表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おしゃべりオウムに ようこそ  作者: 寄賀あける


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/33

14 魔女の誘惑

「なんで花火が僕のためになるんだ?」

さっぱり訳が判らない。が、ジュライモニアには彼女なりの理由があるのだろう。


「あなた、なんだか落ち込んでるように見えたから。元気づけてあげようと思ったのよ――友だちと()めていたよね? なんだったら、あの友達、(いじ)めてあげる。わたしね、蝶々になって(のぞ)いてたの」

「元気づけるどころか、余計に落ち込まされたんだけど? 僕の友達に手出ししちゃダメ、大事な友達なんだ。それにしても蝶々? すごい変身術……」


 アランが褒めるとニッコリ嬉しそうな顔をする。なるほど、そうやって笑むと大輪のバラみたいだ……花のような『麗しの姫ぎみ』、美しいと評判だけはあると、()ぎ澄ました神経がアランに教える。


「うん、わたし、変身術が得意なの。ママよりずっと上手よ。ママは滅多にしないから、ひょっとしたら施術法を忘れてるかも。パパは変身術なんか必要ないから()()()けど、おまえの変身術は素晴らしいって褒めてくれる」


 変化術(へんげじゅつ)――何かを別の何かに変える術、例えば本を椅子に変えたり――ができる魔導士は多い。だけど、自分自身を変化させる変身術は術者が少ない。変化したあとの姿のときに施術できず、元の自分に戻れなくなる危険が高いことから、()えて変身術を取得しようと言う魔導士が少ない事もある。


「アランは何かに変身できる?」

「いや、僕は変化術(へんげじゅつ)がせいぜい」

「そうなんだ? できると便利よ」

「へぇ、どんなふうに?」

「蝶々が飛んできても気にする人はあまりいないもの。不見術だと気配が駄々漏(だだも)れになる。ま、結界を張られちゃったら、結界を破らない限り、なにをやっても無意味よね」


「そう言えば、リスになった?」

「あぁ、あれはリスの目を借りたの。で、アランを見てきてって、お願いしたの」

「そっか、動物の使役も得意なんだね」

ジュライモニアが得意そうな顔をする。この魔女、力も強いし器用だけど、性格が丸きり子どもなんだ……アランが心の中で笑う。


「それで、僕になんの用?」

「えっ? ええ、そりゃあ、あなた」

「そりゃあ?」

揶揄(からか)うか、〝いなす〟か? 少し迷って『いなす』を選択したアラン、でも僕の性格じゃあ、揶揄っちゃいそうだけど……


「言わなくっても判るでしょ?」

「言わなきゃ判らないよ? それとも覗心術を使ってもいいの?」

「まっ! そんな無礼は許せないわ」

「まだ、使ってませんよ?」

「うん……ねぇ、アラン?」

「なんだい? ジュライモニア」

「ジュリって呼んで」

「うん? では、なんでしょう、ジュリ」


「あなた、決まった人はいるの? 特に仲がよさそうな女の子は見てないけど」

校長の言う通り、目的は恋人探しみたいだな、再びアランが心の中で笑う。


「婚約者ならいないよ」

「え……婚約はしていないけど、いるって言うこと?」

「片思いならいるかな」

「まぁ!」

大げさにジュライモニアが驚く。本人は大げさなつもりはないのかな? とアランが思う。


「まだ十六歳でしょう?」

「もうすぐ十七になる」

「それで高位魔導士で、しかもこんなに綺麗な顔してて、なんで片思い?」


「おや、見た目や才能に恋するわけじゃないと思うけど?」

「そんなの詭弁(きべん)よ。魔導士なら一に才能、二に見た目」

「そうですか……」

笑いだしたいのを必死に抑えるアランだ。


「で、三や四はあるの?」

揶揄っちゃダメだと思いつつ、つい訊いてしまった。

「三……見合う年齢? オジさんなら北の魔女の城にもいるけど、ちょっとね」

「四は?」

「四はわたしを大事にしてくれる事、五は優しい事」

「それだと、見た目が良くて才能があれば、年取っててもいいし、大事にしてくれなくてもいいし、優しくなくてもいいってこと?」


「アラン、あなた思ったよりも馬鹿? 全部そろってなきゃダメよ」

「あぁ、なるほど……」

笑いたい、でも、ここで笑っちゃいけない。


「アラン、あなた、笑うの必死で(こら)えてない? ほっぺたが引きつってるわよ?」

「いやいやいや……」


 と、なにを思ったのかジュライモニアが近づく気配がある。慌てて立ちあがったアラン、距離を取ろうとして、積み上げた本に蹴躓(けつまず)き、本の山を倒した。アランがチッと舌打ちすると、本が別の場所に積み上げ直される。


「あら、無詠唱なのね」

「自分の部屋の中くらい、考えただけで動かせる――日常的な施術は大抵無詠唱。キミもだろう?」

「まぁね。それよりなんで、遠ざかるのよ?」

「キミはなんで近づくのさ?」


 ジュライモニアがアランを(にら)み付ける。

「判らない?」

「だから、覗心術でも使わなきゃ、他人の気持ちなんか判らないよ」


「ふーーーん、アラン、あなた、割と(うそ)()きね」

()()、なのか? どうもジュライモニアの言う事は、アランの笑いを誘うようだ。


「魔女・魔導士は嘘を吐けない。常識だと思ったけど?」

「そうね。だけどアラン、あなたさっきから、否定してないわよ? 肯定もしてないけど。言葉の置き換えばかり」


 へぇ、間抜けかと思ったらそうでもない。アランがジュライモニアを少し見直す。


「うーーん、でも、正直判らないな。キミが僕に興味を持っているのはなんとなく判るけど」

「そこまで判ってるなら、答えはすぐそこ」

「え、答えですか? キミは僕と付き合いたい、とか?」

それはごめんだ、いろいろ面倒くさすぎる。


「違うっ!」

「違いましたか、それは失礼。だったらなんだろう?」

「もうっ!」

ジュライモニアは焦れているようだ。


「女の子から誘わせるつもり? あなた男でしょ?」

つまり、僕から誘えって言いたいのか。僕が誘うと思っているのか。コイツ、やっぱ、どこか抜けてる。てーか、笑いたい。でも、うん、ここは我慢だ。


「あー、まー、男だね、一応。我が校で、一番頼りにならない男だ」

「なにそれ?」

アランの発言はジュライモニアを面白がらせたようだ。いつもの調子で言い過ぎた、とアランが後悔する。


「えっと、なんだ。僕はいざというとき頼りにならないって、そう言う事」

「なんで?」

「なんで、って……」

チッ、言葉に詰まっちゃった。案外手ごわい。正攻法で行くか。


「どっちにしろ、僕にその気はない」

「嘘吐かないで」

「嘘は言えないって確認したばかり。そして今、僕は言葉を置き換えていない」


 (くや)しそうな顔でジュライモニアがアランを見詰める。そして……

「なんでみんな、わたしを虐めるのよっ!」

ジュライモニアが大声で怒鳴り、大音量で泣き出した。


 慌てて結界を張るアラン、ひょっとしたら少しは部屋の外に音が漏れたかと、ついでに軽く防聴術を掛ける。どうか、今の叫びを耳にした誰か、派手な寝言と思ってくれ。それにしても、声に拡大術を使っていないか? 耳鳴りがしそうだ。だけど、耳を塞いだら拍車を掛けそうな気がする。


 アランの困惑もお構いなしに、ジュライモニアは手放しで泣き続ける。だからって、ここで(なだ)めたりしたら、きっとまた無理難題を言い出すと、アランは何もできずにいる。


 それでも、つい、山積みの本を宙に消して片付け、椅子を二脚と、その椅子の間にテーブルを出してしまった。


「まぁ、お座りよ。お茶でも()れようか?」

アランがそう言うより早く、椅子を見た途端、座ったジュライモニアはテーブルに突っ伏して泣き続ける。アランも椅子に腰かけて、困り顔のまま腕を組む。


(いったいいつまで泣いてるんだろう? 羨ましい体力だ。僕はそろそろ限界なのに)


 ジュライモニアの様子を(うかが)いながら、アランが心の中で頭を抱える。朔月(しんげつ)を控え、アランの体力は月影となる以前にほぼ近い。


 疲労の感じ方を考えるとそろそろ限界、下手をすれば明日、寝込むかもしれない。


(そうか、朝のシャボン、それに続く花火騒動と、そのあとの反省文、そして校長の説教。ここに来て、訳の判らないお嬢さんのお相手――今日は疲れる事てんこ盛りだった。一日中、緊張していた気がする)


 月影となった今も、月の満ち欠けに影響されて僕は頼りにならないままだ――小さくアランが溜息(ためいき)()いた。


 さて、この高慢(こうまん)ちきで自分勝手なお嬢さんをどうやって追い出すかな、アランが真剣に考え始める。


 出て行けと言っても出て行かないだろう。かと言って捕らえて校長に引き渡すのも気が引ける。もう悪戯(いたずら)をしないと約束させるだけでいい。


 この我儘(わがまま)な魔女は自分が僕たちにどれほど迷惑をかけたかなんて、きっと自覚がないはずだ。このまま帰せば必ずまた、何か()()()()――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ