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預かりモノ

 雨はまだ止まないどころか、むしろ強くなっていた。俺たちは出来上がったぶっかけそうめんを前に、テーブルに向かい合う。


「いただきます」


 こんもり載せた野菜や豚肉などと一緒にそうめんをすする。簡単に済ませても良し、アレンジしても良し。そうめんは独り者の強い味方である。


「うんまいね、ぶっかけ」

「な。イケるだろ」


 線が細く整った顔をしていたあの頃の子どもは、高校3年生になった今、生意気な口調はそのままに低い声としっかりとした輪郭をもった青年になっていた。


「初めて会った頃はあんなにちっちゃかったのに。今何センチあるんだ」

「多分185ぐらい」


 (あまね)が答える。


「伸びたなぁ。俺より全然高いじゃん」

(よう)くんのつむじ、右巻きだよね」

「くそ、見下ろしアピールしやがって」

「頭わしゃわしゃしようか」

「絶対すんな」


 周はニヒヒと悪い顔をする。

 いや本当、俺なんかと過ごすより、若いなりに有意義な時間の使い方がいっぱいあるだろうに。


 あの結婚披露食事会の日、親族からはみ出していた俺に興味が湧いたのか、周は「葉くんにまた会いたい」と姉にせがんだらしい。


「葉ちゃん、お願い」


 まだお互い距離を測りかねている中、姉としては少しでも周の願いを叶えてあげたかったのだろう。姉家族の家庭内がそれで少しでも潤滑に回るのであれば、弟の俺に出来ることはしてやりたいと思った。

 とはいえ、在宅での作業がメインの俺に、どこか外へ遊びに連れて行くようなことはスケジュール的に難しく、結果「仕事の邪魔は絶対しない」という約束のもと、周を自宅へ招くことにした。


 初めて対面した時に受けた印象は“物怖じせずにズバズバ喋る子ども”というものだったが、うちにやって来た周はそれに加えて、とてもわきまえていた。


 好奇心にまかせて俺の領域に踏み入らない。

 自分で出来ることは自分でする。


 仕事部屋とリビングの間には扉一枚の隔たりがあったが、俺が作業で部屋に籠っている間、「あいつは本当にいるのか」と疑う程、静かだった。


 昼になれば一緒にご飯を作ったり出前を取って食べた。

 俺の作業がない日も、基本は部屋の中で過ごした。

 周が外出することを拒んだからだ。


「外の雑音を聞くぐらいなら、葉くんと話したり、葉くんたちの作る曲をここでずっと聴いていたい」


 幸せじゃないから好きだと言った曲を聴きながら、周はいつも何を考えていたのだろうか。

 気にならない訳ではなかったが、年上ぶって軽々しく触れるのはきっと良くない。

 周が姉からの大事な預かりモノである以上、俺は自分に出来るもてなしをやれる範囲でするだけだった。

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