96 第11章第3話 響く除夜の鐘
「あたし……ちょっと……おトイレ……行って来る」
香子はんが急に立ち上がって辺りをキョロキョロし出したんや。眠ってはおらへんけど、こりゃ結構酔ってはるんとちゃうやろか?
「ウチも一緒に行こうか?」
「ええよ、あたし……1人でだいひょうぶよ……ここは~あたしの~かいしゃ~やの~ウヒッ……」
なんとか1人で行けるみたいやわ。ウチも少し酔うてきたんで、この辺でコーラにしとこっかな~
しゅっぽ・・・・・こぽこぽこぽ・・・・・トン
「うぐっ……うぐっ……うぐっ……ぷっはーーー! 最高やわー!」
ちょっと酔いがまわって火照ってきた胃袋に、キレッキレの炭酸が浸みわたるのね~喉もお腹もスッキリやわ! 食欲がまた湧く感じ、たまらんわ。
「お! 伽供夜君、いい飲みっぷりしてますね~」
「あははは……社長はん。これは、コーラですさかいに」
「いいじゃありませんか、お好きなものを飲んでください。きっと、そうすればすべてが楽しい思い出になりますから」
「おおきに……社長はん。ウチ、ここに来てよかったわ」
「え? 急にどうしたんですか?」
「だって、ウチにしたら、この異次元探偵社での毎日は、すべてがいい思い出になってるんやさかい」
「……そうですか……それは良かった」
「ウチ、来年も頑張るさかいに、よろしゅうお願いいたします」
「こちらこそ、無理をいっちゃうけど、よろしくね、伽供夜君」
ウチは、口には出さへんかったけど、社長はんとおんなじ望みを持ってるんや。いつか、あの赤い地球を元の青くて奇麗な澄み切った地球にするんや。たぶん、ウチはそのためにここに来たんやと思うようになっていたんや……。
しばらくして香子はんが戻ってきたんや。
「お帰りなはい、香子はん」
「ただいま、かぐやちゃん。あたし、なんだかお腹空いて来ちゃった。今度は、暖かい物が食べたいなあ~」
「じゃあ、そろそろお蕎麦を茹でましょうか? みんな、カシワ蕎麦でいい?」
「おお、記誌瑠のカシワ蕎麦は最高だ。なんせ、鶏肉が柔らかいから美味いんだ! あ、俺、卵も入れてくれよ!」
「はいはい、頑貝君は生卵だったわよね……えっと、博士は茹で卵よね。他は、温泉卵で良かったかしら?」
「ああ、頼むよ記誌瑠君」
他のみんなも記誌瑠はんの提案に賛成したの。ウチは、よう分からんけど、温泉卵ちゅうやつになったわ。
なんでも、大晦日、もうすぐ年が明けるちゅう時に、この会社では蕎麦を食べるんやて。なんか大昔からの縁起担ぎらしいけど、誰も意味なんか知らんってゆうてはる。
ま、ウチは、美味しければええとちゃうかって思うし。
「きしるちゃ~ん、あたしのお蕎麦、ナルトも多くしてね! お願い!」
「はいはい、香子さん、分かってますよ」
「おやっ、香子ちゃん、引っ付くの止めたみたいだね」
「そういえば、さっきトイレから帰ってきてから、普通に1人で座ってはるよ。それに、なんか酔いも少し醒めたみたいやし」
「そっか、眠気の成分が排出されれば、引っ付きの効果も無くなるけど、同時に酔いも醒めるんだ。こりゃ、新しい発見じゃ!」
博士はんの作った薬、なんか便利なんやちゃうかな? おしっこすると酔いが醒めるんなて、あの薬、ウチももろうとこかな。
そんなこと考えてると、ウチもトイレに行きとうなってきた。
「ラビちゃん、ラビちゃん……起きて! トイレ行くわよ!」
ウチな、ラビちゃんのせいにして、トイレに行くことにしたんや。まだ眠ってるラビちゃんを小脇に抱え、廊下に出たんや。
ごーーん…………
窓から外を見ると、真っ赤な地球が見えたんですわ。夜空は、宇宙の果てまで見えるような濃紺の空間や。たくさんの金色や銀色にきらめく星が、地球の向こうにはあったんや。
『……そっちでも除夜の鐘は鳴るんだね……』
「え? だれ? ラビちゃん?」
ラビちゃんから声はすんのやけど、いつものラビちゃんの声じゃあらへんわ。この声は……
「お、お父様? お父様やの?」
『カグヤ、元気にしていたかね? みなさんとは仲良くやれているのかい?』
「お父様! どうして? …………はい、みんなとってもよくしてくれてるわ……」
『お前も楽しそうで良かったよ……自分の信じたことを思いっきりおやり。いつでも、傍にいるからね……』
「うん、おおきに! ありがと!」
『カグヤちゃん……カグヤちゃん、あまり無理をしないでね』
「お母様? お母様なの?」
『そうよ、私だっていつも傍に居るからね。頑張りなさいね』
「う、うん……がんばる」
『寂しくなったら、いつでも帰っていらっしゃいよ』
「……うん……ウチ、みんなの役に立ちたいねん。がんばって、地球を元に戻したら帰るから、待っとってね、お母様!」
『分かりましたよ……それじゃあ、気を付けてね……』
「お父様、お母様………………う、う、う、うううう」
『きゅるるる……カグちゃん? どうしたの? ……アタチ、おしっこ……出ちゃう~』
ウチは、いつものラビちゃんを抱えてトイレに急いだんや。そして、個室に入って『音姫ボタン』を押してから、……やっぱり少し泣いてしもうた……。
ゴーーン…………
(つづく)
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