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神官と聖女  作者: 綾瀬 律


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1/7

1.新しい聖女様

新連載です

話数は短い予定です…

珍しく筋書きは決まってますので


おふざけなしのお堅いお話




 神殿に緊張が走る。それもそのはず。今日は新たな聖女様がこの中央神殿にお越しになるのだ。

 

 この国、アフロータス国には聖女様がおわす。

 常に3名の聖女様が、この国を守る女神様方を支えるのだ。

 

 聖女様の役割は女神像に聖なる力、神聖力を注ぐこと。

 そしてその女神像はこの国を悪しきものから守る。

 こうしてこの国は約300年、守られてきたのだ。

 

 この度、聖女様の代替わりが行われる。3名共に変わるのはなかなか珍しい。

 第一から第三の聖女様が替わるのだ。

 

 そも聖女様とは何か?聖なる力を持った子女、とされている。

 穢れのない10代から選ばれる。

 

 代替わりが発布されると、各神殿が10代の子供の鑑定を行う。そして代替わりの人数だけ聖なる力を持つ聖女が見つかる。

 3人同時というのは珍しいが、過去に例が無かったわけではない。

 

 聖女の序列は聖なる力の保有量によって変わる。代替わりする第一聖女の御力は歴代でも最強と言わしめるほどのものだとか。

 聖女様の情報は秘匿され、中央神殿にお見えになる今日までその年齢や姿まで謎に包まれている。

 その聖女様たちが来る。期待しない方が難しい。

 

 私は第一聖女様付きとなることが決まった第一位の神官だ。

 聖女様は第一から第三までの位があり、その位は神聖力の高さで決まる。

 その聖女様の身の回りの世話をするのが神官だ。

 聖女様の仕事は女神像への神聖力の譲渡。

 

 女神像3体にそれぞれ神聖力を注ぐ。

 創世の女神アウレア様、豊穣の女神ルーヴィス様、そして慈愛の女神マリルール様

 それぞれ第一聖女、第二聖女、第三聖女が神聖力を注ぐ。

 

 女神像には女神様の御力が封力されており、捧げられた神聖力を媒介としてその御力を国へ還元する。

 ゆえにこのアフロータス国には甚大な飢饉や疫病はない。

 自然災害などは防ぎようがないが、それでも大きな被害は起こらず。すべては女神様の御力とされている。

 

 実際には女神様がお力を使うためには神聖力が必要で、その譲渡は聖女様の仕事。

 一般の民と相まみえる機会はないので多くの民は知らないが、国の安寧は3名の聖女様によって維持されてると言える。

 その聖女様を間近でお守りする役目が聖女様付き神官の役目だ。

 

 聖女様は国民の中より選ばれる。

 神聖力があるものがすなわち聖女様だ。ご自身の意思とは関係なくその体に宿る力。

 宿ってしまえば神殿に召し抱えられ、神殿での生活が始まる。

 

 神官は治癒魔法に適性のあるものが家族の又は自らの意思で門を叩く。

 大抵は幼少期に預けられ神殿で生活をする。15歳の年から聖女様付きを希望する神官は別の試練と称される勉強が始まり、選別される。


 大変に名誉な仕事であるので、年齢が合えばたいていの神官が希望する。

 神官は男性と決まっているので、聖女様の奉仕が終わって神殿を出るとき、還俗する時にそばにいることを願っている可能性もある。

 

 もっとも第一聖女様だけは例外だ。

 今回の代替わりではちょうど年頃の王族がいる。なので、慣例に従って第一聖女様はその王族と婚姻するのだ。

 聖女様の自由意思で受けるも断るも可能だ。過去に王族との婚姻を断った事例が3件ほどある。あるがほぼ受け入れる。

 なので第一聖女様付きの神官を望むものは少なかった。

 

 私は聖女様一行が乗った馬車が神殿に到着したとの知らせを聞いて心を躍らせた。

 過去稀に見る神聖力と言われた今代の第一聖女様。

 その素顔を見れるのは聖女様付きの神官たちと神殿のトップである枢機卿猊下、そして神殿長のみだ。

 

 女神の間で我々は聖女様をお待ちしていた。

 やがて神殿騎士により両開きの大きな扉が開かれた。枢機卿猊下に先導された聖女様3名は神殿の服である白い前合わせの服の上から体を覆う長いベールを掛けている。ベールはその頭から足先までを覆い、聖女様のお顔は見えない。


 女神の間は入り口の正面に3体の女神像が壇上に祀られている。

 中央にアウレア様、左にルーヴィス様、右にマリルール様

 

 聖女様はしずしずと女神像の前に進むと膝を着いた。

 ここにいるのは3名の神殿騎士とその騎士をまとめる騎士団長、枢機卿猊下と新官庁そしてわれわれ神官だ。

 儀式には慣れており、静かにその行方を見守っていたが誰もが息を呑んだ。

 

 第一聖女様は片膝を付いて床に座った。第二第三聖女様は両ひざをついて座る。

 胸の前で十字を切ると両手を合わせ頭を垂れる。

 

 しばし後に女神像が淡く光った。それを合図に聖女様たちはその姿勢のままで段上ににじり寄った。

 そこで第一聖女様は両ひざを付き女神像に跪く。

 両手で女神様の御御足(おみあし)に触れるとほころぶような光の奔流が部屋に溢れた。

 

 その光は部屋を満たし、我々神官の頭上にも降りそそいだ。温かくやわらかな光は女神様の喜びを感じた。

 光が収まる。この部屋にいる人たちは感動に打ち震えていた。私以外は。


 だからか、一瞬意識を外した時には第一聖女様の体は傾き、ゆっくりと床に倒れた。

 ベールから濃い金色の髪が床に散らばる。

 一瞬の後に慌てて近寄った。なんという失態だ!聖女様を受け止められず、床に倒れ伏させるなんて。

 

 聖女様のお体に触れていいのは身の回りの世話をする担当神官だけだと言うのに。

 その体をそっと抱き起す。叱責を覚悟したが、聖女様は沈黙している。

 はしたないと思いつつお顔をのぞき込むと目を瞑っておられた。いや、違う…意識を失っていた。


 

 これは!!!

 


「どういたした?」

 枢機卿猊下の重々しい言葉が部屋に響く。

「はっ…第一聖女様は気を失っておいでです」

 

 滅多に表情を動かさない猊下が目を見張る。しばし瞑目すると

「今代の第一聖女様は大聖女様であらせられる。今後は大聖女様とお呼びするように」


 

 大聖女様が降臨された…



 

 神聖力の強い聖女様であるが、気を失うまで女神像へ力を注げる方はほぼいない。

 真摯な祈りの結実として召し上げられる神聖力。それは真に澄んだ心の持ち主だけが成し得る。

 気絶するまで神聖力を注ぐことは普通出来ないのだ。

 

 それが出来るのは大聖女様だけ。

 過去に一人だけいた大聖女様のことは授業で聞いた。だから今代も?

 私は複雑な気持ちで腕の中の聖女様を抱き上げた。

 

 今代の聖女様方は第一から第三までのご年齢が15,18,14だ。

 10代から選ばれるとはいえ、幼過ぎても大変だし年齢が上がるほどに俗世の記憶が抜けない。

 最適は14から16才とされるので、大聖女様はまさに聖女適齢期だった。

 

 神聖力は体格に比例しない。これは過去の例から間違いない。

 ただし、大聖女様だけは例外だ。

 体格が良い、わけではなく大柄だ。

 

 過去に一人だけいた大聖女様も身長が1m90cmあったと聞く。

 抱き上げた大聖女様もその体は軽いが背はある。小柄ではない。

 私よりは気持ち背は低かったと思うが、1m75㎝ほどはありそうだ。

 まだ15歳なのでもっと大きくなるかもしれない。

 

 頼りないくらいに軽い体を抱いて女神の間を出ると、急ぎ聖女様たち暮らす居住区に向かう。

 居住区の入り口には聖騎士が2名控える。

 私と聖女様を見て無言で扉を開けた。

 

 この扉より先に進めるのは聖女様と聖女様付きの神官、そして枢機卿猊下だけだ。

 清らかでいなければならない聖女様は自らに治癒を使ってはならない。

 その身も心も健やかでいるために、厳重に守られるのだ。

 

 第一聖女様用に誂えた部屋に入ると、ベッドにその体を横たえる。

 頼りないくらいに薄いその体からベールをそっと外す。

 ベールの下から見える前合わせの聖女服は腰ひもで縛り、裾に向かって広がっている。

 

 そして…あぁやはり、か。

 ベールに覆われて判然としなかったが、その胸元は平だった。

 大聖女様になれるのは男だけ、それは検証されることもないままだった。

 なぜなら大聖女様は過去に一名しか顕現されていない。それが偶然か必然か判断するに足りなかったのだ。

 

 今代の大聖女様も男性だった。

 聖女様に崇拝にも似た憧れを抱いていた私にとって、それは大きな衝撃だった。

 

 そもそも聖女とは神聖力持った方の総称であり、性別を指すものではない。

 

 神官になって最初に学ぶのは聖女様についてだ。

 知識としてはもちろん知っていた。いたが、私が神官になるために神殿に来てからも聖女様はみな女性だった。

 いや、正確には男性の聖女様は過去にたったの一名だ。

 

 女神様による慈悲としてこの国が守られてから凡そ300年ほど。

 その間に聖女となられたのは73名。その中で男性はたったの一人なのだ。

 よりによってその年に当たるとは。

 

 そう考えた自分自身に一番失望した。

 失望したが仕方ない。清らかな乙女を夢見ていたのだ、その程度は許してほしい。

 まだあどけない顔の大聖女様を見てそれでも少しだけ心が痛んだ。

 

 例え大聖女様であっても、男性の聖女様へは風当たりが強い。

 下々の前に姿を現すことなく、ひたすら女神像へ神聖力を注ぐ聖女様たち。

 その御姿は職を辞すまで衆目に晒されることはない。


 それでも、今代の第一聖女様が大聖女様であり、男性であることは公式に発表される。

 ご本人の承諾があれば王族との婚姻が決まっている第一聖女様が、よりによって男性とは。

 王族からの反発が無ければいいのだが、そう思ってため息を吐いた。

 

 神殿で治療に当たるのは神官の役目だ。

 聖女様が女神像へ、そしてその女神様から国へ加護が与えられる。

 しかし、それは間近で見ることは叶わない。叶わないからこそせめて身近に感じて貰うために絵姿が出回る。

 お顔は見えないが、その佇まいや雰囲気を感じられる。

 

 聖女様付きの神官として一番の理解者であらねばならない私ですら、男性なのかと落胆した。

 一般の民であればもっとはっきりと落胆するだろう。


 しかも、婚姻予定の第3王子は我儘と評判の御仁だ。

 聖女様と縁づくと吹聴して回っていたが、その反動で壮絶な苦情をいいそうである。

 御年17才。年齢を考えると15才の聖女様とは大変にお似合いであるが…男性同士だ。

 

 この国は同性同士の婚姻も可能である。

 第3王子はどうせ子を成すことは許されないのだから問題ない、筈だ。

 しかし、人の心は簡単にどうにかなるものではない。

 

 パーティーなどで可愛い貴族の息女を目で追っている姿は有名で、手出しこそしないものの普通に女好きと噂されている。

 波乱が無ければいいが、そうつぶやいた。

 

 その波乱は案外とすぐに、そして近くから巻き起こることをこの時の私はまだ知らなかった。




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