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ヒトとイルカとホトトギス

 かつては満席を誇ったであろう観客席も、今では4分の1が埋まっている程度だ。プールを正面にして後方の座席を陣取る。


「おぉ……めちゃくちゃいい景色だね」


 (あまね)が驚いている。

 イルカたちが泳ぐプールの壁の向こうには紫外線が燦々と降り注ぐ砂浜と海が広がっていた。


「前の席だとジャンプの臨場感を味わえたりするんだけどさ、後ろの席はショー全体に加えて施設の更に奥の景色も眺めることが出来るから、俺はこっちの方が好きなんだ」


 イルカ、プール、砂浜、海、光。

 周はスマートフォンのカメラを立ち上げ、何枚か写真を撮った。


「色んな要素が一枚の写真の中に収まってて、なんか凄い」


 自分で撮影した写真を見て感動している。


「トレーナーたちが出てきた。そろそろ始まるぞ」


 これからの盛り上がりを期待させるかのような、明るい溌剌としたBGMが響く。


 観客の数に関わらずイルカたちは元気よくジャンプするし、トレーナーを背に載せては物凄い速さで進む。4メートルの高さに吊られたボールめがけて水中から飛び出し、見事口の先で突いた時は、その頑張りに拍手した。


 ショーは30分足らずで終わり、次々と観客が立ち去る中、俺と周はそのままぼんやりと座っていた。


「なんか、衝撃だった」

「それなりに面白かっただろ」

「面白いというか、ヒトとイルカってそもそも同じ種じゃないのにあんなに通じ合えるんだと思って。イルカはトレーナーさんとしっかり目を合わせてたし、トレーナーさんも愛情のある感じがしたなぁ。それに比べて同じ種でも全く分かり合えない人間って一体何なんだろ。いっそのこと滅びろよって思っちゃった」

「俺も大概ネガティブだけど、そこまで考えたことないわ」

「あ、(よう)くんは別ね。大量の隕石が落下してくるとか火山が噴火するとか、ヒトの力じゃどうにもならないことが起きても葉くんは生き残って欲しいし、僕より先に死ぬのは止めて欲しい」

「年齢的にどう考えても俺の方が先に死ぬだろ。体力もないからまず逃げ遅れるし」

「そこを何とか頑張ってよ。大人でしょ」

「都合の良い時だけ大人を持ち出すな」


 俺はゆっくり立ち上がって伸びをする。


「そろそろ腹減ったろ。飯でも食いに行こうぜ。外に売店もあるけど、この暑さでベンチに座りながらたこ焼きとかは嫌だよな? 確かレストランがあったハズだから、そっちに行くか」


 歩き出そうとすると、パンツの後ろポケットをグッと引っ張られた。


(あぶ)な。何だよ」

「忘れてるよ」


 ん、とばかりに左手を差し出している。


「あー……」

「気、抜いてたでしょ」

「いや、そういう訳じゃないんだが……」


 明るい場所に晒されながら繋ぎ直すのは、なかなか勇気がいるのだ。単に繋ぎ慣れていない相手に対して感じているだけであって、これに関しては相手が女性だろうが男性だろうがあまり関係がない。俺の中で”触れる”という行為には、どことなく後ろめたさを伴うから。


 こちらの逡巡を見て取ったのか、周が提案してきた。


「手を繋ぐ理由がいると言うのなら、作ってあげようホトトギス」

「下の句のリズムが悪いぞ」

「僕、ここ初めてだからどこに何があるのかわかんないんだよね。だからさ、迷子にならないようにお昼ご飯の場所まで連れて行ってよ」


 座ったまま、小首を傾げて上目遣いであざとく言う。さっきまでの澄ました顔はどこにいったんだ。


「……はいはい。お手をどうぞ」


 差し出した右手に、周が左手を載せる。もう片方の手で軽くパンツを整えると「それじゃあよろしく」と、周は笑った。

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