第18話 これが、私の運命なの?
ページを開いていただきありがとうございます。1週間大変お待たせしました。
「女神ガチャに外れた俺が、運だけで異世界を成り上がる」第18話になります。
今回は、勇者ユウの妹プリンが、異世界でラックと再会する話です。
プリンの異世界や冒険者に対する考え方や、ラックと再会したときの思いをぜひ読んでいただきたいです。
よろしくお願いします。
ラック達と同時期 プリン
王都エイガーを出てからもう3日たった。
この世界に来てから1週間もたっていないのに、現実世界で過ごしていた高校生活がとても懐かしく感じる。でも、すぐに戻りたいとは思っていない。
今は、辺境都市スタードに向かう馬車の中に私はいる。
私は兄たち勇者パーティーから離れ、この世界の困っている人たちのために力を使いたいという自分の理想を実現するために1人で進み始めた。
でも、私が勇者パーティーを去ったのにはもう一つ、誰にも言えない理由がある。
与えられた僧侶の力でこの世界の困っている人々を癒やす。そう考えていた私のレアスキルは、まさかの『暗黒魔法』だった。
『暗黒魔法』はゾンビやゴーレム、いずれは地獄の王をも召喚して戦わせることができる、強力なレアスキルだ。
あとは、相手を地獄の檻に入れたり、思うように操ったり、ゾンビにすることなんかもできてしまう。
どうして?
私は僧侶で、困っている人を救いたいと思っているのに、女神様はなぜこんな能力を私に与えたのだろう。
私は兄の横で、勇者パーティーとして動くのが怖くなった。勇者パーティーは何より高潔さが求められるはず。
でも、みんなが苦しくなったときに、いずれ『暗黒魔法』を使わざるをえない時も出てくるだろう。
その時の兄や仲間たちの視線に耐えられるとは思えなかった。
それにしても、この世界に来てから驚くことばかりだ。
初めは勇者パーティーの一員として、王から最大限の待遇を受けていた。
毎晩豪華な料理が出てくるし、私1人に3人もお世話係の女の人をつけてくれた。
これが勇者パーティーとしてこの世界に来たということなんだ、と最初はそう思っていた。
でも、一歩王城の外に出ると、毎日を生きることに精一杯な人が多く居ることが分かった。
私たちが特別待遇を受けている中、苦しい生活をしている人たちが大勢いる。
地球でも確かに同じようなことが起きているけど、こっちは王政の世の中だ。王に逆らえる人なんていない。
だから、みんな自分の運命を受け入れるしかないみたいだった。
たった1人、勇者候補を蹴って出て行ったマジョ、と言われてたすごくきれいな女の人だけ、王の命令を聞かなかった。
どうしてかは分からなかったけど、王もマジョさんだけは止められなかったみたいだ。
マジョさんの行動を見て思った。私も、魔王を倒すとか、そんなことしている場合じゃないって。
そもそも、魔王や魔族に会ったことがないのに、 どうして相手が悪で、倒すべき存在だなんて軽々しく言えるんだろう。
聞いた話では、 数ヶ月前までは人類と魔族は休戦協定を結んでいて、お互いの領地を頻繁に行き来していたそうだ。
それに、今回の戦争を仕掛けたのは王、つまり人類側だ。一方の魔族は守ってばかりで決して攻めてこないと聞いた。
私は、この世界の真実を知りたい。そして、少しでも自分の持っている力をこの世界の人々のために役立てたい。そういう思いで王都を出たのだ。
2日後、辺境都市スタードに着いた。
スタードには私のような地球から来た冒険者がいると聞いていたから、着くのを楽しみにしていた。
私は、この世界で志を同じくする仲間を見つけたかったのだ。
私は冒険者ギルドに向かった。後で聞いたのだけど、多くの地球から来た冒険者がそうであるように、1人でいた私にミッキーが声をかけてくれた。
「ねえ、君もしかしてアースから来た人? 1人でしょ? うちの会社の派遣に登録してみない? 名前聞いていいかな」
「は、はい。こっちではプリンって名乗ってます」
ミッキーはニコッと笑った。
「プリンね、よろしく。私はミッキー。後ろにいるのはハイね。うちの会社のエース治癒士、だよ」
後ろを見ると、ハイがのそっといた。ハイは無口な人、という印象だった。
ミッキーはとても親切な人だ。私のような頼る人がいない冒険者に、活躍の場と生活の糧を与えてくれる。
ミッキーは派遣会社の活動を通してお金を得ているようだけど、単純なお金もうけではなく、路頭に迷う冒険者をなくしたいという強い思いで動いているのを感じた。
私のやりたいことは厳密には違うけど、ミッキーのただ生きるためだけでない、人を助けるために動いているところに私はとても共感した。だからすぐ仲良くなったんだろう。
私はミッキーの会社の派遣で、僧侶として複数のパーティーに臨時加入した。
ミッキーの配慮で、女性がいるパーティーに入らせてもらった。
男性ばかりのパーティーだと何があるか不安だったったからだ。
パーティーに入ることで、スタードの冒険者の考え方や、冒険者として生きるとはどういうことかがだんだん分かってきた。
そして、それと同時に失望も大きくなった。
結論から言うと、スタードには一緒にパーティーを組みたいと思う冒険者はいなかった。
酒場で話したり、一緒にパーティーを組んだ冒険者たちは、とにかく生きることで必死だし、死なないように行動するのが第一だからだ。
少なくともこの世界を変えたい、そのために行動したいという人は1人もいなかった。
地球から来た人もいたけど、生きるのに精一杯な人か、異世界に浸ってダラダラしている人ばかりだった。
ただ、ミッキーと酒場で話をしている時に、面白い話を聞いた。
「生きるためだけじゃない、目的を持っている冒険者、かー。まあ、私もその一人だけど、私はかなり特殊だからね。あ、そう言えば、この間アースから来た冒険者で、すっごく面白い人がいるよ。ラック、って言うんだけど、口癖が『女神エレクトラに復讐する』だからね。運だけすごく高くて他が弱いから周りからは馬鹿にされてるけど、私は結構好きかな。だって他の人と違ってギラギラしてるし」
女神エレクトラ、という名前を聞いて私は少し動揺した。
私に『暗黒魔法』を授けたのは女神エレクトラだ。私はこのことに全く納得がいっていない。
だから、もし再び女神に会う機会があるなら、一言言いたいとは思っていた。
「『女神エレクトラに復讐』、か……。その、ラックって人は今どこにいるの?」
「気になる? ラックは運が良すぎるから、うちの会社の派遣に出したら戻ってこなくてね。たぶん、一週間は戻ってこないんじゃないかな。今ラックがいるパーティーは遠征に出てるしね」
私は少し残念だった。その、ラックという人なら、もしかしたらパーティーを組めるかもしれないと思ったからだ。
スタードに来て嫌だったのは、私に変な意味で声をかけてくる冒険者が多いことだった。
ミッキーと一緒にいる時はハイがにらみをきかせてくれていたけど、1人の時はいつも気になった。
どうしてもしつこい人には『暗黒魔法』で少しだけ悪夢を見せたら、泣きながら去っていたけど……。
私は、私自身の容姿が平均以上なことは自覚している。
でも、私はこの世界に遊びに来たり、恋愛をしに来たんじゃない。
元の世界に戻りたいし、そのためにもこの世界や自分の課題を自分なりの手段で解決したいと強く思っていた。
でも、中には親切な冒険者もいた。
その人はスタード冒険者のまとめ役のクロさんという人だった。
クロさんのパーティーメンバーもみんな親切で、この世界に来たばかりの私にいろいろなことを教えてくれた。
「ここにいる冒険者は基本的に生活のために働いてるからなぁ。俺たちも含めて、スタードの冒険者は基本的には生活のために冒険してるから、しょうがない面もあるよな。あ、でも1人アースから来た面白い奴がいるぜ。ラックって奴で、本人は全然弱いんだけど、女神エレクトラ様に復讐する、って言ってるやつでな。今はどこかのパーティーでバイトしてるんじゃないか?」
ここで、またラックという地球出身の冒険者の名前が出たことに驚いた。
この世界で特に親切な2人が言うのだから、彼が他の冒険者と違うのは間違いないだろう。
スタードに来て2週間がたったけど、ラックという冒険者はギルドや酒場にやってこなかった。
会って話がしたかったけど、仕方がないことだ。
私はこの世界をもっと見てみたいと思った。
今の私に行けるのは、スタードの周辺都市、商業都市ヴェネッツと農水都市ユタカーだろう。
路銀のこともあるし、早く志を共にできるパーティーが欲しかったのだ。
次の日、私は商業都市ヴェネッツに向かうことにした。スタードで一緒に冒険したいと思う冒険者はいなかったからだ。
ヴェネッツには馬車で行くことにした。初めは所持金が気になるため、徒歩で行こうと思っていた。
でも、クロさんのアドバイスを聞いて、考えが変わったからだ。
「プリンは確かに強いし、大抵の相手は追い払えるだろうけど、それでも女の一人歩きは危険だ。都市と都市の間の街道は整備されているけど、それはあくまで馬車で行くことを想定しているからな。ヴェネッツに行くなら馬車を使った方がいい」
私はクロさんの親切に感謝した。クロさんは「さんはいらないから」と言っていたけど、私は最後までさんをつけた。そうさせるくらいいい人だった。
馬車に乗ると、私以外に2人と一緒に乗ることになった。
馬車は王族や貴族を除いて、基本的に複数人が一緒に乗るらしい。スタードとヴェネッツ間の馬車は少なくないそうだが、それでも馬車は貴重なようだ。
馬車に乗ったのはユタカーで買い付けをしてきた初老の男性商人と、その護衛という女性戦士だった。
2人は馬車の中で、この世界についてスタードでは聞けなかったことを教えてくれた。
「アースから来た異世界人ですか。こっちの世界は大変でしょうに。それにしても、素晴らしい理想をお持ちですなぁ」
「いえ、青臭いことを言っているのは分かっています。あの、少し聞きたいんですけど、魔族ってどんな人たちなんですか。会ったことないので知りたいんですけど」
魔族、と聞くと商人は嬉しそうだ。
「魔族ですか。ほんの数ヶ月前にはこっちにも魔族がいて、取引しとったんですけど、ええ人たちやったですよ。魔族は、見た目はほとんど人間と変わらないんですわ。まあ、人によってちょっと角があったり、尻尾があったりするぐらいで。あと、肌の色が我々と違って浅黒いんですわ。魔族はだいたい、落ち着きがあって話せる人ばかりでした。でも今は、王国内にはほとんど魔族は居ないんとちゃいますかね。王が宣戦布告した時に、みんな魔王領に退去していきましたわ。ほんま、私らには商売がしづらくて困りますわ」
魔族が人間と見た目が変わらず、落ち着いて話せる、と聞いて私はやはりと思った。
商人の話を信じるなら、魔族は人間にとって一方的に敵対する存在じゃない。
でも、私は魔族に会ったことがない。自分の目で魔族と見て、交流して、本当のところを知りたいと思った。
護衛の女戦士はランという名前だった。私よりは年上だけど、年齢が近いせいかいろいろな話をした。
「へえ~。この世界で困っている人を救いたい、か。すごい理想だね。でも、プリンって実力はありそうだし、全く実現不可能って訳じゃなさそうね」
「ありがとうございます。私はいずれ日本に帰りたいんですけど、ここでやりたいことをやってからにするって決めたんです」
「いいんじゃない。私は生活のために冒険者始めたんだけど、パーティーに合わなくってね。ほら、あたしってかわいいじゃない。だから、男が争い合って。嫌になっちゃったのよ。プリンもかわいいから、できれば女性の冒険者がいるパーティーか、あんまりないけど女性だけのパーティーに入った方がいいよ」
パーティーに入るならマジョさんのような頼れる女性がいるパーティーに入りたいと思っていたので、ランさんの言うことはとても参考になった。
「1人で心細くないですか?」
「ううん。あたし強いしね。商人を狙う野盗ぐらいなら何てことのないの。それに、1人の方が気楽でさ。でも、女の子はやっぱりパーティー組んだ方がいいよ。私は例外」
これ以外にも、ランさんは本当にたくさんのことを教えてくれた。
ランさんは特定の都市にいる訳ではないと言っていたので、なかなか会えないだろうけど、会ったらまた話がしたいと思える人だった。
夜は街道に設置されている有料の魔法テントに泊まった。
街道は本当に安全で、警備もしっかりしていた。だから、夜も安心して寝ることができた。
この魔法テントも魔族の発明だという。本当に魔族はすごい。改めて会ってみたいと思った。
5日後、商業都市ヴェネッツに着いて、商人そしてランさんと別れた。ランさんは今度は別の商人の護衛で王都エイガーに向かうらしい。
「またね、プリン。どこかで会えるといいね。あと、いいパーティーに出会えますように」
商業都市ヴェネッツに来てとても驚いた。
王都エイガーや辺境都市スタードとはまるで違う世界のようだったからだ。
文明が進んでいない異世界で、高い建物や魔法だという明かり、たくさんの商店と人に圧倒された。
私も東京生まれで都会には慣れているけど、異世界でこれは本当にすごい。
私はすぐに冒険者ギルドに向かった。女性がいるパーティーに体験で入りたかったからだ。
いくつかのパーティーに入って、一緒に冒険した。中には結構長い間冒険したパーティーもあった。
でも、やっぱり私は一緒にやりたいと思うパーティーに出会えなかった。
冒険者達が第一に考えているのはお金のことだ。
それは全く悪いことじゃないけど、この世界を変えたい、戦争を止めたいと考えている人がいないのが悲しかった。
私は最後のパーティーに別れを告げ、冒険者の酒場に向かった。
私がため息をつきながらパンを食べていると、気になる噂話が聞こえてきた。
「おい、スタードから来た冒険者達が、メタルンを狩りまくったって話聞いたか?」
「聞いたよ。冗談だよな。メタルンなんてまず出てこないし、会っても逃げられるだけだから、誰も行かないだろあのダンジョンには」
「それが、10体狩っただけじゃなくて、あのメタルインゴットを複数ドロップしたらしい。で、買い取りマスターに持って行ったら生涯VIP扱いになったってよ」
「すげーな、マジかよ。でもそいつら、めちゃくちゃ運が良くて強いんだろうな」
そんな冒険者がスタードにいたのか、と驚いた。
メタルンの話はランさんから聞いていて知っていたけど、とても狙って倒すようなモンスターじゃないと言っていた。だから、あのクロさん達でさえ、そんなことはできないはずだ。
すると、ご飯を食べている私の所に軽そうな男の人たちが来た。また嫌な勧誘か、夜の誘いだろう。
「なあねえちゃん、かわいいねぇ。俺らとパーティー組まない?」
「すみませんが、私はどのパーティーに入る気もありません。帰ってください」
そう言っても、男達が帰る気配がない。本当に面倒だ。
「そんな怒んないでよ。仲良くしようよ、ね」
見た目だけ優男の冒険者が私の髪に触れようとした。最悪。
「やめてください。私はあなたたちとパーティーを組む気はありません!」
「いいじゃーん、ねぇちゃんよ。あんたみたいなかわいい子がいるとやる気が出るんだよなぁ」
「いい思いさせてやるからさ、一緒に行こうぜ俺らの宿によぉ」
「これ以上言うと本気で怒りますよ」
こう言っても、男達は去る気がない。仕方ない、と思ったその時だった。
「いいから、ついて来なよ」
そう言って、真ん中のやたらでかい冒険者が私の腕をつかんだ。
本気で頭にきた。
腕を払いながら、小さい声で「暗黒魔法 悪夢」と唱える。
「おいやめろお前ら。大の男3人で、相手が嫌がってんのに何やってんだ」
「ぎゃぁあああああああ」
えっ?
今まで、助けてくれる冒険者はほとんどいなかった。いても、下心丸出しだったのだ。
でも、今の声は本気で私を心配してくれた声だった。
そして、なぜか聞いたことのある懐かしい声だった。
ここは異世界。そんなことあるはずないのに。
しつこい男達が倒れて、私を心配してくれた声の持ち主の顔を見たとき、本当に驚いた。
昔と違って成長した、だけど変わっていない、とても懐かしい顔だったのだ。
「えっ……。もしかして、幸夫くん?」
「え! も、もしかして、ひ、媛ちゃん、なの?」
やっぱり、幸夫くんだ。
兄の友達で、小学校の頃とても兄やゴウくんと仲が良かった。
スタードでミッキーやクロさんが言ってた運がものすごくいい冒険者って、もしかして幸夫くんのことだろうか。
小学校の頃の幸夫くんはとにかく悪運が強い、という印象だったから。
幸夫くんのいたテーブルを見ると、マジョさんがこっちを見てニッコリ笑っていた。
なんて偶然なんだろう。
これが、私の運命なの?
幸夫くんとマジョさんを見たら、私はどうしてもこのパーティーに入りたくなった。
異世界に来て1ヶ月、1人でつらいことや嫌なこともあったけど、ここまで来て本当に良かったと思える。
幸夫くんのパーティーに入ったら、私の本当の意味での異世界生活が始まる。
そういう確信めいた何かを強く感じながら私は2人を見つめていた。
読んでいただきありがとうございました。
第18話「これが、運命なの?」でした。
今回は勇者ユウの妹プリンのお話でした。
プリンはユウと同じく大企業の社長の父の元に生まれ、何一つ不自由なく育ってきました。
それを当然の権利と考えるユウに対して、プリンはもともと不平等な現実に疑問を持っていました。
でも、高校生の自分は無力だとも考えていたのです。
それが、異世界に召還され、図らずも強力な能力を持っていました。
そのため、ここでなら自分の正義が実現できると考えたのです。
ですが、その正義を実現するためのパーティーメンバーが現れませんでした。
そんな中、運命的に現れたラックとマジョ、ついでにパワー。
プリンはラックパーティーに入るのか、入ったらどのように活動していくのか。
そして、本当のラックやマジョを知った時、プリンは何を思うのか。
次回は来週日曜12時アップ予定です。お楽しみに。




