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77 第9章第8話 鬼の目から見たら

 ウチらは、赤く燃え盛る焚火(たきび)を見ながら、司会の放った「議題」っていう言葉に神経を集中させとったんや。それは、周りにおるたくさんの鬼も同じやったみたい。一瞬、その場から雑音がなくなってしもうた。聞こえるんは、燃え盛る焚火のパチ、パチっていう音だけやったわ。


 〔……我々、鬼は……〕


 静寂を破り鬼のアナウンスが響いたわ。


 〔人間に勝たなくていいのだろうか? 本当に負けてばかりの鬼でいいのか? 最早こんなに弱くなった人間は、我々鬼が退治した方がいいのではないか? 今夜サミット1日目は、それを議論して欲しい〕


「「「……「「「 うわわわわわわわわわーーーーー! 」」」……」」」



 アナウンスが終わると、会場の鬼達が一斉に叫び声を上げたわ。中には立ち上がる鬼もおったけど、みんな歓喜の笑顔やったわ。

 なんや、会場が異様な熱気を帯びたみたいに浮かれ上がったんや。



「な、なんか、怖いわ……」


 記誌瑠(きしる)はんが、ちょっと震え出したんや。空気が殺気だってたみたいやった。ウチは、香子(かおるこ)はんと一緒に記誌瑠はんの傍に行き、両脇から支えたんや。


「大丈夫や、しっかりしようや。べ、別にウチらが……『にんげん』ってわけじゃないんやから……な、香子鬼はん」

「そ、そうよ。たいじされるのは、『にんげん』な、なんだから、……そうよね、かぐや鬼ちゃん」


「なーに、お前ら、怖がってんだよ~。こんなのいつものことじゃないか? 俺達鬼は、すぐに熱くなるんだ……いや、すぐ他の鬼のいうことを信じちまうんだ」

「まあ、そうだな。赤の言う通りだ。だから、今の話を聞いた奴らはみんなすぐにでも、人間を退治しに行くみたいに思ったかもしんないんだ」

「俺もそうだけど、鬼は熱しやすいんだ」

「だけど、黄さんみたく、すぐに覚めるんだよ。やる気は持続しないんだ」


「あははは、嬉しいね」

「黄さん、褒めてないんだけど……」

「あ、そっか? だけど、俺達3人はいつも違う考えを持ってやってきたんだ。だから、他の鬼とはちょっと違うかもな」


「村人と仲良くなりたい赤さん」

「そんな俺を助けて、悪役になりきって暴れる青さん」

「両方の味方をしながら、適当に怠ける黄さん……まあ、俺達って、ほんと適当だからなあ」


 そないなこと言いながら目の前の赤、青、黄の鬼さん達は、そんなに熱くもなってへんような気がした。


「なあ、赤さん達、あんたらそれでええんか? このままやったら、みんなで人間退治せなあかんくなるんやで」


「ああ、そのことなら大丈夫だと思うよ」

「まあ見てな……鬼の中にも賢い奴はいるんだよ」




 あちこちの鬼達も、近くの鬼とそれぞれいろんな話をしているようやった。ウチらみたいなひそひそ話が、ようけ聞こえてきたんや。


 そのうち、1巡目の鬼列の中から1人の鬼が立ち上がって、話し出したんや。



「俺は鬼ヶ島のレジャーランドで働いてる鬼蔵だ。……確かに、桃太郎の奴は最近弱くなって、まともに鬼ヶ島で戦えないから困ったんだ。仕方なく、鬼ヶ島をレジャーランドにして誘い出すことに成功したけど、もう桃太郎は戦えるヒーローじゃないな。奴は、遊具を楽しんで景品もらって帰っていったぞ」


「それなら、まだいいさ。俺は、一寸法師と戦った鬼吉だ。俺がお姫様をさらったんだけど、一寸法師の奴は腰を抜かして逃げて行ってしまったさ。お姫様を1人残してな」


「そうだな、だんだん人間は弱くなってきたよな」


「弱いだけならまだいいさ。俺は、節分の時の鬼平だ。俺は、節分の時しか姿を見せないけど、人間の奴は節分でもないのに豆をぶつけるんだぜ」

「え? お前、節分の日以外にも豆をぶつけられるのか?」

「あ、いやいや、俺じゃないんだ。同じ人間どうしでやってるんだ。それも、1人の人間に大勢の人間が豆をぶつけて喜んでるんだよ。なんでも……メールとかSなんとか言ってたなア」

「ああ、それなら俺も聞いたことがあるぞ。ぶつけられた人間は、赤くなって燃えるんだろう?」

「ああ、炎上とか大炎上とかいうらしいんだ」

「ひでえなあー。鬼よりひでえじゃないか?」


 うっわー、なんか人間の暴露話みたいやね。こんなん言われたら、やっぱり人間なんていらんってなるんやないかなあ。


『きゅるるる……(カグちゃん、ここにいる鬼達なあ~きっと地球が、あんなになるちょっと前にいたんじゃないかなあ)』

「多分そうじゃ、ラビちゃんの言う通り、赤い地球が出来上がったのは、こんな人間が多くなったからなんじゃ」


「え? 博士? ラビちゃんの言葉、わかんの?」

「ああ、すまんすまん。その翻訳機を作ったのはワシじゃぞ。ほれ、ワシだってイヤホン付けとるわい……あ、ただし、みんなには内緒だからな」

「う、ううん」

『きゅるるる……(きっと、この鬼達はあんな地球にしないために、頑張ろうとしてるのよ。こんなサミットを開いてね)』


「ほんなら、本当はこのサミットに出なあかんのは、人間の方ちゃうん?」

「ま、そうなんだけど、ここはワシらが代表で、少しサミットを観察した方がいいかもな」

『きゅるるる……(そうね、あんまり焦らないでねカグちゃん。落ち着いて、成り行きを見守りましょう)』



 ウチ、だんだん心配になってきたわ。ますます人間の立場が悪くなるんとちゃうかなあ。……まあ、ウチ、今はトラジマビキニの鬼姉ちゃんやし、ええことにしとこか。




(つづく)




 最後までお読みいただけて、とても嬉しいです。

 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
ここでの豆ってメッセとかコメントとかの位置付けですかね〜。 うーん、世知辛いのは確かに。 でも鬼も人間派と鬼派の二つに思想統制があるみたいだし、どっちの世界も少しやだなぁ〜(苦笑)
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