表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神官と聖女  作者: 綾瀬 律


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

2.大聖女様の人となり

 神官の仕事は多岐に渡る。

 神殿の運営に関わる仕事の殆どは神官の手による。

 見習い神官も多く、雑用は見習いの仕事だ。


 神殿は聖職者の集まりなので、清貧を尊ぶ。国の王都にある中央神殿ですら、華美さは全く無い。

 無駄を極限まで省いた神殿の中はいつでとシンとしている。


 神殿は祈りや治癒に人々が訪れる外苑と神官たちの住まいがある内宮に分かれる。

 外苑と内宮は渡り廊下で繋がっており、民に開放されるのは外苑の入り口近くのごく一部だけだ。


 神官の朝は早い。目を覚ますと祈りをし、身支度を整えて清めをする。これは内宮の隅から隅まで磨き上げるのだ。共用部分は神官見習いがする。神官は自らの寝所のみを清めればいい。


 見習いは清めが終わると朝食の支度を始める。中庭に野菜を採取に行くもの、下拵えをする者。

 見習いを含めて神官は総勢40名ほど。用意も大変だ。


 朝食は薄味の野菜が入ったスープにパンとサラダ。殺生を禁違とする神殿では、使う食材は調味料と小麦粉以外は死んでんで作っている。

 たまに食事に供される果物も神殿の中庭に生えている木から採る。


 朝食後は奉仕の時間だ。

 外苑に交代で向かい、対応する。外苑に向かわない神官は学びの時間だ。

 各が自室で聖典を読む。

 文字を学び始めたばかりの神官見習いは手習をする。聖典を読めるようにならなければ、神官にはなれないのだから。


 神官たちは神殿の会計や書類の整理をする。地方にある神殿も含めればかなりの数があり、その維持は大変だ。

 神殿の主な収入は国からの補助金と寄付による。


 神殿の運営に国は口を出さないが、金は出す。それは国を守る女神様と聖女様を神殿がお守りしているからだ。


 国と神殿はそれぞれが役割を果たすことで初めて国の安寧は護られる。なので必要な経費はもたらされる。

 とはいえ、杜撰な使い方では許されない。民から収められた税なのだ。


 だから会計は大変重要な仕事で、いかに経費を節減し必要なものを賄うかを考えながら支出を計算している。

 そのほかにも祭事の手配も必要で、今回のように第一から第三聖女様までが一度に代替わりとなればやる事は多く、静かな中にも緊張をはらんでいた。


 一般の神官と聖女様付きの神官では仕事が違う。

 寝所も聖女様のお住まいになる部屋の隣だ。清めは聖女様と自らの部屋のみ。

 食事は聖女様が暮らす居住区に運ばれたものを部屋までワゴンで運ぶ。


 聖女様が起床されると身支度を整えて、朝食をお出しする。食べ終えるとまた片付けて、そしてやっと自らの食事をする。


 その後は聖女様が女神像に朝の挨拶を行う。ここでは神聖力を少し渡すだけだ。

 それが終わると聖女様は学習の時間だ。と言っても教師がいるわけではなく、自室で聖典や過去に聖女や神官長が残した書き付けを読んで過ごす。


 昼食後に少し休憩をして、午後3時に女神の間で神聖力の譲渡をする。

 その後はお身体を清める。それが終わると夕食を食べて夜の9時には就寝される。


 夕食後は聖女様にとって少ない自由時間だ。


 我々は聖女様が自室にいる時、ほかの神官と打ち合わせをしたり、神官長にする報告書をまとめたらして過ごす。


 ごく身近な聖女様と神官は、自然と穏やかに過ごすことが多い。聖女様にとって一番頼れるのは間違いなく聖女様付きの神官だから。


 倒れた大聖女様を部屋に残し、私は神官長の部屋に向かった。各自聖女様をお部屋に案内したら、集まるように言われていたのだ。


 部屋にはすでにほかの神官がいた。私が最後のようだ。

「大聖女様付き神官ファルス、ただいま参りました」

 目線で促されて、神官長様の向かいに腰を下ろす。


「大聖女様のご様子はいかに?」

「はっ、お顔の色は良くありませんがお体に異常はありませんでした」

「そうか…」


 神官長がポツリと呟く。

「今代はまとめての代替わり、そして大聖女様の降臨だ。気を引き締めなさい。しばらくは神殿もバタつくでしょうが、我々は何においても聖女様をお守りしなければなりません」

 我々は神妙に頷いた。


 私は目の端で2人の神官が微妙な顔をしたことに気が付いた。


 部屋を辞するとまた聖女様の元に向かう。

 遠慮がちに第二聖女様付きの神官であるリンデルが口を開いた。

「ファルス、大丈夫か?」

 労りの困った声だった。

「私は、第三聖女様付きで良かった…」

 ポツリと本音が漏れる。ルミナスだ。


 ルミナスと私が17、リンデルが18才だ。悪気はないのかもしれないが、案に男の聖女に当たらなくて良かったと言ってるのだ。

「ルミナス、言葉に気をつけなさい。大聖女様にお仕えできるのは名誉なのですよ」


 ルミナスはそれきり黙ってしまった。



 部屋に入ると聖女様の目が開いていた。

 改めてそのお顔を見る。眩い金色の髪はベッドに広がり、白い肌と長いまつ毛が見えた。

 その奥の瞳は青。濃すぎず薄すぎない煌めくような青。吸い込まれそうな真っ直ぐな目だった。


 一瞬たじろいでから私はゆっくりと声を掛けた。



 *****



 部屋の中にパラリと音がする。

 聖典をめくる聖女様の細い指が見えた。静かな部屋に響く頁を捲る音。


 神殿にお越しになってから早1週間。

 大聖女様は大変寡黙な方だった。これまで彼の声を聞いたことがない。

 話しかけても身振りで返すだけ。女性よりは静かだろうと思ってはいたが、まさか全く話さないとは思わなかった。


 私は時間を持て余していた。

 なぜなら、お世話を殆どしていないのだ。身支度は神官の仕事だが、自ら全てをしてしまう。

 唯一、食事と風呂の用意はしているが、お世話は全くだ。

 私が職務放棄しているのではなく、聖女様が拒絶されたから。


 お世話をすると言っても、基本は聖女様の肌を見てはいけない。なので身支度は肌が見えるお世話は目を瞑って行う。

 ちゃんと訓練もしているから、お体に不用意に触れることもない。なのに、大聖女様は全てご自身でしてしまう。


 風呂上がりに布をお渡しすることとお髪を乾かすことと、梳くことはさせて貰えるが、それ以外は拒否された。恥ずかしいわけではなさそうだが、無表情なのでその感情は読み取れない。


 そもそも会話がないので大変に手持ち無沙汰だ。


 聖女様付き神官同士の意見交換でも、明らかに大聖女様だけが異端だと分かる。


「お話をされないのですか?どうやって交流をされてるのですか?」

「お世話を断られる?我々の存在意義はありませんね」


 悪気無く言われるルミナスの言葉は私にぐさぐさと突き刺さる。


「聖女様もそれぞれ個性がおありだ。比べるものではない」

 リンデルが諭すが、聖女様に夢中のルミナスには響かない。私はふとため息を吐いた。



 それでも、女神の間にいる時の大聖女様はやはり圧巻だ。溢れる神聖力を女神像に注ぐと、ふわりと光る。それが毎日となればその寵愛は間違いなく、男性だからと揶揄する神官たちもいるが、彼らは大聖女様の御力を知らないのだ。


 なまじ大聖女様が話をされないからか、悪い噂は神殿の内宮でも度々聞かれた。

 その度に私は注意をするが、女神像の喜びを知らない神官にら理解し難いようで、その話はどうやら民にまで広がったようだ。




 朝食を運んだが、神殿に着いてから大聖女様はパンしか召し上がらない。スープにも口をつけて欲しいが、チラッと目をやるだけで見向きもしない。

「体を温めるためにも、スープを召し上がって下さい」

 そう何度も言ったが、こちらを見ることもせずに皿を押しやる。


 そして神官にお越しになってから10日後、朝の女神の間で大聖女様は倒れられた。軽く流すだけなのに。

 床に蹲る前に抱き留めた体に愕然とする。


 午後の祈りでは毎日倒れているから、いつの間にか慣れてしまっていた。そして毎日だからこそ気がつかなかった。

 いつの間にかその体はさらに細く、軽くなっていた。


 そしてその顔色も青ざめている。何故気が付かなかった?毎日とおそばにいたのに。

 いや、分かっている。

 私は大聖女様を見ていたが、真剣に見てはいなかったのだ。そして大聖女様も私を見なかった。


 それは単なる言い訳だ。

 分かってはいるが、自分の愚かさに泣きそうになった。

 何も言わないから…

 何も求めないから…


 でもそれは何も思っていないのとは違うのに、勝手に自分の残念に思った苛立ちを聖女様にぶつけていたのだ。まだ15才の聖女様に。


 部屋に戻ると服の上から体に触れる。

 細い、いくらなんでも細すぎる。私は神官の治癒を試みるが弾かれた。


 神官の力は万能ではない。受け入れる意志が無ければ通りが悪い。しかも膨大な神聖力を持つ大聖女様なら尚更だ。


 その顔色を見れば明らかに栄養が足りていないのが分かる。まだ育ち盛りだ。


 しかし、その苛立ちは大聖女様に向かう。食べてくださらないからこんな事になる。


 私は真実を知らないままに、大聖女様を悪者にしていた。私に求められるのはそのお心に寄り添う事だったのに。




 目を瞑る大聖女様の口に昼食として運んできたスープを流し込む。頭を支えてやれば、ほんの二口だけ飲み込んだ。良かった。私は安堵した。



 それがその後に大変な事態を引き起こすとは知らずに…傲慢にも大聖女様が悪いと決めつけて。




 その日の午後に行う神聖力の譲渡は、大聖女抜きで執り行われた。私は寝台のそばで、その薄い体をぼんやりと眺めていた。


 ん?足音が聞こえる。

 慎重にしかしハッキリとしたノックが聞こえた。私は扉の前に立ち問う。

「何用だ?」

「リンデルだ。大聖女様は御目覚めになられたか?」

 訝しく思いながら

「未だ目覚めぬ」


 少しの間があり

「女神の間に至急お連れしろと神官長様からの伝言だ」

 何故だ?


 そう思ったが、静かながらもリンデルの焦りを感じた私は大聖女様にベールを被せ、その上から毛布でくるんで抱き上げた。

 部屋を出てリンデルに続く。


 居住区を出ると他には神官長と聖騎士の隊長と2人の騎士が待っていた。何事だ?

 分からないが、分からないなりになにか大変な事が起きてると感じた。


 神官長自ら先導して女神の間に赴く。


 居住区からは内宮のさらに奥、限られた者しか入る事ができない内殿を通ってその突き当たりある女神の間まで5分ほど。

 その大きな扉を神官長が開くとうめき声が聞こえた。


 なんだこれは?


 肌がぴりつくような威圧感を感じる。神官長に促されて中に入る。

 その様子は言葉にするのが難しいほどに荒れていた。




*読んでくださる皆様へ*


面白いと思って貰えましたら、↓の☆から評価、いいねやブックマークをよろしくお願いします!


評価は特に嬉しいです♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ