第40話② アンカールドの未来と、俺たちの今と(中編)
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「女神ガチャに外れた俺が、運だけで異世界を成り上がる」第40話②です。
今回は、魔王との取引で5億イェンを手に入れたラック達が、急いでユタカー経由でヴェネッツに向けて戻ります。
ですが、ユタカーに着いたときには、ロッキーロード一家の姿はなく……。
どうぞ、お読みください。
俺たちは大急ぎで馬車を飛ばし、ヴェネッツに向かっている。
一刻も早く着かなくちゃいけない。日程的に、ミッキーの結婚式までギリギリだったからだ。
今はユタカーの田園風景を抜けて、ヴェネッツへの街道を走っている。
「なあ、5億イェンは用意できたけど、間に合わないってことはないよな?」
俺が誰にいうでもなく不安を口にする。
「大丈夫、と言いたいところだが、どうだろうねぇ? それもまたマウスちゃん、君の運次第さ」 マジョは人ごとのようにつぶやく。
マジョは魔王に自分の最強の妨害魔法が通じないことがあってから、いつもの饒舌さが影をひそめ、静かに考えている時間が増えた。
マジョも、このままじゃダメだって思ってんのかな。
「大丈夫、絶対間に合うよ。魔王さんには負けたけど、人類でラックの運に勝てる人いないでしょ」
「大丈夫だぁ~。おらはラックの運を信じてるだぁ~」
プリンもパワーも、俺を励ますように言ってくれる。
「おい、結局俺の運頼みかよ」
俺は恥ずかしさを紛らわすように思わず茶化した。
「御者さん、いつもの3倍の金払うから、できるだけ急いでもらえるかな」
「はい! 任せてください!」
馬を進ませる御者さんから気合いの入った返事が来た。
後は、自分の運に身を任せるだけだ。
トルー、トルー。
マジョが懐から最新鋭の携帯魔法電話を取り出す。
「私です、父上。ええええ、そうですか。フフッ、なるほどねぇ。ええ、分かりました。じゃあ、後はお願いしますよ、ええ。じゃあまた」
そう言うと、マジョは一瞬で携帯魔法電話を懐に戻した。どうやってんだよそれ。
「アインさんから何か連絡あったのか?」
アインさん、というのはマジョの父親で、大貴族のマジョリティ公爵だ。
「ああ。なかなか興味深い連絡があったよ。内容については、お楽しみということにしようか」
マジョは心底楽しそうだ。
うーん、今はあまり聞かない方がいいっぽいな。
その後、俺たちは馬車を飛ばしに飛ばして、ユタカーのロッキーロード伯爵領についた。
しかし、そこには伯爵も伯爵夫人も、そしてミッキーの姿もなかった。
「ああ、伯爵ご一家は結婚式のために1週間前にヴェネッツに向かいましたよ。何でも、先方の都合で、結婚式が1週間早まるとのことで、急いで行かれました。確か、結婚式は明日じゃなかったかな」
領民がそう話す。
「おい、これまずいぞ。せっかく5億用意したのに間に合わないじゃないか」
「魔王さんに交渉までしたのに、無駄になってしまうなんて、そんなのないよ!」
「どうしたらいいだぁ~」
俺たちは、ロッキーロード家の前で途方に暮れた。
どうやったって、今すぐここを出てもヴェネッツまで最低5日はかかる。
明日までになんて、絶対に間に合わない。
「どうすりゃいいんだよ……」
いくら俺の運があっても、もうどうしようもない。
俺は、その場に立ち尽くすしかなかった。
同じ頃 商業都市ヴェネッツ 高級ホテル内
私の結婚式は1週間早まり、明日になった。
相手のアークラーツ家との顔合わせ、ドレス選びなど、とんとん拍子で結婚式に向けて進んでいく。
結婚相手のことはあまり知らないし、知りたくもない。
だって、絶対にラック達が来てくれて、救ってくれるって信じてるから。
今の私には、ただ信じることしかできない。
「どうしたの?」
お母さんが声をかけてくれる。
お母さんは全部事情も、私の気持ちも分かった上で、それ以上何も言わないでそばにいてくれた。
だから、私だけ泣くわけにはいかない。
「ううん。大丈夫だよ。私、結婚には納得してるから」
私がそう言うと、お母さんは悲しそうな顔を見せる。そんな顔、しないでほしい。
「ごめんね、ミッキー……」
「大丈夫、だから」
私はそう返すのが精一杯だった。
夜になり、高級なベッドに横になっても、全く眠れずにいた。
ここ1週間、ほどんど眠れていない。
ロッキーロード家のため、自分が犠牲になるのは何とも思わない。
ううん、本当は嫌。もっと、ラックと、みんなと冒険したい。
お願いラック、早く来て、私を助けて……。
いつの間にか眠りに落ちていたらしく、気づいたら朝日が昇っていた。
いよいよ、今日が結婚式の当日だ。
朝から結婚式場に移動し、バタバタと準備が進められていく。
私は言われるがままに化粧をし、ドレスを身にまとう。
今日の12時、両家の契約が結ばれると同時に、私はゲース様と結婚する。
もう、ダメなのかな?
11時、控え室で待機していると、アークラーツ伯爵とゲース様が来た。
「いやいや、ミッキーさん、本当にきれいだねぇ。うちの息子にはもったいないくらいだ」
「父上、何をおっしゃっているんですか。私とミッキーの結婚が、両家の架け橋になるのですよ」
2人が言っていることが真っ赤な嘘だと知りながら、私は笑顔を作って返した。
11時30分。いよいよ、私は式場に入った。私の横にはゲース様が座っている。
両家の関係者や来賓の貴族達が座って待っている。
この後、どんな運命が待っていても覚悟はできている。
ありがとう、ラック。
君が5億作るって、待っててくれって言ってくれたから。
少しだけだけど、幸せな夢が見られたよ。
約束守れなかったからって、自分を責めないでね。
魔王にヨネを売って5億作って帰ってくるだなんて、たった1ヶ月と少しじゃ無理って分かってたから。
でも、いいの。
私の、私の家族のために無理して動いてくれただけで、私は本当に嬉しいし、今幸せなの。
私は、これからの自分の運命に顔を上げ、前を向いた。
もうすぐ、結婚式が始まる。
その時だった。
ドン!
扉を思い切り蹴るように開け、中に入る。
「アークラーツ伯爵! 俺はロッキーロード家の代理人、ラックです。ロッキーロード家の借金5億イェンを用意しました。今すぐ返済しますので、この結婚は取り消しでいいですよね?」
俺たちは式場に殴り込み、啖呵を切った。
俺の横にいるパワーが5億イェンの塊を地面にドンと置く。
ミッキーも、リッキーさんも、信じられないという顔をしている。
参列者はみなポカンとしている。結婚式の演出か何かと思っているようだ。
しかし、そのうち意味を理解したのか、貴族たちがざわつき始める。
前方に陣取っていたアークラーツ伯爵が、慌てた様子でつぶやく。
「バ、バカな。5億を返済だと?」
「ええ。それじゃ、返済の手続きと結婚式の中止を宣言してください」
「な」
アークラーツ伯爵は予想外の出来事に混乱しているようだ。ざまーみろ。
そこに、ゲースがかみついてきた。
「ふざけるな! 5億を返済してこの結婚式が無効になるだと? だったら結婚式を中止にした迷惑料を払え! それにお前達、ただの冒険者だろう。貴族に対して不敬だぞ。おい、兵隊たち、侮辱罪で逮捕しろ!」
ゲースの言葉を聞いた警備兵が、俺たちを囲む。
そんな状況にも関わらず、高笑いをあげるのはマジョだった。
「ハッハッハ。実に醜いねぇ」
「なに!」
「アークラーク伯爵、私は王都のマジョリティ公爵が長女、マジョでございます。現在、この場で父の代理を務めております」
アークラーツ伯爵は、ほっとした表情を見せる。
「なんと、マジョリティ公爵家のご息女ですか。これは一体、どういうことでしょうか」
「我が父は、今回のアークラーツ家とロッキーロード家の一件について調査し、国王陛下に報告しました。その結果を申し上げます」
国王に報告した結果、と聞いて参列者一同が水を打ったように静かになる。
「今回の件は、アークラーツ家が不当な契約を持ちかけ、意図的にロッキーロード家に多額の借金を背負わせた。そして、いずれロッキーロード家の乗っ取りをアークラーツ家は目論んでいる、という結論になりました」
「おいどういうことだ」「これは本当なのか?」
衝撃の報告を伝えられ、会場が大いにざわつき始めた。
「な、何をおっしゃいますか。どのような根拠があって、そのような……」
アークラーツ伯爵は再び慌てふためいている。
「根拠、ですか。アークラーツ家はこれまで貴族の本業である領地経営をなおざりにし、地方貴族を結婚詐欺で騙しては土地や財産を奪ってきたことが認定された、でよろしいでしょうか? では、国王陛下の裁定をお伝えします」
「何だと、ふざけるな!」
ゲースが狂ったように叫んでいるが、誰も耳を貸していない。
マジョの言葉の続きをじっと待っている。
「曰く、アークラーツ家はこれまでの罪により貴族の称号を剥奪、お家取り潰しとする。アークラーツ家の全ての財産を国有化し、これまで騙された地方貴族に分配し再興を促す。アークラーツ家に属する個人についての罪状は、追って伝える。以上です」
マジョが宣言した瞬間、俺は勝ちを確信した。
「じゃ、五億置いときましたから、花嫁もらっていきますんで。さ、リッキーさん。みんなで帰りましょう、ユタカーに。皆さんも、こんなバカな結婚式やめて、さっさと帰りましょうか!」
そう言うと、呆然としているゲースを尻目に、俺はミッキーを抱きかかえて外に出ようとする。
ミッキーは、俺の背中をぎゅっと抱きしめ、大粒の涙を流しながら泣いていた。
「ありがとう、ありがとうラック。ほんとうに、ありがとう」
「いやいや、こんなの当然だって。ミッキーのためだからな」
その時、後方から怒号が響く。
「このままじゃ俺はもうおしまいだ! こうなったら、この場にいる全員を皆殺しにしてやる。特に、そこの冒険者、絶対に許さんぞ!」
アークラーツ伯爵は顔を真っ赤にして、手元にある剣を握った。
「おい、兵ども出てこい! こいつらを皆殺しにしろ!」
ゲースの合図とともに、アークラーツ家の兵が会場内になだれ込んでくる。
「みなさん、避難してください! ここは私たちが何とかします」
「フッ。私たちに任せてくれたまえ」
マジョとプリンは自分たちが盾になって参列客を会場外に出させた。何とか避難できたみたいだな。
その間に、アークラーツ伯爵の軍は俺たちを囲む。
「おいおい、これ、どうにかなりそうか?」
「フフッ。少しきついだろうねぇ。私のMPもほとんど残っていないしね」
こりゃキツい戦いになりそうだな。
その時だった。
「兄貴ィ! 俺たちも加勢させてください」
「俺も戦いますよ、兄貴!」
ヴェネッツの冒険者達、つまり俺の兄弟たちが加勢に来てくれたのだ。
マジかよ。やっぱ持つべきものは兄弟だな!
「お前ら最高だな! すまんけど頼むわ」
「ラック、私も戦いたい。短剣片方貸してくれない?」
ミッキーは俺の胸から降りて、前を向いた。ウエディングドレスのまま戦うみたいだ。
「わかった。でも、無理はするなよ」
そう言って、片方の短剣をミッキーに渡した。
「殺してやるうぅ~」
スキルの影響か、半ば人格を失ったアークラーツが俺に向かってくる。アークラーツは剣と自分を一体化し、ブンブン振り回すスキルみたいだな。
でも、俺には何てことない。
「運パリィ!」
キン、キン、キン、キィン!
攻撃を全て受け止め、弾いて見せた。
すると、横から薬か何かで獣化したゲースがミッキーに襲いかかる。
「ゴ、ロ、ズ」
「カウンター!」
ミッキーは華麗なカウンターでゲースの攻撃をかわし、ダメージを与えた。
「よし! マジョ、できる限り妨害魔法で兵隊を無力化してくれ。プリンは暗黒魔法で無力化しながら、負傷者の治療を頼む。パワーは殺さないように地面を叩け。それだけでいい」
俺はこの戦闘で死人を出す気はなかった。
罪人は、ちゃんと捕まえて、罪を償ってもらわないとな。
「フフッ。もうあまりMPがないというのに、無茶を言うねぇ、マウスちゃん。まあ、マウスちゃんのお願いとあれば、やってやろうじゃあないかい」
「分かったわラック。ここが暗黒魔法の使いどころってことね。普段は嫌だけど、思いっきり使っちゃうよ」
「おらの攻撃力はアンカールド1だぁ~」
マジョとプリンの魔法によって周りにいた兵隊達がバタバタと倒れていく。そのうち逃げ出す兵隊が出始めた。
パワーの攻撃は10回に1回ほど地面にヒットし、地面にめり込んで結婚式場をぐちゃぐちゃにした。
その結果、敵の足下をぐらぐらにした。これで逃げられないはずだ。
「雑魚はだいたい終わったな。あとはこいつらか」
目の前にはアークラーツ元伯爵と、その息子ゲースの変わり果てた姿があった。
「じゃあ、最後の仕上げと行くかぁ! マジョ、プリン、いつものキツいやつ頼むわ」
「君も好きだねぇ、マウスちゃん。フフッ、いいよ。私の最後のMPでかけてあげよう。バフポイズンマスター! バフウィークマスター!」
「私も行くわよ。オールサポート」
「ぐわぁあああああああ!!!」
体中が信じられないぐらい痛い、苦しい。同時に、めちゃ気持ちいい何かが体に入ってくる。
「っはぁ! これでお前らを退治してやるぜ!」
俺は真っ直ぐにアークラーツの方に向かった。
アークラーツが腕と一体化した剣を鋭く振りかぶり俺に向けてくる。
でも、今のバフがかかった俺にとってはスローモーションだ。
アークラーツの攻撃をさっとよけて、致命傷にならない程度にダメージを与える。
ザシュッ!
俺のメタルの短剣がアークラーツにヒットする。
アークラーツは苦しそうにうめいている。
「ミッキー頼んだ!」
「うん。『居合い』!」
ミッキーは既に先取りで覚えていたニンジャのスキルを使う。
アークラーツは力なく地面に倒れた。死んではいないはずだ。
「お前ら! アークラーツを縛ってくれ!」
「おうよ、兄貴!」
兄弟達がアークラーツを縛って無力化する。
「後はゲースだけだ。行くぞ、ミッキー」
「うん」
俺とミッキーは見つめ合う。
「ふざぁけぇぇるなぁぁああ!!」
ゲースが狂ったように突進し、両腕を振りかぶった。
「運撃!」「居合い!」
俺は手加減した運撃を放った。同時に、ミッキーが居合いを放つ。
ドサリ。
ゲースの攻撃は空を切り、地面に顔から倒れた。
「よし! 兄弟、後は頼んだぞ!」
そう言って、俺は倒れた。バフが切れて、マジョから受けたデバフで体力が限界だったからだ。
でも俺はやったぞ。やりきった。
俺の手で、ミッキーを、救ったんだ。
ミッキーが倒れた俺に抱きついてくる。あー幸せだな、と思ったら意識を失った。
読んでいただきありがとうございました。
第40話②「アンカールドの未来と、俺たちの今と(中編)」でした。いかがだったでしょうか。
どうにか、悪が裁かれて正直者が報われるスカッとした展開で終わらせることができました。
それにしても、ラック達はユタカーーヴェネッツ間を1日でどうやって移動できたのでしょうか。
彼らとアンカールドの未来には何が待っているのか。
そして、アンカールド内で蠢く野望の真相とは。
次で第2章は最終話となります。よろしくお願いします。




