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おしゃべりオウムに ようこそ  作者: 寄賀あける


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27 地上に降りた太陽

 アランの緊張をジゼルが笑う。

「探していた者を見つけたまで。そう驚くこともないだろう?」

「では、やはり?」

アランが気の抜けたような顔をする。


「十八年以上、ギルドが探して見つからなかったのに、ジゼルがこんなに早く見つけるなんて」

「時が来るまで隠し続ける者が近くにいた。だから見つけられなかった。で、わたしは(つい)となる月、太陽を探すのに向いていたんだろう」


「向き不向きがあるのか?」

「さぁ……」

ジゼルはすましてお茶をすする。


「ビルセゼルトへの報告は?」

「しない。アランもするな」

「でも、せっかく見付けたのだから、保護したほうがいいのでは?」

「アラン、思ったよりも間抜けだな」

アンタに言われたくないとアランが思う。


「今まで見つけられなかったのだ。ギルドが保護なんかしてみろ、彼を消そうとする(やから)に居場所を教えるようなもんだ」

「そりゃそうだけど――その男がそうだとしたら、そう簡単にやられることもないんじゃないのか?」


「アラン、やっぱり間抜けだな――生まれたときの封印術が有効だ。時が来るまで彼の力は目覚めない。目覚めるまでは彼はただの街人。魔導術とは無縁な存在だ」


「封印を解くことはできないのかい?」

「無理だ」

あっさりジゼルが断言する。


「通常の力が作動した封印じゃない。ただの魔導術じゃない――地上に降りた太陽、本人が掛けた術だと感じた」

「赤ん坊にそんな術が使える? だいたい自分に封印術が使える?」


「フン」

と、ジゼルがアランの顔を見た。

「アランに判らないことがわたしに判るはずもない。わたしに知識を求めるな――お茶、お替り」


「あ、はい――」

慌ててアランがジゼルのカップにお茶を注ぎ足す。


「本人に間違いないのですよね?」

「名を呼んだら反応した。街人としての名とは違う名に、躊躇(ためら)いなく答えた。本人以外なわけがない」

「そうですか……」


「だが、(しばら)くして、急に自分の名ではない名で呼ばれたと気付いたようだ。なんで『ロハンデルト』なんて呼んだんだ? と聞かれ、苦し紛れに忘却術を使ってしまった」

「効きましたか?」


「うん、問題なく効いた――誰の魔導術にも掛けられてしまうのは厄介だと思ったけど、今のところわたし以外が彼に直接、術を使った形跡はなかった。保護術と、生まれた時に掛けられた封印術だけだ」


「では、誰かが彼に攻撃を仕掛けたら、あっさりと?」

「その可能性はあるね。だからそう簡単に手出しできないよう、わたしの『飼猫』にした」

ブッとアランが紅茶を吹き(こぼ)す。


「飼猫にした? 地上に降りた太陽を?」

「ちゃんと魔導契約は発動した。これでわたしが自分に掛けた保護術が、彼にも有効になった」

「いや、そういう問題じゃなく……」

「何か問題?」


 急に本来の年齢の顔でジゼルが首を(かし)げる……地上の月となる前からのジゼルの癖、こんな仕種は可愛いのになと、ついアランは思う。


「問題はないけどね、自分より上位に来る魔導士を飼猫にしちゃおうって発想が飛んでるなって」

「ふーーーん」

ジゼルは面白くなさそうだ。


「ところで、やはり心配していたことが起きた」

「心配していたことって?」


 あなたのことは心配してばかりなので、どれを言っているか見当つかない、そう言いたいアランだったが、またごちゃごちゃ言われそうで口に出せない。


「冷えた」

「あぁ、お茶、淹れ変えましょうか?」

「いや、お茶ではなくわたしが冷えた」

「――何か、大きな術でも掛けたのか?」


 アランが急に真面目な顔なる。ジゼルの弱点が、魔導力を使い過ぎると現れることは判っていた。使い過ぎれば体力を消耗するのは当然だが、ジゼルの場合は同時に、生命エネルギーも消耗する。急激な体温低下、下手をすれば衰弱死――老衰と同じ現象で命を落とす。


「わたしが『街の魔導士』を勤める街の隣街に、炎を操る魔導士が現れて事件を起こした。その街の魔導士は呆気なく殺されて、わたしは〝わたしの街〟要請で、援軍に向かった」

「うん、それで?」


「行ってみるとギルドが派遣した者たちは()れぞろいにも(かかわ)らず苦戦、炎は水を含んだものだった――で、わたしも手を貸して消し止めた」

「その程度ならなんという事もなかったでしょう?」


「うん……お茶、お替り」

「はいはい」

「はい、は一度」

「はい……」

アランがカップにお茶を注ぐと、すぐにジゼルが手を伸ばす。


「犯人は追っ手から逃れ、わたしの街に逃げ込んだ。そこでわたしはわたしの街に戻り、犯人を追い詰めた」

「活躍してるじゃないですか」


 内心、『わたし』『わたし』と言い過ぎだとアランが思う。もう少し整理して話せないものか……いや、ジゼルにそれを求めるのは無理ってもンだ。アランがこっそり笑う。


「うん。で、その犯人、援軍を呼んでいた。わたしは二人の魔導士と戦う羽目になった」

「炎に水を含ませる術が使えるなら、高位魔導士……援軍と言うのは?」

少しばかりアランが緊張する。でも、問題ない。今、ジゼルはこうして無事でここに居る。


「もう少し高位、そんな感じだった。二人の名は聞いたが忘れた――街の広場に結界を張って、街に極力被害が出ないよう、二人とやり合った。まぁ、楽勝だった」

「なんだ、楽勝だったのですね」


「うん、でも、なんだ、一男一女? 違うな……」

「ひょっとして、一難(いちなん)去ってまた一難?」


「そうそう、それ、それ――もう少しで二人を(から)め取れるというとき、宙から一人の魔女が現れた」

「移動術でやってきたのですか?」


「いや、空だ。空中に姿を現した。空を飛んでたかも。あの魔女、わたしに結界から勉強し直せって言いやがった」

「ジゼル、言葉が乱れて……」


「アラン!」

「はい!?」


「あの魔女はわたしに、地上の結界は完璧だが、空がすっからかんだと言った。あの状況で、空を(おお)う結界が必要か?」

「いえ、通常は必要なさそうだよね?」


 どんな状況か判らないのに答えられるか、と思いつつ、アランはそう答えた。答えはしたがついうっかり、疑問に置き換えてしまった。


「ふん……」

アランの言葉の置き換えに、ジゼルも気が付いたようだ。アランから目を()らし、(ほほ)(ふく)らませている。


「アラン……わたしはやはり愚かか?」

ジゼルが震える声で(つぶや)いた。

「自分でもなんとかしようとしている。でも、どうもどこかが抜けている……」


 深い緑色の瞳を見開いたままジゼルは、ぽろぽろ涙を(こぼ)し始める。


 魅惑(みわく)の瞳の発動を感じる……ひょっとしたらグリンは、この瞳に()せられたのかもしれないと、ふとアランは思った。ジゼルは魅惑の瞳を意識して発動しているわけじゃない。無意識で発動されれば魅惑の瞳と気付きにくい。


「大丈夫だよ、ジゼル――これからいくらでも賢くなれる。屋根のある結界ができない訳じゃないんだろう?」

ハンカチを渡しながらアランが言う。渡しながら、いつかシャーンに渡したのに、ビルセゼルトに返されたハンカチだと思い出していた。


「うん、あの時は必要ないと思っただけだ」

受け取りながらジゼルが答える。


「ただ……悔しくて。あの魔女はわたしの結界を、事もあろうか指先一つで解除したんだ」

「えっ?」

今度こそ、アランが真面目に顔をこわばらせる。


「ジゼル、その魔女って誰か判る?」

「うん……西の統括魔女ドウカルネス」

ガチャン、と音を立ててアランが立ち上がった。


「なにを慌てている?」

アランの動揺にジゼルは涼しい顔だ。


「だって、西の統括魔女だぞ? なんで南の陣地内に姿を現す?」

「さぁ。わたしに判るはずもない」

そりゃそうなんだけど……アランは泣きたい気分だ。


「あの時、ロハンデルトは飼猫の役目を充分果たしてくれた」

「なにをさせたんだ?」


「保護幕で包んで姿を消したうえで、場を見張らせた」

「うん」


「ドウカルネスの来襲にいち早く気が付いて、警告を出してくれた上、新たな魔女の出現に(すき)ができたわたしに向かった攻撃を防いだ」

「攻撃を防いだ?」


「うん、わたしに危険がせまったら『ジゼェーラに手を出すな』と叫べと指示を出しておいた」

「有効に?」


「有効だった。見事に術は無効化されて、わたしには届かなかった――封印は徐々に解け始めている。だが、誰かが解くことはできない。最初からの契約なのだろうな」


「うん……で、ドウカルネスとはどうなったんだ? 二人の魔導士ならどうとでもできただろうが、さすがに統括魔女は()ごわい」

「そうだね、まともにやり合ってたら、今のわたしでは太刀打ちできなかったと思う。あちらにやり合う気はなかったようだ。街を騒がせた魔導士を置いて、もう一人とさっさと自分の陣地に帰っていった」

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