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9 第1章第8話 推しになる決意

「ふー。はあ、はあ、はあ……タイ江マネージャー、ようやく夜の公演がすべて終わりました!」

「そうね、よくやったわ!」


「真夜中ぶっ通しの夜公演は、やっぱり疲れます……もう明け方ですし、少し休ませてもらってもよろしおすか?」

「何を言ってるのヒラちゃん! もうすぐ朝の握手会よ。見てごらんなさい! お客さんはもう並んでるわ! このABCD44の推しのところにみんなが並ぶの。ここでも、一番におなりなさい! いい!」


「はい、タイ江マネージャー。ウチ、頑張ります!」






 ・・・・・・・・・・・・・・・・


「おや、何だか会場の雰囲気が変わってきたわね。踊り子さん達の休憩中に会場のお客さんが、隣のブースホールへ移動したわ。私も行って見なきゃ」


「おう、記誌瑠(きしる)

「あ、頑貝(かたがい)君。どうしてここに」

「何言ってんだ。次の昼公演までが勝負じゃないか。今から握手会に決まってるだろ!」


「頑貝君が張り切って握手会参加してどうすんのよ! 浦島太郎さんはどうしたのよ?」

「ああ、奴なら伽供夜(かぐや)に夢中さ。ほら、あそこ、もう握手会の先頭に並んでるぜ!」



「うっわ、こんな広いブースが、人で……あ、イヤほとんどが魚か?……びっしりだわ。……あ、いたいた、浦島さん。伽供夜さんのブースに並んでるわ! それにしても、今、明け方の6時よ。まったく、竜宮城って休み無しなのね。ブラックだわ!」




 ・・・・・・・・・・・・・・・・

「……あ、ウエイトレスの徹君……ちょっとちょっと」

「タコ社長、何ですか? 今、握手会で並んでるので忙しいんですから!」

「何、現場に馴染んでるんですか? しかも、並んでるのヒラメ伽供夜ちゃんのとこじゃないし」


「いいじゃないですか。俺だって、推しの一人や二人いますから!」

「何言ってんの、自分の趣味はいいから、仕事してよね。それより、ちょっと……『ゴニョゴニョゴニョ★?!#‘&$………』と、いいかい?」


「はい、分かりましたタコ社長。任せてください!」






「タコ社長、大丈夫ですか? こっちが本来の任務なのに、頑貝ちゃんったら、自分の趣味一直線じゃないですか。メイドさんのエプロンも気に入ったみたいですし……」

「あははは……大丈夫でしょ。若いうちは、何でもやってみるものだよ」







 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「浦島様、調子はどうですか?……握手会はもうすぐですよ」

「ありがとう。僕は、握手会が初めてなんだ。今までは、そんな気が起きなくてね。……でも、ヒラメ子ちゃんは違う! 断じて違う! 僕は、いっぱい握手してもらうんだ!」



「あー、浦島様、それは無理でしょうね」

「え? 何を言ってる、このピンクエプロン!」


「いやあ、見てください、この行列を! 夜の公演でたくさんのお客様が、ヒラメ子様に魅了されたのです。握手は、1度に10秒と決まっています。2度目を希望する場合は、列の最後尾に並び直さないといけません。……まあ、どう見ても並び直すとすると1時間以上はかかるでしょうね」


「そ、そ、そんなに…………。確かに、今、僕は先頭に並んでいるけど、僕の後ろはどこまで並んでいるのかさえ見えやしないよ」

「ま、たった10秒でしょうけど、どうぞお楽しみくださいな。……フフッ……」



「ん? 何、その笑い?」

「あ、いえ、別に……フフッ……」


「あ! また、笑った! 何? 何かあるんだろ?」




「ま、浦島様、そんなにヒラメ子様に夢中なのに、たった10秒しか会えないなんてね……フフッ……」


「仕方ないだろ! 握手会は、10秒しかダメなんだから」

「そうですよね…………握手会は…………10秒ですものね」


「ん? 握手会は?……ひょっとして、握手会の他に、ヒラメ子ちゃんに会える方法があるのか?」

「方法ですか?……フフッ……無いこともないのですが……」



「何! ヒラメ子に会える方法があるなら、教えろ! 今すぐ、教えろ! このピンクエプロン!」

「じゃあ、内緒ですよ。ゴニョゴニョゴニョ★?!#‘&$……。いいですか! 絶対内緒ですから、こっそりヒラメ子様に頼むんですよ!」


「お! おお!……わかった!」







 ・・・・・・・・・・・・・・・・


「ふうーー。タイ江マネージャー、たった10秒の握手でも、疲れますねえ」

「そうですよ、ヒラちゃん。たった十秒でも、心を込めて、湧き出る笑顔。力を入れ過ぎず、柔らかく包むように。お話は聞くだけですよ。返事は、短く『はい、頑張ります!』です」


「そうですな、たった10秒やと、それが限界ですな」


「じゃあ、次の人入れますよ!」





「ぼ、僕は浦島太郎。僕の推しはヒラメ子ちゃんです。どうしてもヒラメ子ちゃんといっぱいお話がしたいので、ぜひ、僕もABCD44に入れてください。歌も踊りもやったことないけど、ヒラメ子ちゃんのために死ぬ気で頑張ります。ヒラメ子ちゃんの隣で踊れるようになってみせます! どうか、僕をABCD44のメンバーに加えてください!」


「そこまで。10秒、終了です!……はい、ヒラメ子、お別れのご挨拶!」


「はい、がん……」


「やったー!!『はい』って、言った! 言った! 僕、ABCD44に入れるんだ!」






「あれ? タイ江マネージャー、ウチ、何か余計なこと言うてもうた?」


「んーー、大丈夫でしょ! まあ、成るようになりますから」



 ◆竜宮城の乙姫様のイメージイラスト

挿絵(By みてみん)





(つづく)



 最後までお読みいただけて、とても嬉しいです。

 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


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