表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おしゃべりオウムに ようこそ  作者: 寄賀あける


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/33

12 チョコレートは冷めないうちに

 アランの(すい)に答える声はない。

「デーツの木に(もた)れてこちらを見ているね。この学校の学生ではなさそうだ」

アランの指摘に、相手は少したじろいだ。そして小さな声が聞こえた。

「不見術が効いているはずなのに……」


「なんだ、姿を消しているんだ? あいにく僕は目が見えない。気配を検知したんだよ」

ひとりごとに返事をされて、相手は怒りを感じたようだ。

「ふーーん、目が見えないのに高位魔導士? ヘンなの」

「目が見えなくても、魔導士にはあまり関係ないかもしれないね。ま、星見は無理そうだけど。星は遠すぎて、検知術とか遠見術とか適応外」


 デーツの下の人物はじろじろアランを見ているようだ。

「その髪の色は? 薄いエメラルドグリーン? 珍しいわね。しかもぼんやり光ってる……」

「キミの髪は栗色だね。そして瞳は赤鳶色。年のころは、僕と同じか少し下って感じだ――どうだい、違っているかい?」

「見えてるの?」

デーツの木の下の誰かが息を飲む。

「見えてないって嘘ね?」

更に怒りの波動をアランが感じる。


 と、アランがにわかに緊張する。それはデーツの下の人物も同じだった。


「校長……」

校長ビルセゼルトがいきなりアランの横に姿を現した。

「今いたのは?」

デーツの下の気配は消えている。新たな人物の登場を察知して、さっさと逃げたらしい。


「さぁ?……名を聞きそびれました。でも、女性かと」

「そろそろキミがパロットに来たかと思って(のぞ)いてみたら、見慣れない魔女がキミの近くにいた。慌てて来てみたが、逃げ足が随分と早い魔女だったようだ」

ビルセゼルトが苦笑する。


「危険な感じはありませんでした。栗色の髪に赤鳶色の瞳……美しい容姿をしていました――捕らえた方がよかったですか?」

「麗しの姫ぎみと髪と瞳の色が一致している。下手に捕らえるもの問題が起きそうだ」

「難しい相手に見込まれたものです」

アランの言い草に、ビルセゼルトが再び苦笑いする。


「情報を集めてみたんだが、ジュライモニアは北の魔女の城の魔導士たちに(ことごと)くフラれたらしいよ」

「へぇ……あんな美人なのに? よっぽど性格に問題があるのでしょうね」

「救いの手を差し伸べてみるかい?」

「校長もご冗談がお好きな」


 アランがビルセゼルトを無視してパロットに向かって歩き出す。そんなアランをビルセゼルトは面白そうな顔で見ていたが、アランを追わずデーツの木の下に移動した。


 そんなビルセゼルトに気が付いていたが、アランは気にせず喫茶室パロットを目指し、到着するとその扉を開けた。すると中には既にビルセゼルトの姿があった。移動術を使って先回りしたのだろう。


 インコたちが『アラン』『アラン』と騒ぎ立て、アランの肩に留まっては挨拶して元の場所に戻っていく。

「随分と人気者だね」

ビルセゼルトが微笑んで見ていると、『アイシテルヨ』と、一羽のインコがアランの肩で囁いて、アランの頬が赤く染まる。


 ここのインコたちは世話係のアランの言葉しか覚えない。アランが教えたか、アランがいつも口にしている言葉だという事がすぐ判る。


 アランの羞恥に気が付かないふりをしてビルセゼルトが腰掛け、

「チョコレートでもいかがかな? いやと言われても予約をしてしまったのだが」

と、アランに聞いた。『いただきます』と、アランも校長の対面に腰かける。


「それで、反省文はできたかね?」

「はい、ここに」


 アランがひょいっと(てのひら)を返し、宙から数葉のレポート紙を取り出してテーブルに置く。それを手にして、目を通しながらビルセゼルトが問う。

「相変わらず美しい文字だ。どうやって書いた?」

「自動筆記ペンで」

「これはアランの筆跡に見えるが?」

「ペンに僕の筆跡を覚えさせています」

「なるほど……ペンに魔導術を上乗せか。考えたね」

ビルセゼルトが満足そうに笑んだ。


 読み終わるとレポート紙を整えて、テーブルに置き、

「ところで、アラン。キミは自分の短所を理解しているかね?」

と聞いてきた。


「体力は地上の月のお陰で充分な改善が見込まれました。父ほど短気ではありませんが、熟考は苦手です。答えを急ぎすぎるきらいがあるかと、自分では思えます」

「そうだね、今も即答している。多くの学生が同じ質問に少しばかり考えてから返答をするものだ。だが、それは短所なのかな? キミの利発さゆえの事だとわたしには思える。ほかに短所は?」


「……頑固なことでしょうか。一度言い出したら、なかなか意思を変えません。それと自信家に見せかけて、実は気が小さい。落ち着いているふりをして内心、いつもビクビクしている。それに、なかなかコンプレックスを克服できません。背が低い事、身体が細い事、それに髪の色。どうにもならないことなのに、畏れを抱いています」

「畏れ? なぜそれらを怖がる? 体格や髪の色は個人差のある物だし、なぜ怖がるのだろう?」

「校長、他者と大きく違う事を怖がるのが判りませんか? 他者と比較しても意味がないと、理屈では理解していても、感情は理解してくれません」

「ふむ……そうだね、コンプレックスとはそんなものかも知れないね」


 ここで奥からチョコレートが湯気を立ててフラフラと近づいてくる。

「代金はあとで校長室に」

(つぶや)いてビルセゼルトがゴブレットを二つ、受け取った。


「営業時間外だと、喫茶室は有料になるらしい。この学校に学生時代も含めて三十年近くいるけれど、今回、やっと知ったよ」

ビルセゼルトが笑った。


「代金を支払えば、時間外でも利用できるのですか?」

アランの質問に、

「事前予約が必要だそうだ」

ゴブレットを一つ、アランの前に置きながらビルセゼルトが答える。


「使いたいのかね? 飲み物の提供だけだと言っていたな」

「場所を利用するだけ、と言うのはいかがですか?」

「アランはインコたちの世話をしているのだから、どうにでもなりそうだが?」

ニヤリとビルセゼルトが笑った。管理者の許可を取らずに、キミなら入店できると知っているよ、と言われたんだとアランは思った。


「アラン、キミの最大の短所は『先を読み過ぎる』事だとわたしは感じている」

「先を読み過ぎる?」

「うん。この反省文は何を考えて書いたのかね?」

「え……それは――」

「反省文がギルドに提出されることを見据えて、学校の立場、校長及び教職員の立場、そんなものを守りつつ、自分にも非がない事を暗に示唆している――これでは反省文とは言えないね、アラン」


「では、校長はどんな反省文を僕にお望みでしたか?」

「キミの部屋で珈琲(コーヒー)をいただいた時、キミは素直に反省していた。あのままで良かったとわたしは思うが?」

「僕は自分の保身を考えたわけではありません。僕が非難されれば、学校や先生がたのお立場も苦しいものになるかと思ったんです」

「アラン、それはキミが考える事ではないのだよ」

「あ……」


「先に先にと考えが回る。それは悪い事ではない、むしろ長所だ。だが、目の前をすっ飛ばしては短所に変わってしまう。アラン、今、キミは自分の保身を考えたわけではないと言った。なぜ我が身を考えない? それこそ一番に考える事ではないかな? 自分を守りつつ、周囲を守る。順番が違うのだよ、アラン」


 テーブルに置いた反省文に手を(かざ)して宙に消すとビルセゼルトは

「まぁ、これはこれで受け取っておこう。キミが言いたいことはよく書けている。充分反省してると多くの者が受け止めるだろう」

と、立ち上がった。


「将来をあれこれ考えるのもいい。だが、目の前にある大切なものを見落としてはいけないよ。目の前のものこそが将来に続いているのだと忘れないように――冷めないうちにチョコレートを楽しんでくれたまえ。では、わたしは失礼する」

ビルセゼルトの姿が消えた。


 アランの肩に留まったままでいたマメルリハが『アイシテルヨ』とアランの耳元で(ささや)くのが聞こえたが、アランは答えようとはしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ