85 第9章第16話 神になって?ミッションクリア
〔……諸君、どうだったかな?……弱い奴が誰だか分かったか? さあ、弱い奴を滅ぼすということでいいな!〕
不気味やわ。真っ暗な空から聞こえてくる声なんて……
「いや! 待ってくれ! 確かに俺達は負けた。人間のせいで俺達鬼も弱っちくなってしまったんだ!」
なんか鬼吉はん、自分達の弱さを人間のせいにしてしもうとるな。ええのかな?
〔……じゃあ、お前達鬼も一緒に滅ぼすことにするか? どうだ?〕
あの怪しい声が、今度は鬼も滅ぼすとかゆうてるし。……いったい、あの声は何様のつもりやの?
「ふんっ、俺達鬼は別に滅ぼされても構わんさ。どうせ、俺達はお伽噺の世界の住人なんだ。居ても居なくてもそんなに重大なことじゃない!」
「え? 何ゆうとるん? そないなことゆうて、鬼が居なくなったらどうするん?」
「あー、ビキニ姉ちゃん、まあ落ち着いて……」
「そないな落ち着いてる場合やないんとちゃうん? 赤はん?」
「いや、伽供夜君。ここは、当事者の鬼の力を信じよう」
「え? 社長はん? ……社長はんもそないなこと……」
いつの間にか、社長はんを始め、異次元探偵社のみなはんもヤグラに上っておったの。多少狭くは感じたんやけど、下におる鬼達もじっとこの高いヤグラを見つめてるの。
ウチ、高いとこは平気なんやけど、この緊張感には思わず身震いしてしもうたわ。
「ただな……俺達だって、このお伽噺で、人間に散々やられてるけど、ちゃんとそれが役目だって分かってんだよ! 人間と鬼はな、それぞれ役目があって、お互いに見えないところでは繋がってんだ!」
〔ふふふ……どんな繋がりがあるというんだ? こんな情けない弱い人間と繋がっていたって仕方ないだろ?〕
「人間はな、情けなくなんか無いんだ!」
赤はんが、急に大きな声で空に向かって叫びはったの。
「赤はん、鬼やのに人間の味方するん?」
「何言ってるビキニねえちゃん。俺は、赤鬼なんだ。泣き虫だけど、昔っから人間と仲良くしたいと思っている赤鬼なんだ! それはな、人間が大好きだからさ」
「確かにお伽噺では、そうやけど……」
「俺達鬼はな、人間に立ち向かいながら、人間にいろんなことを教えてきたんだ」
「鬼吉はん、どういうことなん?」
「人間はな、俺達鬼と戦いながら、世の中の恐ろしい物とか怪しい物とかの感覚を覚えるんだ。そして、鬼と戦うことで、苦難に立ち向かう強い心を育てて行くんだ。だから、俺達は人間の成長には無くてはならない『鬼』なんだよ!」
「そうだ! だから人間は、自分だけでなく大勢の仲間のために戦って、畏怖を抱く『鬼』から守ろうとするんだ」
〔……それなのに、人間があんなに腑抜けになっていていいのか?〕
「それは、今回の鬼サミットで分かったよ! これは、俺達鬼にも責任があるんだ! そうだなみんなーーー!」
うおおおおおおーーーーーーーーーー!
「なんや? なんや? みんなが手を上げて、叫んではる!」
「これはな、みんなが分かってくれたってことなんだ! ありがとうな、ビキニ姉ちゃん! いや、トラジマシスターズ!」
「どういうことなの? ウチにはさっぱり分からへん」
『きゅるるる……(大丈夫よ、かぐやちゃん! 今回のミッションはどんなだったっけ?)』
「そりゃあ……鬼サミットをぶっ潰せ……って! え? 鬼サミットが、無くなるんやなくて、違う意味になるようにするってこと?」
『きゅるるる……(まあ、知らんのは、カグちゃんだけかな? うふっ!)』
「え? 社長も、博士も……笑ろうてはる?」
〔それじゃあ、お前達、鬼はこれからどうするんだ? ん?〕
「決まってるじゃないか! 俺達、鬼の力で、もう一度人間のまっとうな強さを思いださせてみせるぜ!」
〔本当に、できるかな? 弱っちいお前達で……ふふふ〕
「うるせいやい! 確かに俺達は弱かったけど……逆に鬼の強さも分かったんだ! なあ! みんな!」
うおおおおおおおおおおおおーーーー!
また、下で見とった鬼達から歓声が上がったんよ。
「あ! トラよ!」
不意に1人の鬼が、頭上を指差して叫んだんや! ウチも慌てて空を見上げると、そこには黄色に黒の縞模様が入った大きなトラが浮かんどったんや。
「なんや、あれはウチらの……ウグッ」
ウチは、急に口を塞がれたんや。見ると、社長はんの手やったんよ。ウチは、びっくりしてしもうたやけど、急に体が浮かび出すもんやさかい、慌てて社長はんにしがみ付いてしもうたわ。
「すまんな、伽供夜君。もう少しだから少し大人しく頼むな」
そういう社長はんは、少しニヤケテいたんやけど、隣の香子はんも嬉しそうに社長はんにしがみ付いとったわ。
「おーい! やっぱり、お前達は帰るのかー? ありがとうー! お前達のお陰で、俺達はこれからも頑張るからなー」
「なあ、社長はん? あの鬼達、何いうてんの?」
ウチらは、空中に浮かびながら上空に留まっているトラ……あ、これはウチらのトラ型シャトルな……に向こうてるんやけど。
なんか知らんが、下の方で鬼達が一生懸命手を振ってるわ。別れを惜しんでるような感じもするけど……あ、赤さんがなんか言うてはる。
「俺達、姉ちゃん達を見習って『トラジマクラブ』を作るよ~。トラジマクラブで、人間をきっと蘇らせてみせるから、見ててくれー!」
〔あ、あ……おおー鬼達よー……頑張るんだぞー……〕
うおおおおおおおおーーーーー!
なんや、また鬼はん達が歓声を上げてはる。しかも、みんな跪いてウチらを拝んでるような恰好しちょるし。
〔みなのものー……くれぐれも頼んだぞーーーーー!〕「ふー、これでお終いかな?」
「社長、お疲れ様でした」
ウチらは無事トラ型シャトルに乗り込めたんやけど、さっきの声は社長やなかったかな?
「社長はん、今、なんかしゃべってはりました?」
「ん? ああ、最後の締めな」
「最後の締めってなんですの?」
「ほら伽供夜、見てみろ。鬼達が喜んで手を振ってるだろ? あれはな、俺達を神様かなんかと勘違いしてんだよ」
「勘違い? え?」
「すまんのう伽供夜ちゃん。今回の計画な、途中からワシら男組でちょっと手直ししたんじゃよ」
「だってよ、女子は戦いの出番があるけど、俺達はまったく暇だったんだよ」
「え? ほな、あの焚火や夜空から聞こえた声って、社長はんの声やったん? ウチ、分からへんかったわ……ほな、香子はんや記誌瑠はんは知っとったんか?」
「ううん、かぐやちゃん、あたしらも知らんかったんだけど……でも、社長の腹話術は何度も懇親会で聞いてるからね。すぐに分かっちゃった。黙っててゴメンね、えへっ」
「私も気がついたけど、伽供夜さんが上手い具合に鬼達に信用されたので、黙ってた方が不自然な演技にならなくていいと思ったのよ」
「ふぁあーー、そうやったんや。ウチだけ、本気に心配してしもうたわ……あの声、本当に怖かったんよ!」
「いや、ホントに申し訳ない、伽供夜君。でもね、君のお陰で、全てが上手くいったんだ。あの鬼達が最後に言っていた『鬼と人間の役割』っていうのは本当なんだ」
「じゃあ、鬼が居たから、人間はいろいろなことを感じたり知ったりして成長できたってことなんやね」
「まあ、実際に鬼が居たというより、お伽噺を通して知ることができたってことなんだけど」
「そっか……だからお伽噺がオカシクなった時に修正してたのが、ウチらの仕事やったんや…………でも、そないなことせえへんでも、誰も困ったりはせえへんと思うんやけど」
ひゅーーん……ガシャ……………ピンポーーン しゅーーーっ。
「さあ、伽供夜ちゃん、ワシらの世界に戻ってきたよ」
「見てみろよ……あの地球」
頑貝はんが、シャトルの窓から見える真っ赤な地球を指差しはったの。ここは、月の上。いつもならそのまま会社の地下の倉庫に戻ってくるんやけど、今回は月面ドームの外に着地したんや。
「あの赤い地球は、もう人間が住めへんようになったんやろ?」
「そうさ……伽供夜は誰があんな地球にしたと思う?」
「え? 自然にそうなったんとちゃうの?」
「あれはね、その昔……鬼を恐れなくなった人間達が地球を壊してしまったんだよ……」
ウチは、そういう社長はんの言葉を聞いても、意味はよう分からんかった。でも、悲しそうな社長はんの顔を見れば、えらい大変なことやということはよう分かったんや。
(第9章 完 ・ 物語はつづく)
最後までお読みいただけて、とても嬉しいです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。




