75 第9章第6話 謎のサミット議題
「なあ、青はん? なして鬼派は人間を滅ぼそう思うてんの?」
「そりゃあ、人間さえ居なければ人間と同じような生活をしたいなんて思わないんだ。すべては人間がいるからダメなんだよ!」
「あいやあー、そない言われるとそうかもしれんけどなあ……」
そんなん言うたら、人間かて鬼を滅ぼそうって思うんちゃうやろか。だって、昔から人間は鬼を恐れて怖がってたもんな。居なくなったら、世の中平和になるやないか?
おっと、口が裂けても鬼の前でこないなことは言わんほうがええな……。
「それじゃあ、人間派は鬼の敵になるのかい?」
「何を言ってるだ、徹鬼? お前だって人間派だろ? 人間派ってのは、人間みたく生活したいってことだ。だから、人間が居たら邪魔になるじゃないか!」
「え? なんでだよ。人間が居るからこそ、人間みたいな生活が出来るんじゃないのか?」
「あーあ、まったくお前は分かっちゃいないんだな。俺達鬼は、もうずっと人間と戦ってきたんだよ。だから、人間がどんな生活をしてきたかは、ぜんーんぶ知ってる。だけど、人間の居るところで、人間みたいな生活を始めてみろ、人間達はどう思うか分かるか?」
「そうだな……鬼が人間の真似をしてるって思うかもな」
「まあ、それだけならいいけど、きっと人間はそんな鬼を嫌ってさ、鬼を滅ぼそうと戦いを仕掛けてくるんだよ。それで、俺は先に人間を滅ぼした方がいいんじゃないかと思うんだ」
「え? 待って! じゃあ人間派も、人間を滅ぼすん?」
「うん、まあ、そうだな」
「じゃあ、どっちも同じじゃん! なして、協力してやらへんの?」
ウチ、びっくりして叫んでしもうたわ。そしたら、横から頑貝はんがウチを引っ張るんよ。ウチは、小声で聞いてみたん。
「なしたん? 頑貝はん」
「いいから、お前は黙っておけよ。お前がしゃべると、人間みんな滅ぼされそうだわ」
「へ? そうなんか?」
そう言われて、赤、青、黄の鬼は、何やら意気投合して「協力か……」とか言い出してるわ。このままだと、鬼が全員で人間を滅ぼしに来るかもやわ。
「なあ、赤さんよ、それでこれから始まる『鬼サミット』っていう会議で、どうやって人間を滅ぼすか相談するのか?」
頑貝はんが、話をもとに戻し、鬼サミットについて探りを入れ張ったわ。
「いや、知らん……」
「へ?」
「俺らは、ただこの鬼ヶ島に来い言われただけなんだ」
「なんや? ほな、さっきの『人間派』とか『鬼派』の話は?」
「あれは、噂じゃ。もっぱら、『週刊鬼デー』とかに書いてあることだ」
「ええ? 鬼の週刊誌のネタかいな? 脅かしよってからに」
ウチらは、ホッとしてみんなで黍団子を食べながら、たわいもない雑談を続けとったんや。その後の話でも、鬼の間で話題になっとるんは人間と鬼の関係みたいやゆうことは分かったんや。きっと『鬼サミット』でもそのあたりが話題になるんは間違いないわ。
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夕方、ウチらはシャトルに戻ったんや。そこで、みんなと情報交換になったやけど……。
「なあ、聞いてよ。あたしさ、カッコイイって褒められちゃった!」
「え? 香子はん、誰に褒められたん?」
「決まってるでしょ、ここには鬼しかいないんだから。すっごい上腕二頭筋のグレー鬼だったわ」
「お前、何を調べに行ったんだよ」
「煩いわね、徹ったら。いいじゃない、せっかくの鬼の衣装よ! きしるちゃんはどうだった?」
「わ、私は……やっぱりクルッと回れって……みんな怖い顔で言うから、仕方なく回ったの」
「おいおい、危ない目にあったんじゃないだろうな?」
「それがのお頑貝ちゃん、記誌瑠ちゃんが1回転したと思ったら、鬼達がみんな大笑いして浮かれだしたんだよ」
「……私……恥ずかしかったんだから!」
なんや記誌瑠はん、見せパンでもあんなに恥ずかしがってからに。そっか、ウチの時もそうやったけど、鬼は小っさいパンツがお好みなんね。
「まあ、そのお陰で鬼達がいろいろ話も聞かせてくれたから、記誌瑠ちゃんのお陰だったんだよ」
「なあ、記誌瑠はん、良かったやないの。それで、どんな話が聞けたの?」
記誌瑠はんと水野博士はんは、その鬼達から聞いた話をしてくれたんや。なんと、そしたらウチらと似たようなことが、やっぱり話されたみたいやの。
「なんや記誌瑠はんのとこも、『人間滅ぼす』ってゆうてたんか?」
「ええ、私達が会った鬼は、人間に酷いことされたからって理由らしいんだけど」
「どんな鬼なんだよ記誌瑠」
「確か、節分の鬼とか言ってたわ」
「まあ、それは仕方ないか。節分は全国の鬼が、単に鬼だからというだけで、豆をぶつけられるからな」
「だがね、ワシが聞いたところでは、そのことは今回の鬼サミットに関係あるかどうかは分からないらしいんだよ!」
「やっぱりそうなんやね」
「それでワシらも今晩の鬼サミットはどんな話題なのかは掴めなかったんだ」
「僕らのところの鬼は、『最近の人間は可哀そうだ』っていうんだ。そして、こんな人間ならいつか滅んでしまうんじゃないかっていうんだよ、な、香子君」
「そうなんだ。例えば、桃太郎がとっても軟弱になって相手にもならないって言ってたの」
「確かにあの時の桃太郎は、甘えっ子のどうしようもない奴だったもんな」
「それでもウチらで、鬼ヶ島に行くようにしたけど……」
「でも、あの時は鬼ヶ島だって、レジャーランドになってたんでしょ、きしるちゃん?」
「そうですね、私が見た鬼ヶ島はレジャーランドでしたね」
「それがさ、今回、あたし達が話をした鬼さん達は、まさにレジャーランドで仕事してた鬼だったのよ。彼らが言うには、このレジャーランドだって、桃太郎のリクエストだっていうのよね。レジャーランドでもなけりゃ、鬼ヶ島なんかには行かないって言うんだって」
「ちぇっ、あの時はそんなこと一言も言ってなかったのに、あのー桃太郎の奴」
「まあまあ、頑貝ちゃん。きっとそれはお伽噺の次元干渉効果ってやつだと思うよ」
「博士、なんっすか? 次元干渉効果って」
「うーん、簡単に言うと、お伽噺の中の辻褄合わせじゃな。たぶん、桃太郎の甘えん坊っていう性格が、鬼ヶ島をレジャーランドに変えてしまったんだよ」
「なんや、それじゃあ、今回の『鬼のサミット』も誰かのせいで、お伽話の世界に次元干渉効果が起きた結果ちゅうことなんやの?」
「おお、伽供夜君、冴えてるね! 今回、この鬼ヶ島は桃太郎が思い描いたレジャーランドじゃなくて、鬼サミットの会場に変化してるんだ。誰かが鬼サミットを企画してるってことだと思う。僕達は、その次元干渉効果をもたらしている『誰か』を見つけないとダメなんだよ、きっと!」
「え? でも、そんなの無理ちゃうん? ウチら鬼ばっかり見張ってたやさかい、他にはなんも探せてないんよ」
「いや、大丈夫だよ、伽供夜ちゃん。きっと『鬼のサミット』の話し合いの中でヒントが必ず出るはずだよ」
「さ、みんな博士の言う通りだ。勝負は今晩からの『鬼のサミット』だ。気合入れて行くぞ!」
なんや、社長はん、今回はやけに張り切ってるわ。いつもは、現場に来るんも面倒くさがってるのに。
(つづく)
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