第6話 これが異世界のリアルってやつか
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「女神ガチャに外れた俺が、運だけで異世界を成り上がる」第6話です。
今回はクロ達との冒険を通して、異世界の冒険者を待ち受けるリアルさや、冒険者の厳しさについて書いています。
この作品の根幹、ラックが最初から無双できない理由に関わる部分ですので、よろしければお読みください。
クロ達とギルドで会った後、俺はクロのパーティーに荷物持ちとして参加した。
行き先はスタードから徒歩で3時間の距離にある「地竜の洞窟」だ。何でも、スタードの周辺では1、2を争うほどの高難易度らしい。たしか推奨レベル30って言ってたよな。レベル1の俺なんて完全にお荷物じゃん。ま、荷物運びだからあってんだけどね。
クロのパーティーはこの世界では標準的だという、騎士(盾役)、戦士、魔法使い、僧侶の4人パーティーだった。
騎士がクロ、戦士がアカ、魔法使いがミドリ、僧侶がキイロの男女2人ずつのパーティーだ。聞いたところ、クロとミドリ、アカとキイロはそれぞれ結婚していているそうだ。
てかリア充パーティーかよ。俺本当の意味でお荷物じゃねーか。
俺たちはお目当ての洞窟まで歩いた。3時間の道のりはほんと長いな。こっちは中世くらいの文明だから、車なんてあるはずもなく、道路もほとんど整備されていない。馬車はあるそうだが、スタードでは見たことがなかった。
歩いていると、見たことがない動物? がたくさんいた。
「あの、透明なのってもしかして」
「ああ、スライムだ。野生のな。魔物だけどほとんど害がないから放っとかれてるんだ。スライムの糸そうめんはうまいぞ」
なんだその、イカソーメンみたいなのは。うまそうじゃん。
それ以外にも、ウサギのような魔物や、リスのような魔物など、出るたびにクロは教えてくれた。 「魔物って言っても、全部が人間の敵じゃないぞ。まず、魔物の肉はうまい。ここへんじゃよくとれるから、俺らもよく食べてるよ。あとな、バッファーやブーみたいな魔物は、農水都市ユタカーあたりじゃ家畜化して交配しながら育てて売ってるらしい。すごいだろ」
「へえ~魔物を家畜化か~。すげえな。」
バッファーやブーって、もしかして日本で言う牛や豚のことか? じゃあもしかして、こっちで霜降り肉とかも食えるのか?
魔物って言うと凶暴なやつらばかりイメージしてたけど、今日見たのはどう見ても動物と一緒だった。そういう意味では地球と変わんないな。
歩きがてら、クロが俺に話しかける。
「いいかラック。俺たちのパーティを見てこの世界の戦い方を覚えるんだ。そのうちお前も自分のパーティーを持つが日が来るだろうからな」
とりあえず俺はこの世界のことを知らなさすぎる。素直にクロの意見に従った。
「分かったクロ。勉強させてもらうわ」
「大丈夫よ。私たちと一緒にいれば、この世界でどう生きていけばいいか分かるから。私たちも最初は生きていくのに必死だったのよ」
そう言ったのはクロの奥さんのミドリだった。緑色の髪の毛で緑色の目の色をしている。とても穏やかな表情で、慈愛に満ちた視線を俺に送ってくれている。間違いなくいい人だ。
もう二人、アカとキイロ夫妻は無口らしく、黙々と歩いていた。でも、仲はとてもいいらしい。
「クロ達って子供いるのか?」
俺は思わず気になっていることを聞いた。だってクロ達は見る感じ30~40代の見た目だしな。
「ああ、いるぞ。うちには一人坊主がいる。今はミドリの実家に預けてるんだ。アカとキイロは二人子供がいる。かわいい女の子だぞ」
クロがそう言うと、アカとキイロは嬉しそうに笑った。
「そうか、みんな子持ちなんだな。なんかうらやましいわ」
「子供達の将来のためにも、私たちがしっかり稼がないとね」
ミドリはお母さんらしいことを言う。確かに、俺も父さんと母さんが働いて俺を育ててくれたから特に不自由なく生活して来れたからな。というか、元の世界はどうなってんだろ。父さん母さん心配してるかな?
話しているうちに、地竜の洞窟についた。洞窟の上の岩が竜のような形をしている。
「ここは地竜の洞窟っていう通り、ドラゴンが出るから気をつけろよ。気を抜いたら死ぬからな。じゃあいくぞ」
え、ドラゴンが出るの? この世界ってやっぱドラゴンいるんだ。てか気を抜いたら死ぬって怖ええな。このパーティーが死んだら俺も死んだも同然じゃん。
洞窟に入ると、クロ達はすぐに地下2階に降りた。行き慣れているらしく、全く迷わなかった。
「よし、誰もいないな。じゃあ始めるぞ。気を抜くなよ」
2階の奥にある広い空間についたとき、クロはそう言った。ここがクロ達の狩り場なのか。
しばらくすると、奥から魔物が2匹現れた。蛇の形をした、一つ目でグロテスクな魔物だ。めっちゃでかいな。あれに絞められたら俺なんか即死だろ。
「よし、グレートボアが出たぞ。皆体勢を整えろ!」
どうやらお目当ての魔物だったらしい。クロがそう言うと、4人はフォーメーションに着く。まずは大盾持ちのクロが一番前に出る。盾役は高いレベルと勇気が必要とされるため、パーティーで一番重要だという。
「挑発!」
クロがスキルを放つ。すると、グレートボア達は一斉にクロに襲いかかった。すかさずクロは大盾を構え防御する。
その様子を見たアカは後ろにまわり、大剣を振り回してグレートボアに攻撃する。後ろから攻撃するとダメージにボーナスが入るようだ。
その間、ミドリとキイロは呪文を詠唱している。しばらくするとミドリが「フルファイア!」と叫び、クロの前に集まった敵の頭に猛烈な炎が降りてきた。キイロは支援と回復をあわせた「フルキュア」をクロにかける。
グレートボアは攻撃や魔法を受けながらも、巨体をくねらせながら何度もクロ目がけて攻撃を繰り返した。一撃一撃が重く、まともにくらったら大ダメージ間違いなしだろう。体力もかなり高そうだ。
10分ほど戦闘を行った結果、クロのパーティーは見事グレートボアの群れを倒した。クロ達はほとんどダメージを受けていない。
クロのパーティーは本当に強かった。すげえな。スタードで1,2を争うっていうのも頷けるわ。
それにしても、この世界の戦闘って結構時間かかるのね。RPGみたいに速攻で決着がつくのかと思ってたわ。やっぱリアルなんだな、この世界。
「いいかラック。今のがこの世界の冒険者の基本的な戦い方だ。まず、盾役が敵を引きつける。そして、攻撃役が敵の体力を減らし、後から来た魔法で一気に殲滅する。覚えておけよ」
「分かった。ありがとう」
クロの言うことはとても理にかなっていた。
その後もクロは、仲間と協力して魔物を次々と倒していった。全く隙がない。見事なもんだ。
ここ、地竜の洞窟は聞くところによると、スタードの中では特にランクが高く、敵のレベルも高いらしい。
もっと奥には経験値が高く超レア素材がとれるという、ドラゴンやハイガーゴイルなど出てくるとクロは言っていた。
けど、なぜかクロ達はダンジョンの深くには行かず、浅い階層でずっと戦っていた。
確かに安全だし、俺が危険な目に遭うことも全くなかった。でも、正直言ってクロ達にとっては楽すぎる相手ばかりのように見えた。
午前の冒険がすんだ後、ベースキャンプで休憩になった。俺は全く疲れてないけどね。
昼ご飯の干し肉を頬張りながら、俺は率直な疑問をクロに言った。
「なあ、クロ。クロ達ってめっちゃ強いじゃん。すごいよな。これくらい強ければもっと深いとこに行って、もっと強い魔物倒して稼ぐことができるんじゃないか?」
「いいえ。無理は決してしないわ。私たちは安全に長く冒険者を続けたいから、進行度は慎重に管理しているのよ」
落ち着いた優しい声でそう答えたのはミドリだった。
「そうなんですか」
「ミドリの言う通りだ。命は1つしかないし、基本的に死んだら終わりだからな。冒険者は安全が第一だ。それを忘れるなよ」
クロは俺に諭すように言う。
確かにクロの言うことはよく分かる。この世界はゲームじゃない。1回死んだら終わりの厳しい世界だ。だから、冒険者が安全に少しずつレベル上げをするのは当然だろう。
でも、俺は1日も早く成長して、あの女神の前に立ちたい。強くなり、最強のパーティーを組んでこの世界を巡っていれば、いずれまたあのクソ女神に出会えるだろう。
そのためには、俺はのんびりレベル上げなんてやってらんないんだ。多少のリスクを冒してでも、最短距離で最高の効率を選ばなきゃいけない。
そんな俺の顔を見てクロは俺の気持ちを察したようだ。
「ラック。焦る気持ちは分かる。でもな、まずは生き残る、その上で金を稼ぎ豊かに暮らす。その積み重ねで目的が達成できる。そうだろう」
全てを見透かしたようなクロの穏やかな言葉に俺は頷く。確かにその通りだ。
俺はまずこの世界で生きる手段を持たなきゃいけない。それがなきゃこのままずっと荷物持ちのままだ。
休憩時間が終わり午後に冒険を再開した。
クロ達は時にはダンジョン内の小さな宝箱を見つけは開けていた。罠がある場合も多いらしいが、全く作動しなかった。どうやら俺の運がいい方に作用したらしい。
あとは、変わらずグレートボアやイノブター(イノシシの化け物のような魔物)を狩って過ごしていた。
魔物を倒していくと、「蛇魔石(大)」、「大蛇の上牙」「イノブターの上皮」、「イノブターの上角」など、普段はなかなか出ないというレアドロップが連続して出た。どれも装備や魔法、ポーションなどの道具作成に使える貴重な素材で、町に持って帰ると商人に高く売れるらしい。
終わりの時間になると、クロは上機嫌だった。
「今日はラックのお陰でドロップが想像以上の出来だ。よーし、じゃあ今日はここへんで切り上げて、町に戻るぞ! 酒場でたらふく飲もう」
ミドリは嬉しそうだ。アカとキイロはハイタッチして喜んでいる。何もしてないけど俺も何か嬉しくなった。
今回の冒険は大成功だったらしい。初めて冒険について行ったけど結構勉強になったな、今日は。やっぱミッキーにお願いして正解だったわ。
こうして俺たちはスタード市街までいい気分で歩いて戻った。俺はただの荷物持ちでなんにもしてなかったけど、結構いい気分だったな。
第6話「これが異世界のリアルってやつか」を読んでいただきありがとうございました。
アンカールドの冒険者が置かれたリアルな厳しさが伝わったでしょうか。
ラックは異世界の現実を受け入れながら次第に成長していきます。
なかなかラックのパーティーメンバーが出てこなかったり、ラック自身の冒険が始まらなかったりとやきもきされる方もいるかもしれませんが、もう少しお待ちください。よろしくお願いします。