表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神官と聖女  作者: 綾瀬 律


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

6.おそばにいます

 私の部屋のベッドに寝かせた大聖女様は空を見つめる。目は開いているのに、何処かを見ているのに…その目は何も映さない。


「大聖女様…」


 声を掛けても答えはなかった。


「失礼します」

 ベッドに散らばる黄金の髪に触れる。さらりとして指から溢れた。軽く梳いて唇を寄せる。


「触れます…」

 ぴくりとしたが、抵抗はされなかった。おでこに掛かる髪の毛をそっと避けて撫で付ける。

 そこで大聖女様の目が動いた。





 まさに間一髪だったのだ。


 奴らは大聖女様の部屋に押し入るとその首に首輪を嵌めた。そしてその手を押さえつけると聖女服を剥いだ。


 薄い肌着のお姿は力を入れたら折れそうなほどに細かった。透ける白い肌、薄い腹。

 肌着の下からその体の輪郭が浮かぶ。清らかで美しくて、艶かしかった。


 剥き出しの肩と腕、膝から下もその素肌が見えていた。大聖女様を押さえつけて、彼らの目が欲に染まっているのが見えた。


 それほど大聖女様は美しかった。




 同性同士で睦み合うことを否定はしない。否定はしないが、力づくなどもっての外だ。

 しかも抵抗できない聖女様への暴行など万死に値する。


 それが聖騎士と神官となれば尚更だ。



 この国には処刑は無い。

 汚れとなるから、女神様が悲しむ。


 女神様自らに審判を仰ぐことになり、女神の間に彼らは連れて行かれた。


 3人を置いて外に出ると、中から雷鳴のような音と苦しむ声が聞こえた。

 神罰が下ったのだ。


 その後、彼らは不浄の池と呼ばれる不浄の溜まり場で生涯、汚れを浄化する仕事に就く事になった。

 神殿で働くものがおとされる刑罰の中で、一番過酷なものと言われるが、詳細は分からない。



 そして第三聖女様の代替わりが発布された。


 今回の騒動は第三王子の暴走だけでは無かった。それだけなら聖女様の居住区に入ることができないのだから。

 居住区の入り口は厳重に守られている。今回は守るべき聖騎士が、易々と扉を開けた。


 そして、居住区に入る為の通過儀礼。聖女様と我々はその神聖力を登録している。その神聖力を持った者しか居住区には入れない。本来なら。

 実は抜け道があったのだ。


 神聖力を持つ者が手を触れていると、一緒に通過出来たのだ。第三王子はそれを王族だけが閲覧出来る密書で知った。



 第三聖女様は14才で、小柄な可愛らしい方だった。まだ社交界には出ていなかったが、妹を溺愛する兄が自慢していて、屋敷に友達を招いていた。

 だから顔は知られていたのだ。


 第三王子の側近もその1人で、その兄の態度からどうやら妹が聖女になったと知る。


 聖女様付きの神官は、外部とのやり取りがある。聖女様の実家と連絡を取るのは御法度だが、密かに連絡を取っていたのだ。

 そこで、第一聖女様を害すると打診された。


 ルミナスは可愛らしい第三聖女様が

「つまらない。お菓子が食べたい、外に出たい!」

 泣き喚く聖女様が可哀想だと思った。そして聖女様を幸せに出来るのは自分だけだとも。


 なので第一聖女様を害する計画に乗った。

 何故大聖女様を害することが第三聖女様の為になるのか、それは還俗した後に第三王子が娶ると言ったからだ。


 それがあり得ないと考えれば分かるのだが、聖女様可愛さに目が曇ったのだろう。聖女様を害するなどもっともやってはいけない事なのに。

 王族が娶るのは第一聖女様だけなのに。


 第三聖女様もこの計画を知っていた。知っていて止めなかった。だから神罰により、生涯を北の修道院で過ごす事になる。

 そこは聖職者の罰の中で3番目に重い罰だ。


 だいたいは一冬を越せずに命を落とす。我が儘だった第三聖女様には厳しい罰だろう。太陽すらほんの数ヶ月しか拝めない極寒の地なのだから。




 私の部屋で目を覚ました大聖女様は、しばらく私の部屋のベッドで過ごされた。

 大聖女様のベッドや毛布、枕やソファなどの家具は一新された。

 部屋の配置も変えて、違う部屋のように整えた。少しでも嫌な記憶を思い出さないように。



 あれからまた大聖女様は話をしなくなった。表情は相変わらず無くて、傷付いたはずなのにそれを顔に出さない。

 例の事件の翌日には女神像へ神聖力を譲渡されていた。まるで何も無かったみたいに。


 何故何も言ってくださらないのだ?

 私は悲しかった。

 でも、時折揺れる瞳が何かを押さえ込んでると教えてくれるから…心を開いくださるまで待つ事にした。


 さらに半年が平穏に過ぎ…少しずつまた神聖語の古語について学んでいた。

 ふと、そう言えば限定書物を借りていたと思い出す。

 そろそろ読めるかもしれない。


 その日の夜、私はその綴りを開いた。

 そして後悔した。

 そうか、だからなのか…



 大聖女様の無表情も、そのそっけない態度も。

 時折揺れる瞳も、震える指も、何もかもが答えだったじゃ無いか!


 還俗した聖女について、大聖女様は何をお知りになりたかったのだろうか。


 改めて現聖女様については良く知っている。その前の聖女様方のお人柄も知っている。

 でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 教わらない、それもある。がしかし、一番は無関心だからだ。

 聖女様の生活は厳しいものだ。そこから解放されるのは聖女様たちにとっては喜ばしいのだと、その後の生活は幸せに満ち溢れているのだと、勝手に思っていた。


 いや、無意識にそう思いたかったのかもしれない。


 若くして選ばれて、国の為に尽くす。

 だから誰もが元聖女様たちを、優しく迎え入れると思っていた。


 大聖女様が読んでいたこの書き付けは、それらの甘い期待を尽く覆していたのに。

 現実はこんなにも無情だったのに。




 聖女様に選ばれる方は眩い金髪だと言われている。

 今代の大聖女様も煌めくような金髪だ。


 先代の聖女様のお髪は還俗時、銀色だった。聖女様のお髪は金髪なのに、3人ともに薄い金髪か銀髪だった。

 色が抜け落ちたのだ。


 先代の聖女様たちのお勤めはどれほどかと調べた。直近だからか、すぐに調べられた。

 第一聖女様は10年、第二聖女様は13年、そして第三聖女様は14年だった。


 さらにその前の聖女様はそれぞれ7年、12年、15年。

 私は愕然とした。聖女様のお勤めはこんなにも短い。

 それでも花の盛りの10代は神殿で過ごすのだ。


 普通に考えれば20才を過ぎた女性にまともな結婚相手など望めない。婚姻を希望すれば神殿が相手を探すこともできるが、事例は少なそうだ。


 お付きの神官と添い遂げる聖女様もいるが、大抵は単身、神殿を出ている。ならばその後は?

 家族の元に帰ったのだろうか?


 私は手元の綴りを読み進めるが、言葉が難解で思うように進まない。

 だから大聖女様に聞いた。


「あの、こちらの書き付けですが…言葉が難解で。内容を簡単に教えてもらえませんか?」

 大聖女様は表紙を見ただけで固まった。

「知ってどうする?」

「分かりません。分かりませんが、知りたいと思うのです」


 返事はなかった。


 それ以降、大聖女様は更に反応が薄くなった。


「寒いので膝掛けを」

 と言っても手を振られる。

「何か欲しいものはありませんか?」

「…」



 神官同士は相変わらず交流がある。

 新しい第三聖女様とお付きの神官とも話をする。

「大聖女様はなんというか、冷たい印象の方ですね」

 私が話しかけても答えがないと言うとそう言われた。


「そんな風に対応されて、ファルス様は平気なのですか?」

 とも。分からない。居心地良く過ごして欲しいと思う。その御心に寄り添いたいと思う。

 私はどうしたいのだろうか?どうして欲しいのだろうか。


 私は答えのない問いを繰り返していた。




 大聖女様を害そうとした聖騎士たちは

「いつも済まして感謝もしない態度に腹が立った」

 そう言ったそうだ。

「感謝される為にしてるのか?我々はただ忠実に職務を遂行すれば良いのに」

「…」


 そう、聖騎士とは無個人でならなければならない。もちろん、職務中の話だ。

 ただ聖女様方を、神殿を守る為に存在する騎士。


 強さと信仰心、そして静謐な心。

 目指した殆どが脱落する中、選ばれた少数なのに。彼らですら男性の聖女様を認められなかったのだ。

 いや、私が言えたぎりではないが。


 当然ながら、彼らは解雇された。

 責任を取って退団しようとした団長は神官長が慰留した。

「責任と言うなら、私が最も重いですよ」

 神殿のシステムを逆手に取られた犯行。気が付かなかった神殿にも非がある。


「あなたには聖騎士の再編という大仕事があります。放り出すのは許しません」

 こうして聖騎士は大きく再編された。

 もちろん、聖女様の居住区においても同様だ。人数と神聖力が合わないと通過出来なくなった。

 こちらは女神様のお力がもたらした、らしい。




 上辺は何事もなく今度こそ平穏に流れ、大聖女様との距離は縮まることもなく月日は流れた。



 私は例え微笑まれなくても、答えられなくても…大聖女様のおそばにいることが好きだった。

 無口ではあるが、拒絶されていないと気が付いたから。


 分かりやすい優しさを示されることはない。それでも、さり気なく大聖女様が私を気遣っているのが感じられるのだ。

 長くそばにいればいるほど、それを感じ取れるようになった。


 いつからか、大聖女様のおそばが…

 私にとっての居場所になっていた。




 大聖女様がお勤めになってから3年が過ぎようとしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ