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おしゃべりオウムに ようこそ  作者: 寄賀あける


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2  足に出る妬み

 講義棟の前に姿を現し、すぐさま中に足を進める。講義中にいきなり生徒が姿を現したら教師の舌も止まってしまう。講義棟内は安全と講義の円滑な進行のため、移動術は無効化されていた。四人はぞろぞろと集まってくる学生に混ざって最上階の食堂に向かった。


 ぼんやりとだが、アランの髪は(みずか)ら光りを放つ。陽光の中ではさして目立たないその光は、(たて)に入れば()たんに目立つ。建物の中では周囲をエメラルドグリーンに照らしてしまうのだ。しかも今、その隣にいるのはグリン、燃えるような赤い髪のグリンバゼルト……目立たないはずもない。


 階段を昇っているときから聞こえていたひそひそ声は食堂に入ると一段と増え、(さざ)なみのように広がっていく。


(アランだ。髪が光ってる)

(グリンがべったり貼りついてら)

(あの二人、並ぶと()ごたえがあるよね)

(アランだ……(つき)かげだ)


 アラン、グリンと二人の名があちこちで(ささや)かれる。ただでさえ目立つアランと、飛び級して卒業年次生になった上、アランと並んで主席のグリン、(あこが)れとやっかみが食堂の中に飛び交っている。


 学生たちの(ささや)きに気が付いた副校長レギリンスが、アランとグリンの所在を確かめる。

「アラネルトレーネ、グリンバゼルト、来たならこちらへお出でなさい。あ、サウザネーテルラム、カトリスマシコ。あなた達も勿論(もちろん)こちらに」

こんな時、主席と寮長が教職員席に呼ばれるのはいつもの事だ。食堂の奥、一段高くなったそこには教職員がほぼ集まっていて、その中に赤金(あかがね)寮の寮長カーラ――正式にはカルラムネシク―― の顔が見える。校長のビルセゼルトはまだ来ていないようだ。


 カトリスとサウズが行ってしまうのを見送ってグリンがアランに

「行くよ」

と声を掛ける。うん、と答えたのを確認してグリンが食堂のテーブルの間を教職員席へと向かう。


退()いて、道を開けて」

グリンの声に立ち話をしていた学生は通路を開ける。空いた通路をアランは迷いもなく歩いていく。


 そのアランの足元に誰かがスッと足を差し出す。顔色一つ変えず、アランはその足を()()ばし、()まし顔で前に進む。蹴飛ばされた学生は懸命に痛みを(こら)えている。


 ずっと教職員席に近い場所にいた学生が、隣に座る学生に『あんなに(さっ)を漂わせたんじゃすぐに感知されるさ』とこっそり笑い、『僕ならこうする』と、ニヤニヤしながらアランを見る。そして目を()らす。


「そう言えば、ハッシパブロフの講義で事故があったってね」

と、隣の学生と話しながら『こうする』と言った学生が、何の気なしに伸ばしたように、アランの足元に足を出す。


「おい! 後ろ!」

話しかけられた隣の学生が慌てるが、それより早く、通り過ぎたはずのグリンが伸ばされた足を蹴り飛ばす。


「うっ……」

痛みを堪える学生の横をアランが澄まして通り過ぎる。蹴られた学生にはアランが薄く笑ったように見えた。


「はいはい、みなさん、適宜(てきぎ)、席について」


 ざわついていた学生にレギリンスが声を張り上げる。教職員席に行くには階段が三段、アランが登り切った時、教職員席専用のドアが開いて校長が食堂に入ってきた。


「みなさん! 静粛に!」

再びレギリンスが声を張り上げるが結界が張られ、学生たちの声は(さえぎ)られた。これから話すことをひと()ず学生には聞かせないと、判断した校長が張った結界だ。


「みな揃っているね」

校長ビルセゼルトが用意された席に着く。


 教職員、各寮の寮長、そして主席の二人の顔を見渡して、まずビルセゼルトが口にしたのはアランの名だった。


「アラネルトレーネ、キミは朝食の後、どこにいた? 講義を取っていないのは知っている。キミに与えたレッスン室にいなかったのも判っている。どこで、なにをしていたのかな?」


「喫茶室パロットにおりました。近寄る気配を感知する練習を。気を張り巡らせていました」

「ふむ……喫茶室パロットか。鳴き真似インコに異変はなかったか?」


「インコに異変?」

「その顔は、なかったようだな。有っても気が付いていないか」


「それは……」

アランが口籠(くちごも)る。何もなかったと言えるほどの確証がない。校長が言う通りなのだ。


「各寮長、見かけない鳥を見たという報告はないか?」

アランの戸惑いを無視し、ビルセゼルトが続けた。


赤金(あかがね)寮から白金(しろがね)寮にかけて、何者(なにもの)かが故意(こい)に植栽を枯らした。検分したところ、どうやら魔導術を使ったようだ。当初は学生の悪戯(いたずら)かと思われたが、詳しく調べてみると学内に入り込んだ鳥の仕業、その鳥を使った何者かの仕業と判った」


「鳥ですか……また、特定のし(にく)いものを」

ハッシパブロフが小声で呟く。強力な結界で守られた王家の森魔導士学校だが、鳥類の侵入を(はば)んではいない。鳥類は魔導士の伝達手段でもあり、阻めば都合の悪い事もある。


 魔導士学校の庭には、隣接する王家の森からも野鳥がやってくる。美しい姿や声で学生たちを楽しませている鳥たちを拒む理由もなかった。


「あれだけの広さに作用する魔導術を使っていて、その魔導術の気配を、気を張っていたアラネルトレーネが感知していない。犯人は高位魔導士以上。アラネルトレーネでないとしたら、学生ではないということになる」


 僕ではない、アランは言いたかったが黙っていた。校長はアランを疑っているわけではないはずだ。


「犯人とその目的がはっきりするまで、単独での行動、各寮への寮生以外の立ち入り、無許可で寮より出る事を禁止し、喫茶室の利用を停止する。明日には講義を再開する予定だが、講義棟へは各寮ごとにまとまって移動すること。各寮長は全寮生に的確かつ迅速に伝達するように」


 そう言い終えるとビルセゼルトが立ち上がった。途端に張られていた結界が解除され、食堂に集まった学生たちのざわめきが教職員席にも届く。


「静粛に!」

再びレギリンスが叫ぶ。言われなくとも学生たちは、ビルセゼルトが話し始める合図に片手をあげれば、校長に括目し沈黙した。食堂は静まり返る。


「本日はこれより校内の保護術の強化を行う。よって本日は全面休講。各自、自分の寮に戻り、寮長の指示に従うように」

食堂にビルセゼルトの声が響く。


 喫茶室の利用停止か……おしゃべりりオウム再開はまた先延ばしだ。そんな事を考えていたアランの腕にカトリスが触れる。そっと、アランの手を自分の腕に持っていく。寮まで先導しようというのだろう。講義棟を出てすぐのことだ。


「アラン、まさかおまえじゃないよな?」

「植栽を枯らした? おやおや、親愛なるボタンインコちゃんは僕を疑ってる?」


 アランが苦笑する。ボタンインコと言うのはカトリスの、おしゃべりオウムの会でのニックネームだ。アランが全員にインコの名を勝手につけている。


『我々はまだ何者でもない。すなわち冠がない。だからインコなのだよ』とアランは主張した。いずれ冠のあるオウムを目指そう。だからサロンの名を『おしゃべりオウムの会』とした。


「疑うって言うより確認だ。おまえ、時たま、えらく大胆なことをする。もしおまえだとしたら、何か目的があるはずだ。手助けするぞ」

「……気持ちは嬉しいが、あいにく僕じゃない」


「だったら誰だろう……」

「ビルセゼルトは学外と思っているんじゃないのか?」

横からそう言ってきたのはグリンだ。


「うん、僭越(せんえつ)ながら、僕もグリンと同意見だ」

すかさず同調するアラン、が、アランの同意をグリンが無視する。

「とにかく早く寮に帰ろう。手っ取り早く談話室に飛ぼう」


 すぐ近くにグリンの妹シャーンと赤金寮のデリスが立ち止まって何か話している。アランが気づく前にここを立ち去ろうとグリンは思っていた。


黄金(こがね)寮の談話室に飛ぶよ」

グリンが姿を消し、カトリスも、行くぞ、と後を追う。


 グリンが気を使う前に、とっくにシャーンとデリスの気配を感知していたアランが苦笑してグリンに従い、姿を消した。

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