95 第11章第2話 博士の妙薬?
記誌瑠はん、ぎょうさん頑張りはって、こないな珍しいご馳走作って! ほんまに美味しいわ~
「なあ、記誌瑠はん。取っ手のないマグカップみたいのに入ってる、この黄色いぷりぷりしてるのなんやの?」
「それはね、『茶わん蒸し』っていうのよ。中にいろんなものが入ってるわよ、食べてみてね」
うん、この黄色いのは卵やね。甘い味が付いてるわ。それに、中をほじくったらいろんな物が出てきたやん。
「鶏肉、お芋、かまぼこ、……あ、栗も入っとるやね」
ウチは、嬉しゅうてたまらんようなってきたわ!
「ワシは、何と言ってもこのお刺身じゃな~。これで、熱々の日本酒を飲むのが最高じゃ」
博士はんも嬉しそうやわ。ウチもお刺身を食べてみたんや。なんやこの美味しさ! そう言えば、ウチと香子はんは、竜宮城でご馳走を食べ損ねたからやな。あそこのお刺身もきっと美味しかったんやろな?
「うーん、美味いなあ~この唐揚げは。やっぱり記誌瑠の作る唐揚げは最高だ!」
「まったく、頑貝君は肉好きよね。今日はね、いろんな唐揚げ作ったから試してよね」
「おお! ……ん、これは豚の唐揚げか? ちょっぴり辛みも利いてて美味いぞ」
「んとね、こっちがザンギよ。昔は、地球の北海道ってところでよく食べられてたみたいね」
「へー、鶏肉の周りが衣じゃないんだ。お、この肉の表面に甘辛の美味しい味が付いてるぞ。うぐっ……うぐ、うぐ……おお、それに肉の中まで味が浸透してるなあ、こりゃあ美味い。おお、ビールによく合うなア」
ウチも食べてみたんや。外側の肉も柔らくて食べやすいわ。この甘辛のタレと一緒にご飯に乗せると『ザンギ丼』っていうやつが出来るみたいやの。ウチ、締めのザンギ丼ってやつ食べてみよっかなあ。
「社長~美味しいですね、お料理もお酒も……」
「ホントに眠らないんだね、香子君。宴会の席で、こんなに君が起きてるなんて初めてじゃないかい?」
「モー―社長ったら、そんな嬉しいこと言って……、じゃあ、あたしがこのザンギを食べさせてあげるわー、はい、あーーーん……」
「香子君? 眠らないけど、酔ってはいるのかな? ……それに、うぐっ…うぐ、あむ……」
なんや香子はん、べったり社長はんにくっ付いてるわ。嬉しそうな顔して、社長はんの口に肉を放り込んではる。
「どうしたんやろな?」小声でウチはラビちゃんに聞いてみたんや。そしたら、「グーぐぐー、スピー」っと、寝息が聞こえてきたん。
うっわ、ラビちゃんがもう寝てるんやん。……ラビちゃんったら、嬉しそうな笑顔のままご馳走の前でひっくり返ってイビキかいてんねん。よっく見たら、ラビちゃんの目の前にはお猪口もあったんや。
あーあ、ラビちゃんがお酒を飲んで気持ちよくなったんやね。今までの香子はんみたく、そのまま寝ちゃったんだ。ま、寝顔が可愛いし、煩くないから丁度ええかもね。
「あーー、やっぱり、まだダメかな~」
「ん? 博士はん、どうしたん?」
水野博士はんが、社長にくっ付いている香子はんを見ながら、小声で呟いたんや。
「なあ、伽供夜ちゃん、香子ちゃんのお酒に混ぜた薬な、まだ未完成だったんだよ」
「いやあ、大丈夫やったよ。見なはれ、あんだけお酒飲んでも、まだ香子はん起きてはるし」
「うーん、起きてはいるんだけど…………あれさ」
「あれ?」
「誰かに引っ付いちゃうんだよ……」
「引っ付く?」
そう言われれば、さっきから香子はんは社長はんにべったりくっ付いているんやね。しかも、本人は嬉しそうに少し赤ら顔でいろいろ世話焼きしてるし。
「そうなんだよ。確かにアルコールの中の睡眠物質は分解されて体には吸収されないんだけど、代わりに睡眠物質が別の物に変化するんじゃ。その物質がなんなのかまだよく分からんのじゃよ」
「へえーそうなん。それで、その物質と『誰かにくっ付く』って、なんや関係があるん?」
「どうもその物質は、体には吸収されないけど、排出されるまで磁石みたいな影響を出すみたいなんだ」
「え、そんな磁石が体の中でできるなら、危ないんちゃうの?」
「あ、それは大丈夫なんだ。その物質は、ただ周りの人間にしか反応を示さないし、体の外に出てしまえば全くその影響はなくなるんだ」
「えっと、つまり、あの薬を入れたお酒を飲むと、おしっことして排出されるまでは、誰かにくっ付いていたくなるちゅうことやの?」
「その通りなんだ。誰でも、見境なくくっ付いてしまうんだよ」
「ふうーん、そうなんや。……あ、でも博士はん、大丈夫やと思うわ。放っておいても平気やし」
「そうかい? 伽供夜ちゃんがそう言うなら、まあ、そのうちにちゃんとした薬を完成させるから、それまでよろしく頼むよ」
「ええよ、ウチに任せてな!」
だって、香子はんったら、さっきからくっ付いてるのは、社長はんだけやからな。社長はんが面倒みてくれればそれで済むんやないかな。なんか社長はんも嬉しそうやし。
(つづく)
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