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おしゃべりオウムに ようこそ  作者: 寄賀あける


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9  火花を散らせば

 デリスが自分を(にら)み付けるのをひしひしと感じつつ、アランが言う。

(ずる)いかどうかは判らない。僕に判るのは、デリスは僕を睨み付けているけれど、僕はデリスを睨めないってことだ」

その言葉にデリスがギョッとする。が、

「おまえのそんなところを狡いって言ってるんだ」

と、言い返す。

「そうか……そうかもしれないね」

アランの声音が低くなる。


「僕は自分の目が見えなくなったことを、気にしてもどうしようもないって思いながら、実はすごく気にしている。判ってはいるんだよ、気にしたってどうにもなる事じゃないって。今さらだ」

「アラン……」

言い過ぎたとデリスが後悔し始める。


「デリス。今まで何も考えず出来ていたことが、ある日、全くできなくなる。しかも五感の内でも重要な機能が失われた。常に闇に閉ざされる――ジゼルが世話係の魔女たちに、何かあると罰として闇に閉じ込められたと言っていたよね。『闇に閉じ込めるのだけはやめて』ってよく泣いてた。あの気持ち、今ならよく判るよ。もっともジゼルの場合は、視覚だけじゃなく、他の感覚も封じられてた。その分、僕のほうがずっとマシだ」


「感覚を封じる?」

「封印術の一種を使ったと推定している。そんなに簡単な術じゃないんだけど……ビルセゼルトは世話係の魔女の選定を失敗しすぎているように思える。ジゼルがその罰を受けるようになってからの世話係の魔女の追跡調査をダグに頼んでおいた」

「いや、なんだ? なんでアランがそんな事を? だいたいダガンネジブがそれを引き受けた?」


「……僕は月影、ジゼルの影だ。なぜジゼルの影だと〝月影〟になるのか? それはジゼルが『月』を得物にしているからじゃない。彼女は『地上に降りた月』神秘王だからだ――僕が命じればジゼルが命じたと同じ」

「神秘王? そんな話、聞いていない」

蒼褪めるデリス、アランはケロッとしたものだ。


「うん、初めて話した。ほかには誰にも言っていない。もちろんギルドの上層部には周知済みの事だ」

「それって、僕に話して良かったのか?」

「あと半年もして、魔導士学校を卒業すれば、ジゼルが地上の月、神秘王だという事と合わせて、『月影の魔導士』の意味をギルドが正式に発表する」

「いや、ちょっと待て――アランの目の話をしていたんだ。それがどうしてこんな話になった?」


 アランが寂し気に微笑(ほほえ)む。

「デリスが僕の事を狡いと言ったからだよ。そして、それは間違ってない。僕は狡い。狡くなった理由を説明した」

「……狡くなった理由――シャーンから逃げている理由、自分の本心から逃げている理由でもありそうだ」

「さらに、その理由を話すことさえ狡い。反論できないだろ?」

「……」


 デリスがアランを見詰めて考え込む。そして、

「いや、僕は反論する。どんな(あし)かせがあろうと、それに屈するな、アラン」

と、言った。


「足枷、か――」

アランが苦笑する。

「足枷とデリスは言ったけれど、うーーん、足枷……月影である僕は、ジゼルと同じで、すべての魔女・魔導士の上に立つ者の一人となった。権限を持ち、同時に責任を負った。しかもその権限も責任も僕には重過ぎる。それを足枷って言ったと思っていいのかな?」

「ビルセゼルトやダガンネジブはなんと言ってるんだ?」

「何について? 僕が月影である事について? それとも僕の権限と責任についてかい?」


「いや。うん、アランに月影としての権限や責任があるなら、どうして魔導士学校の教職に就いたりするんだ?」

「質問を変えるのは狡くないのか? まぁ、いい……ジゼルは街の魔導士になり、僕は学者になる。ジゼルも僕も、生活している。生きてかなきゃなんない。(きた)るべき時に備えて――その時には、職も生活も捨てることになるかも知れない。命さえも」

(きた)るべき時……()ないかもしれない」


「歴史学者ビルセゼルトが研究を重ねて出した結論は、星見魔導士が出した予言と同じだ。災厄は来る。それももうすぐだ。あと四年」

「……四年。うん、それは以前から話している事だ」

「とにかく、だ。僕はシャーンと一緒になれない、なる気もない。だけど、シャーンの事は気掛かりで、彼女の幸せを願っている。それは否定しない――そして、デリスなら彼女を幸せにしてくれる、そう思ってデリスをシャーンにと、ダガンネジブに進言したのは僕だ」

「えっ?」

「そう言うことなんだよ、デリス。だから僕に気兼ねすることはない」


「――アランの気持ちより、僕はシャーンの気持ちを考えてしまうけれどね」

デリスの言葉にアランの返事はなかった。三時限目の開始時刻が迫っていた。慌てて教室に移動する。


 三時限目、二人が受ける講義は同じで、そこにはグリンの顔もあった。


「来ないのかと思った。探して、迎えに行くところだったよ」

二人が姿を見せるとグリンが来てそう言った。

「なにかあった?」

デリスがグリンに問う。


「うん。シャーンから聞いたんだけど、学校に保護者が集められているって」

「え?」

「すぐ来られる人はすぐに、来られない人は可能な時刻を連絡して欲しいって通知があったらしい」

「それをシャーンはなぜ知った?」

尋ねたのはアランだ。


「談話室の暖炉――火のルートから保護者が次々に来校してるって。母も来て、シャーンは母から聞いたらしい」

「あぁ、ビルセゼルトが休講で、シャーン、談話室にいたのか」

アランが納得する。その様子をデリスが観察しているのはアランも気付いている。でも知らん顔だ。


「この二日間の説明かな?」

「そうじゃなさそうなんだけど……」

デリスの質問に対するグリンの答えは中断される。教室にこの時間の講義『浮遊と宙空間の利用に関する魔導法』の担当教授、副校長レギリンスが現れたからだ。


 今日のテーマは『宙空間に於ける物質の保管および消去に関する制約と法律』で消去術のスペシャリストのレギリンスの舌は()えまくっていた。


「つまり、宙空間の容積以上の物質もこの方法で保管できるわけです。我が校の図書館もこの方法で莫大な蔵書を管理しているわけですね」

そう言って、学生の反応をレギリンスが見渡した時だった。


「誰だっ!?」

アランが叫んで立ち上がる。顔色を変えて、周囲に意識を張り巡らせているのが(はた)からも判る。その様子にレギリンスの顔色も変わり、アランに(なら)って意識を張り巡らせた。


「保護術の強化! 最大限に!」

アランが拡声術を使う。そこかしこにアランの声が響き渡る。呼応して教職員及び保護術を使える学生が魔導士学校を包む封印に保護強化術を施術する波動が起きる。


「火弾による攻撃! 各自、防衛幕を施術っ! できない者を近くにいる施術者は内包せよ!」

続いてアランの声が響き、アラン自体が見えない何かに包まれる気配を発する。


 ドンッ!


 大音響と振動が同時に起きる、学生たちに動揺が広がる。アランが窓の外に意識を向ける。


「は……?」


 パチパチパチパチ……火花が飛び散るのが容易に判る。


 ドンッ! パチパチパチパチ……

 ドンッ! パチパチパチパチ……

 ドンッ! パチパチパチパチ……


「……建物内部にいる者は防衛幕、解除」

幾分、先ほどよりは気抜けしたアランの声が校内を渡る。


「花火だ――飛んできた火弾は花火だったんだ……」

すっかり力を失ったアランの声が校内の緊張を解いていく。


 レギリンスがアランの肩に手を置いた。

「さすがに主席、校長の不在時に的確な判断でした。何より、教職員さえ気づかなかった火弾の接近をいち早く察知し、校内に指示を出し危険を回避しました――火弾は花火であり、それほど危険ではなかったとしても、賢明な判断としか言えません」


 花火の『来襲』は終わったようだ。


『副校長レギリンスです。校長ビルセゼルト不在のため、代わってただいまの騒ぎについて通知いたします。事態究明のため、これ以降の講義は休止、速やかに各自寮に戻り、次の指示が出るのを待ちなさい。帰寮には移動術を使用し、念のため、屋外には出ないよう工夫すること。移動術が使えない者に関しては寮長が同行術で連れ帰る事。指示があるまで自分の寮を出る事を禁じます――以上』


 レギリンスが満声術を使い、校内に通知した。

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