第4話 冒険者派遣会社ってどこのブラック企業だよ
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「女神ガチャに外れた俺が、運だけで異世界を成り上がる」第3話です。
今回は異世界の冒険派遣会社が登場します。
一体どんな人物がやっているのか、そしてラックはどう派遣されるのか。
お楽しみに。
振り向くと、女の子と男が立っている。
一人はやや小柄な女の子だ。肩まで伸びた茶金髪の髪に緑色のクリッとした目。正直言ってとてもかわいい。おそらく同世代ぐらいだろう。
だけど、かわいいだけじゃない。何というか、とても惹きつけられる魅力を感じる。一目惚れ、とかじゃなく、この人は文句なしに信用できそうだ、という確信をひしひしと感じる。何でだ?
もう一人は背の高い男だ。長い黒髪で、黒いコートを羽織っているため目元は見えづらいが、鋭い目をしている。伏し目がちで何を考えているか分からない。女の子の後ろにぴたりと立っている。
小柄な女の子が俺に話しかけてきた。
「やあ。話は聞いたよ。ラック君だっけ?」
俺はとりあえずうなずく。すると、女の子はかわいい顔のまま残酷なことを言った。
「初対面で申し訳ないけど、今の君は一文無しだしレベルが低くて弱いから、このままだと路上生活者だよ。それは嫌でしょ?」
いきなり最悪の現実を突きつけられた俺は焦る。初対面で何てこと言ってんだこの子。
「え、ちょ、ちょっと待って。やっぱり俺ってこのままだと路上行き? もちろん嫌だよそんなの。というか、君は誰?」
女の子はにっこり笑った。この笑いを元の世界じゃ何とかって言ったな。そう、「営業スマイル」だ。それも極上の。
「私はミッキー。職に困った冒険者をパーティーに派遣する『冒険者派遣会社キャラバン』の代表をやってるんだ」
冒険者派遣会社? 何だそれ? 何か現実にも同じような、ブラックなのがあったような…。
「ラック君、君の運はものすごく人の役に立つよ。ぜひ私に任せてみない? 君を求めている人のところに派遣すれば、君には生活費には困らないくらいのお金が入るし、少ないけど経験値も入るよ」
え、俺の運がものすごく役立つって? にわかには信じられないけど、ミッキーの提案は正直言って魅力的だ。このままじゃ俺は何もできないからな。
「え、そんなことできるの? というか、俺の運が役に立つって本当?」
「うん、本当だよ。君の運を求める人は多いよ、きっと。とりあえず派遣に登録してみない? すぐに仕事が回ってくるはずだよ。紹介料は君の手取りの3割でどう?」
これは願ってもない申し出だ。
「ありがとうミッキー。ぜひとも頼むよ。いや、お願いします!」
そう言って、握手しようと手を出した時だった。
パン!
驚いて見ると、後ろにいた男がミッキーの前に出ている。どうやら男に手を払われてたようだ。というか、いつの間に? 何でそんなことすんだよこいつ。
「おい、ミッキーに触れるな」
細々として小さい声だが、何ともいえない迫力がある。
「は? 俺ただ握手しようとしただけなんだけど」
どうやらミッキーはこの状況に慣れているようだ。
「ああラック君、ごめんごめん。ちょっとハイ、そこまでやらなくたっていいよ。この人は大丈夫だって」
だが、ハイと呼ばれた後ろの男の目つきは変わらない。オイオイ怖いって。
「ミッキー、こいつ誰よ。ていうか、なに、握手もダメとか、ミッキーもしかしてアイドルか何か? てか、君たちもしかして付き合ってんの? 嫉妬ってやつ?」
すると、ミッキーは吹き出した。
「アハハ、アイドルって何よ。それに、私とハイが付き合ってる? そんなわけないじゃん」
付き合ってないんだ。うーん、やっぱかわいいな、この子。狙っちゃいたいな~。でも同じこと考えてる奴いっぱいいるだろうからな。それにミッキー、いろいろガード固そうだし。
「ああ、この人はハイ。今は、私の用心棒みたいな感じ兼、うちの派遣のエース治癒士だよ。ハイ、自己紹介したら?」
治癒士って言ったら、確か僧侶の上位職じゃないか。
「……ハイだ。お前、ミッキーが優しいからって勘違いするんじゃないぞ」
やっぱり声が小さい。けど、明確な敵意のこもった言葉だった。
「ハイはね、能力はかなり高いんだけど、どのパーティーでもうまくいかなくってね。まぁ、この通り話すの苦手だから。で、うちの会社に誘ったわけ。そしたら、うちに居ついちゃって。ずっと派遣でいいんだって。変わってるよね」
へぇー居ついてるねぇ。それって、やっぱハイってやつミッキーのことが好きなんじゃね? と考えていると、それがハイに伝わったようだ。
「……勘違いしているようだが、僕はただミッキーに感謝をしているだけだ。……ミッキーは俺に居場所をくれた。僕はキャラバンにずっといて、ミッキーに恩返ししたい。ただそれだけだ。それに、ミッキーは……」
「ハイ、それ以上は言わないでいいから」
ミッキーはきっぱりと断った。これまでのミッキーと雰囲気が明らかに違う。何か言わせたくない秘密でもあるかのような。ん? もしかしてミッキーって何か訳ありなのか?
ミッキーは俺の方を見るとまたニッコリの営業スマイルを見せた。
「じゃあ、ラックくんを登録しておくから。この掲示板のウチ専用のところに大々的に宣伝しておくね。見出しは『スタード1運のいい男』で」
俺はそのキャッチフレーズを聞いてい思わず顔をしかめた。なんかそれじゃ俺が役立たずみたいに思われそうじゃん……。けど、俺は改めてミッキーに感謝した。
「ありがとう、ミッキー。楽しみに待ってるよ。ああ、俺のことはラックでいいから」
「分かったラック。私のこともミッキーでいいよ。今後もよろしくね~。じゃあ私たちは依頼があるからこれで」
それから1時間くらいたったろうか。俺はギルドで待機していた。
ミッキーとハイはもういない。それぞれ他のパーティーとの約束の時間のようだ。
ミッキーはまだ18歳なのに相当ハイレベルな盗賊らしく、もう少しでニンジャになれるくらいの腕前らしい。当然ながら高レベルの盗賊はパーティーからの指名も多く、ミッキーのキャラクターも相まってリピート率は鬼高いらしい。
そう考えていると、4人組の男が近づいてきた。
「お、ラックじゃないか。元気か?」
ん、なんでこいつ俺のこと知ってるんだ?
「え、もしかしてクロか?」
クロは俺にこの世界での生き方を教えてくれた恩人だ。俺はクロのことを信頼している。でも、ここに来たってことは、そういうことだよな。
「ミッキーの紹介で運がものすごくいい冒険者がいるって聞いて頼んだら、やっぱりラックお前だったか」
「もしかして、クロのパーティーで雇ってくれるのか?」
知らない奴のパーティーに入るより、信頼できるクロのパーティーに入れるのは正直言って心強い。
クロはにっこり笑った。そして、俺に言い聞かせるように言った。
「ラックはこの世界に来たばかりだろ。俺たちのパーティーに冒険者として入るのは早すぎる。だから、今回は荷物持ちとして参加してくれ。ミッキーからもそう聞いている。レアドロップ品が出たら報酬としてドロップ品の2割をやろう。そうすればお前も宿屋で暮らせるし、装備も整えられるはずだ」
「へぇ?」
俺は思わず変な声を出してしまった。
はあ? 荷物持ち? おいミッキー聞いてねーぞ。俺一応冒険者なんだけど。なに、俺にはレアドロップしか期待してないってことかよ。
クロは俺の表情からだいたい察したらしい。
「ラック、お前の気持ちは分かるが、まずはこの世界の冒険の仕方に慣れることが大事だ。そのうちお前自身が冒険に出るようになるだろうからな。なに、心配するな。お前の安全は俺たちが命がけで守る」
確かにクロ以外も歴戦の冒険者といった感じで、信頼はできそうだ。
でもさ、荷物持ちって……。マジかよ。
依頼を断ろうかと考えていた俺の表情を見た、ギルドの巨乳受付嬢アンが耳打ちしてくる。
「ラックさん、これミッキーさんの紹介でしょ? 荷物持ちだからって、断ったらミッキーさんの信用に関わりますよ。それに、クロさんのパーティーはスタードで1、2を争うくらい強いですから。一緒にいるだけで確実にお金と経験値が入りますよ」
それを横目に見たクロはうんうんとうなずく。
「アンの言う通りだ。どうだ、ラック。期間はとりあえず1週間。お前が気に入ればもっと長くいてもいいぞ」
クロの申し出はありがたい。でも悔しい。悔しいが、これが俺の現実だ。受け入れるしかこの世界じゃ生きていけない。
「……わかった。とりあえず1週間、クロのパーティに入ろう」
こうして俺の異世界生活は、荷物持ちからスタートすることになった。
てかせっかく異世界に来たのになんで俺が荷物持ちなんだよ。一応レアスキル二個持ってる選ばれし冒険者だなんだぞ。俺の理想の異世界ライフを返してくれー!
読んでいただきありがとうございました。
今回は冒険派遣会社の社長である美少女ミッキーと、その護衛であるハイを登場させました。
ミッキーは今後の話に深く関わってきますのでお楽しみに。
ミッキーはただの可愛い女の子ではありません。やり手の社長ですし、いろいろ訳ありです。
その話もいずれ書きたいと思います。
ラックの初冒険は何とただの荷物持ち、しかもあのクロのパーティーです。
次回はもう1人の主人公である選ばれし勇者の登場です。どんな人物か、お楽しみに。