の。


「(健一、大丈夫か!?)」

「(うぅ、き、緊張するぅ……ミスったらどうしよう!)」

「(大丈夫だ!健一、忘れたのか?完璧に踊れたら……)」


 と、俺は団服に忍ばせた“写真”をチラッと見せる。


「(こ、これは!)」

「(そうだ“例の写真”だ)」

「(由希、俺がんばるぜ!!)」


 “例の写真”というのを覚えているだろうか?それは夏休みに皆で綾館姉妹の別荘に行ったときに偶然に写されたという、混浴風呂での女性陣の“あられもないお姿”が写されたというR指定並みの秘蔵写真のことで、これを引き合いに演舞でミスばかりする健一を奮起させたという代物だ。

 当然、現物(写真)をチラッと見せたことが緊張している健一にはプラスに作用されたようで、誰よりもやる気は充分。「ミスなんて絶対しないぜ!」と、下心全開のスマイルを浮かべた健一に、俺は心の中で「やっぱ健一バカだな」と言いながら


「頼むぜ!健一だけが頼りなんだ!」


 と、社交辞令を口にしておいた。


 そうそう、“例の写真”についてだが、前にも言ったようにそんなものなど“存在しない”。俺が団服の中から取り出したのは、別荘へ行った最終日の日に撮った集合写真で、しかも見せたのはその裏側。つまり“なにも映っていない”白い部分なのだ。

 ホント、健一バカは使いようだな……。


 

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