Laから始まる店にて
昨日見た夢の話。
なんとなく着物を着て、近所の喫茶店に行こうと思った。
目指したのは、どこの街にも一つはありそうな、個人営業で独特の雰囲気を醸し出している、少々入るのに勇気が要るタイプの店だ。
意を決して扉を開けると、そこには思いのほか広く、落ち着いた薄暗さが広がる空間があった。
店の中央にはテーブル席がいくつか並び、奥の大きな窓からは小さな庭が見える。その庭と向き合うようにカウンター席が配置されていた。
窓際のカウンターへ向かおうとした瞬間、水を持った店主が入口付近を見渡していることに気づく。
しまった、案内される前にずんずん奥へ突き進んでしまった。
申し訳なさに店主と目配せを交わしながら、空いていたカウンターの角席へと着席する。
すぐ隣の椅子が少しだけズレて置かれているのが、微かに気になった。
メニューを受け取り、コーヒーと軽食を注文して、しばし庭を眺めながら待つ。
すると、そのズレていた隣の席にすっと女性が座った。なるほど、席を外していた先客だったらしい。
すみません、と会釈をすると、彼女はひとつ席を空けて座り直してくれた。
間もなく、先にコーヒーが運ばれてくる。
一口飲む。美味しい。心がほっと落ち着いていく。
……そして落ち着いた途端に、私は「失態」の数々に気づき始めたのだった。
腰元に提げ物を何もつけていない。
スマホを入れる信玄袋も家に置いてきた。
それどころか、羽織すら羽織っていない。
極めつけに、自分の着付けをふと見下ろすと、あろうことか裾が大きく乱れて脚が豪快に露出しているではないか。
あまりの恥ずかしさに耐えきれなくなり、私は逃げるように会計を済ませ、店を飛び出した。
家に向かってトボトボと歩きながら、「やらかしたなぁ……」と頭を抱えていたところで、ふと致命的なミスに思い至る。
あ、軽食が届く前に店を出ちゃった。
後悔混じりにポケットの中のレシートを開くと、そこにはコーヒー代の金額だけが記されていた。
届かなかった軽食分を引いてくれた、店主の気遣いだったのだろうか。
印字された店の名前を見つめる。「La……」から始まるその店名。
La pin だったか、それとも La pan だったか。
夢から覚めた今となっては、もう確かめる術もないが、叶うことなら完璧な状態でもう一度訪れたい。




