第35話 おねーちゃんの店に潜入せよ! ゲッケの尻尾はどこだ
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「女神ガチャに外れた俺が、運だけで異世界を成り上がる」第35話です。
今回は、マジョリティ公爵との話を受けて、実際に占い師の調査に行きます。
その先に待っているものとは……。
どうぞお楽しみに。
「では、話を戻そうか。君たち、そこにかけたまえ」
と、それまで明るかったアインさんの目が真剣そのものになった。
「マジョから話は聞いている。ユタカーのロッキーロード伯爵家の借金問題を解決したい、そして君たちの友人である娘さんを望まない婚約から解放したい、そういうことだね、マウスちゃん」
「はい。その借金問題については、ロッキーロード伯爵が騙されたというか、はめられた可能性が高いんです。この問題の解決に、力を貸してもらえませんか?」
俺がそう言うと、アインさんとキュリーさんが目を合わせ、お互い意思が疎通したかのように同時に頷く。
「マウスちゃん。もし騙されたのが本当だとして、それを究明してあなたはどうしようと言うのかしら」
「どうしよう、ですか。それは、不正を突きつけて、借金を減額させるか、うまくいけば全額払わなくていいように持っていければ、とは思ってますが……」
「それは難しいだろうねぇ。今回の借金は貴族と貴族の契約だ。ロッキーロード家が貴族である以上、契約した借金は払う必要があるだろう。それは、不正を暴くのとは別問題だよ」
俺の甘い思い込みを、アインさんが即座に一刀両断する。
そういうもん、なのか。じゃあ、どうすればいいんだよ。
「あの、質問なんですけど」
プリンが声を上げた。
「マジョリティ公爵家って、大貴族なんですよね。例えばなんですけど、5億イェンをロッキーロード家に貸すことはできないんですか? 借金を返さなければいけないなら、ロッキーロード家には今どうしても、5億イェンが必要なんです」
「確かに、うちは大貴族よ。多少無理すれば、5億イェンを集めることもできるかもしれないわね」
「じゃあ」
「でもね、今のロッキーロード家にお金を返せる見込みなんてあるの? お金を貸すからには、最低でも帰ってくる保証が必要よね」
アインさんも頷く。
「ママの言う通りだ。つまり、借金の問題はロッキーロード家自身で解決しなければならないということだよ。ロッキーロード家は大農家だ。農作物を売るのが一番いいはずだがねぇ」
「それは、ムギーが全滅して……」
「それは分かっているさ。その上で、どうするか、だね。私からのヒントはこれくらいにしておこうか。後は君たちで考えるんだよ。マジョ、いいかい?」
俺たちはマジョの方を見た。
「ええ、お父様。それは私たちで考えよう。だが、占い師もどきのゲッケと、アークラーツ家の関係については調べてくれないかい?」
ん? 占い師もどき?
「おいマジョ。ゲッケが占い師もどきってどういうことだよ。リッキーさんは王都で権威ある占い師って言ってただろ」
「ああ、言っていなかったねぇ。ゲッケは権威ある占い師なんかじゃあないさ。王都の貴族達には見向きもされない、3流以下の占い師もどきだよ。ロッキーロード伯爵はゲッケが何年も天候を当てたと言っていたがねぇ、それは王都の占い師に金を払って教えてもらっただけさ。つまり、おそらく今回の件でゲッケはクロと言えるだろうねぇ」
「それじゃ、ゲッケはリッキーさんを騙してたってこと? そうなると、アークラーツ伯爵家が裏でつながっているはずだよね。でも、どうやってそれを証明すればいいんだろう」
プリンが身を乗り出しながら離す。
「そこは、我々に任せたまえ。筆頭宮廷魔術師として、責任を持って調査しよう。だが、あくまで私たちにできるのは調査だけだ。その結果を踏まえてどうするかは、マウスちゃん、君に任せよう。君がこの件をどう解決するか、見てみたいからねぇ」
「ふふ。マジョからの報告によると、婿殿はこれまでも実力以上の結果を残してきているわね。いいわ。私たちが助けてあげるから、この問題を見事に解決してもらおうかしら」
「もちろん、言われなくてもそのつもりです。でも、ありがとうございます。本当に、助かります」
俺は二人に頭を下げた。今の俺にできるのは、これくらいしかないからだ。
アインさんとキュリーさんはニッコリ笑って顔を見合わせ、同時に席を立った。
「じゃあ、研究があるから私はこれで」
「私も、神聖魔法協会の会合を再開しなくちゃね。じゃあね」
そう言って、奥のドアに入っていってしまった。
「すごい両親だな」
マジョは何てことないという顔をしている。
「フフッ。まあ、普通だよ。それより、これからやることがはっきりしたねぇ」
「うん。まず、ゲッケの正体が分かったから、それを確認したいよね。それと、ヴェネッツに行ってアークラーツ家について私たちなりに情報を集めるべきだと思う。リッチーさんやジェリーさんに聞いてみるといいんじゃないかな」
「あとは、ロッキーロード家の借金の返済だな。でも、ムギーが壊滅な以上、他の作物について考えるしかないよな。あとは、5億出してくれる相手もな」
特に後半は難問だな。5億出してくれるほどの力を持つとなると、公爵家以上、つまり王族か。いや、王族なんて知り合いいないしな。
「おなかいっぱいだぁ~。うまかったぁ~」
あ、言ってなかったけど、パワーはずっと会話に加わらず、肉やムギーのパンをもりもり食べてたな。
ん? もりもり食べる?
何か、前にもあった気がするな。いや、パワーがもりもり食べてるのなんていつものことか。
いや、待てよ。
パワー以外にも、ご飯をおいしそうに食べてた人がいたような……。
あ! 1人いたわ。
公爵以上の財力を多分持っていて、作物を買ってくれそうな相手が。
あいつを頼る以外、現状他に手はない。
リスクはかなりあるけど、やってみるしかないな。
「よし。ゲッケを調べたらその足でヴェネッツに行こう。それが終わったら、ユタカーに戻るぞ」
「え? ユタカーに戻る?」
プリンが驚いた声を上げる。
「ああ。リッキーさんにちゃんと話を聞けば、借金を返済できるかもしれないんだ」
「どうやってやるんだい?」
「それは、後で話す。とりあえず、ゲッケが行きそうな酒場とかないのか?」
「王都は酒場やレストランがそれこそ山のようにあってねぇ。身分や立場によって使う店が自然と分かれているんだ。ゲッケは3流占い師だから、金はないはずさ。だが、不正に荷担しているなら、あぶく銭を持っている可能性があるねぇ。ということは、ここらあたり、だろうさ」
マジョが止まったのは、女の子のマークが見える店だ。まだ外は明るいのに、店内にはノリノリの音楽がかかっている。これも魔族の技術ってやつなのか。
「じゃあ、マウスちゃんとパワーで入ってきたまえ」
「えっ?」
いいの? 昼間からおねーちゃんの店に入っても? マジで?
「ちょっとラック。なにいやらしい顔してるの? これはミッキーのための調査でしょ。しっかりして。私たちが入ったら怪しまれるでしょ。頼んだからね。パワーは、ご飯食べてていいよ」
プリンがそう言うと、パワーは興奮気味に中に入っていた。
「ご飯が食べたいだぁ~」
プリンも俺たちの扱いがうまくなってるな、ほんと。
「おいちょっと待てよ」
そう言いながら店内に一緒に入る。
カランカラーン。
「いらっしゃいませー」
ちょっと露出の多い女子達が思いっきりの営業スマイルを見せた。
中を見ると、いかにもあぶく銭を持ってそうな男達がたくさんいた。
俺たちは促されるままに席に座る。
「ご注文はいかがしますか?」
「え、えっと、シュワー1杯」
「おらは、肉をたくさんだぁ~」
「かしこまりました~」
注文を聞いていたおねーちゃんに俺は声をかける。
「なあ。最近ここにゲッケっていう占い師来てないか?」
「ゲッケさんなら、ここ最近毎日来てますよ~。今日も、あそこのVIP席にいますから、声をかけたらどうですか? 今なら、おごってもらえますよ~」
奥のVIP席を見ると、目つきの悪い男が女の子を侍らせている。占い師っぽいローブを来てはいるが、どう見てもエセにしか見えない。まあ、エセなんだけどな。
「おーみんな飲めよ。ほら、お前も飲めって」
「あ、ありがとー」
何か感じ悪いな。でも、行くしかない。
「パワー、1人で飯食っててくれ。ちょっと行ってくるから」
「わかっただぁ~」
パワーはうれしそうに頬張っている。
俺はゲッケの方に行ってみた。
「すみません、お兄さんすっごい羽振りいいですね。ちょっとお話ししていいですか」
「おう、こっちに来な。おごってやるぜ」
そう言うと、隣の女の子をどかしてそこに俺を座らせた。
「お前、見ない奴だな。何て名前だ」
ちょ、ここで本名言うわけにはいけないよな。
「ら、ラースです」
「ラースか。俺は占い師のゲッケだ。見てみろ俺を。女を侍らせてウハウハだ。サイコーだぜ」
ゲッケは目つきの悪い目を更に悪くしてうれしそうに言った。
うわー、こいつ友達になりたくねぇ―。
でも、うまくおだてて情報とらないとな。
「す、すごいですね。どうしてそんなお金持ってるんですか。もしかして、占い師ってそんな儲かるんですか?」
ゲッケはへっと卑屈に笑う。
「占い師? 一部のやつしか儲からねぇよ。ただよ、いい金づるができたんだわ」
「それって何です?」
「ははっ。聞きたいか? バカな田舎貴族を騙すんだよ。騙して借金漬けにして、俺は高額な演技料をもらうって訳だ」
聞いた瞬間、頭に血が上った。やっぱこいつ、クロじゃねぇか。
拳をぎゅっと握りつぶして、ぶん殴りたくなる衝動を必死に抑えて笑顔を作る。
「すごいっすね、ゲッケの兄貴。演技料って、誰からもらえるんですか?」
「んん~、興味あるのか? でも、教えるわけにはいかねぇなぁ~。それを教えたら、俺の命があぶねぇからな」
これ以上は教えてもらえなそうだな。じゃあ、これだけは聞いておこう。
「じゃあ、最近はめた、バカな田舎貴族って誰なんですか?」
ゲッケは酔っているのか楽しそうに笑う。
「聞きたいか? はは、ユタカーのロッキーロード伯爵家ってとこだよ。貴族のくせに、農業以外は何も知らないバカな田舎貴族さ。だから騙されるんだよ。」
俺は、怒りを顔に出さないようにするのだけで精一杯だった。握った右拳から血が出るくらいに握りしめた。
決定的な、言葉を聞いた。これで、確定だ。
後は、アークラーツ伯爵家から証拠を得るだけだ。
「そ、そうなんですね~。すごいな~。あ、じゃあ俺はこの後予定があるんで、失礼します」
「おう、またな、ラース。いつでも来いよ、おごってやるからな」
俺は怒りを抑えながらパワーに近づいた。
「パワー。情報を得たから出るぞ」
「ここの肉はうまいだぁ~。女の子もいるし、まだここにいたいだぁ~」
パワーは女の子に囲まれながら、うまそうに肉を食べている。テーブルの上に皿がものすごい数重ねられている。
おいおい、俺が仕方なくおっさんと話してる間、お前何いい思いしてんだよ。
「帰るぞ!」
俺はパワーの腕を引っぱって出ようとした。
だが、黒服が逆に俺の腕をつかんだ。
「お会計、5万イェンになります」
「ご、5万イェン?」
高過ぎだろこの店。冒険者の1日の稼ぎより上じゃねーか。てか、パワーの食い過ぎが原因か。
俺は財布にギリギリ入ってた5万イェンを置くと急いで外に出た。
「どうだった? マウスちゃん」
外で待っていたマジョに俺は答えた。
「ゲッケはちょっとおだてたら全部はいたわ。嘘の占いでロッキーロード家をはめたってな。正直ぶん殴りたいのをこらえるのに必死だった。ただ」
「ただ、なに?」
プリンが俺の言葉を待っている。
「誰に頼まれたかは命に関わるから言えないってよ」
「ふむ。では、ヴェネッツに行こうか。アークラーツ家は簡単には尻尾を出さないだろうが、ジェリー達から噂を聞けるだろう。ああ、父と母には逐次連絡するよ。あっちに任せた方がうまくいくこともあるだろうからねぇ」
そして俺たちはヴェネッツに向かった。もう少しだ、待ってろミッキー!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
第35話「おねーちゃんの店に潜入せよ! ゲッケの尻尾はどこだ」でした。いかがだったでしょうか。
ついに、ラックはゲッケの尻尾をつかみました。
後は、ヴェネッツに行ってゲッケとアークラーツ家の関係を明らかにするだけです。
それとは別に、借金問題を解決する必要があります。
果たしてラックが思いついた「相手」とは誰でしょうか。
次は、5話に1度の勇者パーティー回になります。
再び傷ついた彼らを待っていたのは、以前よりも遙かに厳しい王都の視線でした。
次回もお楽しみに!




