表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

第7話 アンカールドってこんな所だったのか

第7話になります。

今回は少し説明チックな内容ですが、アンカールドという世界についてクロが説明してくれます。

お楽しみに。

 スタードに戻ると、クロ達はギルドについてクエストの報告をした。どうやら討伐依頼を受けていたらしい。

 そして、ギルドと商会でそれぞれドロップ品を売った。レアドロップが出たからか合計15万イェンほどで売れたらしい(1イェンは日本の1円と大体いっしょな)

 「すごいぞラック。いつもの売り上げの2倍だ。どうだ、このままウチで荷物持ち続けないか?」

 クロは嬉しそうに冗談を言う。少なくともドロップ率は明らかに俺の運が影響しているようだ。

 「クロ、俺の思いは分かってるだろ。でも、俺も役に立てて嬉しいわ。」

 そして、俺は1万イェンもらった。いいのこんなもらって?

 「それはお前の働き分だ。ミッキーには紹介料を別に払うから、全部お前のものだ。さあ、飲むぞ!」

 そして、俺は酒場に入ってクロ達と同席した。

 この世界では飲酒は15歳かららしい。17歳の俺は当然大丈夫、だよね。

 「カンパーイ!」

 ビールみたいな飲み物、「シュワー」を片手に食事と会話を楽しむのは、日本と一緒だった。

 テーブルにはこれでもかと濃厚そうな肉料理が並んでいる。家畜の肉も魔物の肉も分け隔てなく食べるようだ。野菜はあんまないけど、俺は肉のほうが嬉しいわ。

 「ここの食事は安くておいしいから、冒険者が毎日のように利用するのよ」

 ミドリはうまそうにシュワーを飲みながら言う。そういやここって、俺が初日に追い出されたとこだよな。

 「冒険者はみんな酒が好きだからな。冒険が終わったあとはここで一杯やるのさ。」

 俺は気になってることを聞くことにした。

 「なあ、4人で冒険して1日15万イェンって、1人当たり約4万だろ。ってことは1ヶ月で120万稼げるのか。冒険者って儲かるんだな」

 俺がそう言うとクロ達は「やれやれ」といった感じで首を振った。世間知らずだな、と思われているみたいだ。

 「いいかラック、まず俺たちは命がけで働いて生きている。それだけリスクを背負ってるんだ。そもそも、冒険は1週間で3、4日しかできない。体を休めないといけないし、1日は武器と防具のメンテナンスで潰れるからな。メンテナンスの費用も馬鹿にならない。しかも、新しい武器や防具のために金を貯めとかないといけないしな。今回はお前のおかげでドロップがよかっただけで、普段は結構カツカツなんだよ」

 そうなんだ。やっぱ本当の異世界って厳しいんだな。

 「まあ、4人で分けて毎日ここで飲み食いできる程度には稼いでいるわよ。だけど、単純においしい商売って訳でもないの。出てくる魔物が日によって違うし、効率のいいクエストがなかったり取られたりしている日もあるしね。人気の狩り場は競争率が高いし。そもそもレベルによって効率が違うから。わたしたちはまだ稼げる方だけど、新人は大変なはずよ」

 ミドリのわかりやすい説明を聞きながらふむふむと感心してシュワーを飲む。

 アカとキイロはあまり話をしないが、とてもうまそうに酒を飲んでいる。メシもうまいなここ。

 だいたい食事を食べ終えたところで、俺はクロにこの世界のことを聞いた。

 「なあクロ。俺たちが今いるのはスタードって町だけど、この世界には他にも町があるんだよな。俺この世界について何にも知らないからさ、教えてくれないか」

 クロはうんと頷いた。

 「ああ、いいだろう。この世界はアンカールドっていう一つの大きな大陸だ。だいたい円の形をしているな。そして、アンカールドには人類領と魔王領がある。これは知ってるよな?」

 「ああ、それは女神エレクトラから何となく聞いたよ」

 あー思い出すだけでも腹立つなあのクソ女神。

 「で、人類領に6都市、魔王領に4都市あるんだ。そして、それぞれの都市には専属の女神様がいるんだよ。ま、俺はあんま魔王領は行ったことないけどな」

 「え?魔王領って行けるのかよ」

 俺が驚いていると、横からミドリが優しく教えてくれる。

 「そうよ。数ヶ月前に人類軍対魔王軍の戦いが始まる前は、人類と魔族は休戦協定を長く結んでいて、その間はお互いの土地を行き来していたの。このスタードにも少ないけど魔族がいたわ。話したけど全然悪い人たちじゃなかった」

 へえ~魔族って案外身近にいたんだ。どんな奴らなんだろう。

 「話を続けるぞ。人類領は、主にアンカールド大陸の西半分に位置している。まず、王都エイガー。人類領アンカールド王国の首都だ。アンカールド大陸のちょうど中心にあるアンカールドで一番大きな都市だな。主に王族や貴族、軍人、大商人なんかが住んでいて、アンカールド中の富が集まるとてもに豊かな場所だ。女神様は繁栄の女神オリヴィア様。美魔女で若い男に目がないらしい」

 美魔女女神? なんだよそれ。でも、面白そうな場所だな。

 「まじか。王都行ってみたいな」

 俺がそう言うと、ミドリが静かに首を横に振った。

 「それがね、今は入れないのよ」

 「え、なんでだ?」

 「人類軍と魔王軍の戦いが始まってから、王は王都に入る人間のチェックを異常に厳しくしていて、基本的に許可がないと出入りが出来ないの。今は私たち一般人はまず入れないはずよ」

 「そうなんだ……。残念だな」

 そういうと、クロが俺の肩をポンとたたく。

 「まあ、そう言うな。他にも面白い都市があるぞ。まず、スタードの東南、エイガーから見て南には農水都市ユタカーがある。ここは平原が広がっていて川も多く、農村地帯が広がっているんだ。ユタカーの農産物がアンカールドの食料の7割を担っているらしいからな。あとは、海の幸もアンカールド一豊かなんだ。スタードじゃ魚と言えば干し魚が普通だけど、ユタカーじゃ魚を生で食べてるって話だ。女神様は豊穣の女神ステラ様。癒やし系でユタカーの人々に大人気らしい」

 魚を生で食べてるって、それ日本で言う刺身じゃねえか? こっちに来て新鮮な魚ほとんど食ってないから食べたいわー。こっち(スタード)は川魚ばかりで、干したり燻製にしたりが基本だからな。

 「へえ。面白いなアンカールドって。まだまだ教えてくれよ」

 クロはシュワーをぐいっとあおって続けた。

 「おう。次はスタードの北東、アンカールド大陸の最西に位置する商業都市ヴェネッツだ。ヴェネッツは川に囲まれていて、資源には乏しいんだがその分川を生かした交易で栄えている都市だ。有力商人が多く住んでいて、王都エイガーに匹敵する資金力を持っていると言われているな。アンカールドの商品は全てヴェネッツで買えると言われてるくらいだ。女神様は繁盛の女神マーネ様。チャキッチャキのヴェネッツ弁を話す親しみやすい女神様だ」

 ヴェネッツって、何か地球のベネツィアとか大阪に似てるような……。てか、チャッキチャキのヴェネッツ弁て何だよ。関西弁みたいなのか?

 「エイガーとヴェネッツの民はそれぞれいがみ合ってるからな。俺たちがアンカールド第二の都市だって」

 「あー、それ何か俺の故郷でも聞いたことあるわ」

 神奈川と大阪とかな。ま、東京民としてはどうでもいいんだけど。

 「次は対魔城塞都市ゴリアテ。ここは都市っていうより巨大な砦だな。人類領と魔王領は接してはいるが、基本的に高い山脈に阻まれて自由な行き来がしづらいんだ。ゴリアテは唯一魔王領に簡単に入れる場所だったんだが、今は戦争してるからなぁ。女神様も戦争好きの勝利の女神ヴィクトリア様だがら、仕方ないんだろうけどな」

 クロの開いたコップにミドリがシュワーを注ぐ。息がぴったりだな。

 「そのゴリアテと争いあってるのが、アンカールド大陸南西部にある魔王領の最前線都市ガードンだ。ここはゴリアテと接していて、魔族としては対人類の最前線という扱いらしい。人類と魔族間の戦争はほとんどここで起きているんだ」

 俺も、他のメンバーもクロの話に耳を傾けてる。これは面白いわ。

 「だがな、なぜか魔族はそこから攻めることをしない。基本的に守ってばかりらしい。魔族にも何か理由があるんだろうけどな」

 「へえ~そうなのか。魔族っててっきり好戦的だと思ってたけど」

 「まあな。俺たちは直接魔族と戦ったことがないからなんとも言えんけどな。女神は堅牢の女神ゴーラ様だ。会ったことはないが、守りにとにかく強いらしい。魔族が守ってばかりいるのもそれが関係しているのかもな」

 ん、今とんでもないこと聞いた気がしたんだけど。

 「え、女神様って会えるの?」

 それを聞いたクロはニヤリと笑った。

 「知らないのかラック。女神様はそれぞれの都市を守っていらっしゃるが、時々下界に降りてきては住民と交流するんだ。何せ、女神様はもともと人間や魔族だからな」

 俺は心底びっくりした。人間や魔族が女神になれるって?嘘だろそんなの。どんなゲームでも聞いたことないぞ。

 「マジかよそれ」

 「ああ、本当だ。女神様は俺たちと酒を酌み交わし、ともに歌うんだ。それにな、」

 クロがゲフッと息を吐き出した。なんだなんだ?

 「女神様の結婚相手はその都市に住む人間や魔族なんだ。結婚されると女神様は下界に降りて次の女神様と交代されるんだ。すごいだろ」

 俺は思わず目を見開いた。 

 「はあ? じゃあ、女神様をナンパしたりできるってことか! とんでもない世界だな」

 「おいおい、夢があるって言ってくれよ。それに、ここだけの話だけど、ミドリはもともと、スタードの女神様候補だったんだぜ」

 「ブーッ!」

 俺は飲んでいたシュワーを全部吐き出した。

 「はあ? へえぇ? クロお前どういうことだよ。」

 聞いた瞬間、俺は素っ頓狂な奇声をあげてしまった。酒場にいる全員がこっちを向いている。

 「落ち着けラック。これはあんまり人には言ってないんだから」

 「これ聞いて落ち着けるかよ」

 「まあ、いろいろあってな。大恋愛の末に結婚したんだよ」

 ミドリは恥ずかしそうに笑ってる。

 つまりこれって、女神になろうとしてたミドリをクロが……てことだよな。

 いろいろと邪推している俺の顔を見て、ミドリが説明してくれた。

 「もう昔の話だけどね。女神様になるためにはそれぞれの都市の修道院で一定期間の修行が必要なの。幼い頃から修行するのよ。それに、女神様になるためには何よりも素質が大事だから。私には素質がなかったから。だから諦めて付き合っていたクロと結婚して冒険者になったの。まあね、昔の話よ」

 マジかよ……。でも、ロマンがある話だな。

 「今の辺境都市スタードの女神様は、辺境の女神ルーナ様だ。控えめでおとなしく、それでいて常に俺たち冒険者を見守ってくださっている。みんなからは冒険者の女神って呼ばれてるんだ。冒険者に大人気なんだぜ。今日は酒場には来られてないけどな」

 「へえ~会ってみたいもんだなルーナ様に」

 てか女神って酒場に来るんだな。そういやなんかのラノベでも酒場で思いっきり飲む女神がいたような……。あのエレクトラとは大違いだわ。

 「そういや、エレクトラってどこの女神なんだ?ムカつくから聞いてなかったけど」

 「ああ、神聖のエレクトラ様は宗教都市バカチンの女神様だ。女神様の中でも最も美しく、全アンカールド民から崇められているんだ。バカチンは王都の北西に位置していて、このアンカールド王国の国教でもあるカリウス教の総本山だ。カリウス教の頂点に君臨されている教皇様を中心に、宗教指導者やその関係者が住んでいる場所だ。今の教皇様はかなりお若いらしい。相当有能らしくて、王様に助言なんかもしてるって聞くな。まあ、バカチンに行ったことはないがな」

 バカチンって、どっかの熱血教師かよ。地球で言うバチカンみたいなもんか。ダジャレじゃねーかおい。てか、エレクトラが崇められてる? ふざけんなよ。あいつの裏の顔何も知らねえからだろ。

 俺は気を取り直しクロに向かう。

 「なんでバカチンってとこに行かないんだ? 信じてるんだろ?」

 クロは苦笑いした。

 「俺たち冒険者も一応はカリウス教徒だが、信心は薄いからな。カリウス教よりルーナ様を信じているんだ。そもそもカリウス教そのものは俺たちには縁追いものなんだよ。『他人に施しを』なんて言われても、俺らは日々の生活で精一杯だからな」

 それを聞いているミドリは苦笑している。ミドリは元女神様候補だから、敬虔なカリウス教徒のはずだ。ん、何、カリウス教って、地球で言うアーメンな宗教?この世界地球をモデルにでもしてるのか?

 これで、人類領の6都市の話は聞いたな。でも、魔族領にも興味あるぞ。

 「なあ、残りの魔族領3都市も教えてくれよ」

 「いいぞ。まず、魔族の総本山、魔王の住む魔都ハイルランド。アンカールド大陸の最も北方にあり、かなり寒い場所だ。そもそもが標高1000メートルの所にあるからな」

 地球で言えばロシアあたりの所か。

 「え、それめっちゃ寒いんじゃないの? 魔族大丈夫なのかよ」

 「それが大丈夫なんだよ。魔族は人間よりも遙かに科学技術や魔力運用が進んでいて、夜もずっと明かりがついているし、外も寒くないらしい」

 何、魔族ってそんなすごいの? 人類勝てるわけないじゃん。

 「それはすげぇな。行ってみたいわ」

 「まあ、魔族のいわば根城だからな、今は行くのは難しいだろう。それに、魔王は凶暴でものすごく強いらしいからな。どんな魔物や魔族も魔王を恐れて服従しているんだ。女神様はたしか、評決の女神ソフィア様。エレクトラ様に負けず劣らず美しいって評判で、魔族に大人気らしい」

 「へぇー。やっぱ魔族が住んでるところ興味あるな。そのうち行けるといいけどな」

 「まあ、しばらくは無理だろうな。残るは、魔王領の2都市だな。魔法都市ボムボムと工業都市ケイヒンだ。この二つの都市はそれぞれ魔法技術と工業技術について研究していて、その研究者達が多く住んでいるらしい。アンカールド王国もこの2都市の技術の恩恵を受けていて、代わりにヴェネッツの商品やユタカーの農産物を渡してるんだ。魔族領は資源に乏しくて、人類に技術を売って生活しているんだよ」

 ん?魔王領ってもしかして、日本みたいなとこ? 日本も海外に技術を売ってもうけてるもんな。てかケイヒンって、何か聞いたことあるような気がするな。 

 「俺の故郷も魔王領と似たような感じなんだ。技術で製品を作って輸出、みたいな」

 「そうそう、そんな感じだな。だから、人類領と魔王領はお互い補い合っていたんだが、こうなるとはな。今も商品は行き来してるらしいが、前よりは少なくなっていて、王都ですら暖房に困っているんだ」

 うーん、メリットなさそうなのに、何で王家は戦争なんかしたんだろ。

 「その、ボムボムとケイヒンってのにも、女神様がいるんだろ?」

 「ああ、ボムボムは探求の女神シャーロット様。とにかく魔法に強いらしい。ケイヒンは技術の女神スカーレット様。とにかく技術に強いらしい。この二都市と女神様は常に争い合っていて、『自分たちが魔王領第二の都市だ』とか、『自分たちが魔王領を支えてるんだ』とか言ってるらしい。どこも一緒だな」

 ほんと、どこでも同じようなことやってんな。

 「いや、アンカールドってマジで面白いな。こっちに来てほんと良かったわ。レベル上がったら色んなとこ回ってみようかな。魔王領とかめっちゃ気になるわ。教えてくれてありがとうなクロ」

 クロはふっと笑った。

 「なに、こっちは異世界人に説明し慣れてるんだ。気にするな」

 こんな話をしながら、俺たちは思いっきり飲み食いした。てか俺全然酔わないんだけど。もしかして、酒に強いのか俺?

今回も読んでいただき、ありがとうございます。

感想、ご意見、ご指摘など喜んでお待ちしております。

次の第8話「スタードの冒険者っておもしれー奴ばっかだな」は、明日昼12時にアップ予定です。

よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ