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おしゃべりオウムに ようこそ  作者: 寄賀あける


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21 父 ビルセゼルト

 アランが自分には関係ないと心にもない事を言い、それにグリンが腹を立てたって事か、とカトリスが確認する。


「関係ないなんて言われて、納得できるもんか」

グリン本人はグッと抑えたつもりなんだろうけれど、怒りが(にじ)み出ている。

「アランがちょっかい出さなきゃ、シャーンだってアランの事……」


「僕の事を? 僕の事をなんだっていうんだ?」

いきなりベッドでアランが上体を起こし、アランが声を荒げる。慌ててカトリスが結界を強化する。


 きっと部屋の外には事の成り行きに聞き耳を立てているヤツがいるはずだ。音漏れを完全に防ぐ結界にカトリスは施術し直した。


 アランは急に起きたからだろう、少しふらっとしたものの、そのまま、ベッドに腰かけた。もう少し横になっていたほうが、と言うカトリスをアランが無視する。


 カトリスは軽く溜息(ためいき)()き、部屋にテーブルを出現させた。すぐに湯気を立てたカップが三客と菓子皿に盛られたガレットが三つ出現する。


「アランもグリンも落ち着けよ」

二人にお茶を勧める。が、グリンもアランも反応しない。


「シャーンはアランが好きなんだよ」

ボソッとグリンが言った。

「デリスとの話は以前からあったんだ。でも、シャーンは断った、はっきりとね」


 ここでやっとグリンがお茶に手を伸ばす。

「なのにまたダグから、もう一度()()考えてみてくれって、ビルセゼルトに言ってきた。母じゃなく、ビルセゼルトに、だ」

グリンがカップをソーサーに戻す。


「ビルセゼルトはダグの申し出を拒まない。アイツは自分の立場を考えて欲しいと、シャーンを説得したに違いない」

「確かなのか?」

とカトリス、

「ただの憶測だ」

とアラン。


「ビルセゼルトは自分が有利になるために、子どもを使ったりしない」

「おまえに何が判るんだ? その子どもを捨てた男だ!」

「へぇ、その捨てた子どもにすべてを継承させるんだ?」

「アランもグリンも待て。感情的になるな」

アランの言葉に腰を浮かしかけたグリンをカトリスが止める。


 再び沈黙が部屋を支配する。


「ビルセゼルトは、本当にシャーンを説得なんかしたのかな?」

沈黙を破ったのはアランだった。

「僕はビルセゼルトはそんなことしないと思う――僕がダグと話した時、ダグは僕にビルセゼルトを動かすのは無理だって言ったんだ」

「えっ?」

グリンがアランを見る。


「ダグにデリスとシャーンの事を頼んだのは僕だ」

激昂(げっこう)しそうなグリンをカトリスが止める


「アラン、それはどういう事?」

カトリスが静かに問う。アランがカップを魔導術で手元に引き寄せた。


「このままじゃ、シャーンは先に進めない」

カップを持つアランの手が震えている。


「シャーンを説得したのはビルセゼルトじゃない。この僕だ」

震える手が口元にカップを運ぶ。カトリスが何かしたのは、カップから紅茶が(こぼ)れない魔導術を使ったんだとグリンは思った。


「グリンが怒るのも判るんだ。グリンがどれほどシャーンを大事にしているか、僕は知っている。そのシャーンに望まない結婚なんかして欲しくない、そう思って当然だよ」

口元に持って行ったものの、カップに口を付けることなくアランが言った。


 カトリスが、

「なんで、シャーンをデリスに?」

静かに問い、アランが答える。

「シャーンとデリスは『魔導士の(きずな)』で結ばれている。魔導士の絆が、必ずしも婚姻を示すものではないと判っているけれど、婚姻でさらに絆は固くなる。シャーンは必ずデリスに守られる」


「魔導士の絆、っていつか必ず共通の困難に立ち向かう二人ってあれか?」

カトリスが疑問を口にする。グリンがゆっくりと腕を組んだ。

「うん、確かにデリスとシャーンの間には『魔導士の絆』が存在する。それは僕も否定しない。だけど、アラン、婚姻は必ずしも必要じゃないはずだ」

アランの手からカップが離れ、ソーサーに戻っていく。だけどグリンに答えようとはしない。


「デリスがシャーンに特別な感情を持っていることは僕だって気付いてた。でもアラン、シャーンの気持ちが別のところにあるのに、デリスがシャーンとの結婚を望むとは思えない。ダグに勧められて断り切れなかったんじゃないのか?」

ずいぶんと冷静になったグリンがアランに問いかける。アランが答える。

「シャーンの気持ちがどこにあるのかは、シャーンにしか判らないことだと思うよ。グリン、人の気持ちは移ろうものだ。シャーンに確かめてみた?」


「わかった!」

カトリスが叫ぶように言った。大まかな話は理解した、これ以上二人を一緒にしておくと、また喧嘩になると判断していた。


「二人の(いさか)いの原因は、ただの痴話(ちわ)喧嘩。で、二人とも反省している。だから今回は不問。寮監にはそう報告する――アランが無抵抗だったのは、言い過ぎたと反省していたから、ってことで。二人とも、それでいいな?」


 何か言い募ろうとするグリンをカトリスが抑える。そして自分が出したカップとテーブルを消すと、椅子も消すぞ、とグリンを立たせた。

「もうこの話は終わりだ。蒸し返すなよ、二人とも」


 カトリスがグリンを部屋のドアへと追いやりながら

「おやすみ、アラン――結界は自分で解けよ」

と、自分も部屋を出てドアを閉めた。


「カトリスはアランの話しで納得できるのか?」

廊下でグリンがカトリスを(なじ)る。

「納得するとかしないとかじゃなく、アランがシャーンを思っているのはよく判った――多分アランはそろそろ限界だ」

「限界?」

「一番泣きたいのはアランだと思った。アランは僕たちの前で泣いたりしない……判ったら自分の部屋に戻って寝る支度でもしろ。二度と風弾なんか投げるな、次は(かば)い切れないからな」


 翌日、グリンは校長に面会を願い出ている。許されて教職員棟にある校長室にグリンが行くと、ビルセゼルトは窓辺に立って王家の森を眺めていた。


「さて、グリンバゼルト。キミがわたしに話があるとは、いったいどんな風の吹き回しかね?」

ゆったりと笑みを向ける。


 まぁ、掛けたまえ、とソファーに座らされ、紅茶を勧められる。半年前、この部屋に置かれていた水槽(すいそう)は、当然だが片付けられて跡形もない。魚に化身(けしん)したグリンが沼で捕らえられ、入れられていた水槽だ。そしてその時以来、初めてビルセゼルトと二人きりになる。グリンは自分が緊張していると感じずにいられない。


「今さら、進路相談でもなさそうだ。何か問題でも起こったか?」

ビルセゼルトがグリンに問いかける。子どもの頃、この声が好きだったと、ふとグリンは思う。


「今日はシャーンのことで」

「ふむ……校長に個人的なことを相談したい、そう(とら)えていいのかな?」

「そうではなく、父上!」

つい飛び出した自分の言葉にグリンがたじろぐ。ビルセゼルトも驚いたようで、少しだけグリンの顔を盗み見た。


「つまり、校長ではなく、キミの父親としてのわたしの意見を聞きたい、もしくは抗議したい、と言ったところか」

ビルセゼルトが手にしていたカップをソーサーに戻した。


「シャーンはアランが好きだ。デリスもそれを知っている。二人が一緒になっても不幸になるとしか僕には思えない」

「……まぁ、お茶でも飲んで少し落ち着きなさい」

ビルセゼルトが必死な息子の顔を見詰める。


「シャーンがアランに想いを寄せていることはわたしも知っている」

「アランだってシャーンを……」

「うん。アランはここのところいろいろあり過ぎて、それだけでも追い詰められている。聴講生として、学生に準じた一年を過ごすことを勧めたのは、わたしだ。これ以上の変化はアランによくないと思った」


「教職を勧めたわけではない?」

「いや、教職もアランには向いているだろう。一石二鳥と言ったところだな」

「……アランもシャーンを好いていると知っていながらなぜデリスに?」

「いま言った通り、アランは追い詰められている。シャーンがアランを追えば、ますますアランは追い詰められる」

「でも、だからって――」


「まぁ、聞きなさい……ダグが困り顔でわたしに相談してきた。シャーンとデリスを一緒にさせろと、アランが滅茶苦茶な事を言い出した、とな」

アランがダガンネジブに頼んだって言ったのは本当だったんだ、とグリンが思う。でも、滅茶苦茶?――

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